半数に迫る高齢者…自動車乗用中の交通事故死者数の現状
高齢化社会の到来と共に、高齢者の自動車運転で無謀な、あるいは想像も難しい行為・判断による結果がもたらした死亡事故の話を見聞きする機会が増えている。高齢者比率の増加が続く人口構成比の変化の実態がある以上、死亡事故でも高齢者の数が増えるのは避けようがないが、実態として高齢者の死者数は交通事故全体のうちどれほどの割合を示しているのか。今回は2016年3月に警察庁が公開した、2015年中の交通事故の状況をまとめた報告書「平成27年中の交通死亡事故の特徴及び道路交通法違反取締状況について」の掲載データを基に、年齢階層別の自動車乗用中における交通事故死者数の動向を精査していくことにする。
まず最初に確認するのは、自動車乗車中の年齢階層別の死者数推移。公開されている元データから年齢階層区分を仕切り直し、未成年(19歳以下)、成年(20歳から64歳)、高齢層(65歳以上)の3区分に再構築を行ったものも併記する。今件はあくまでも自動車乗用中の事故により死亡した人の数を計上したもので、該当者が運転手であるとは限らない。一方、免許取得は日本の法令上16歳以上でないと不可能なため、15歳以下は原則的に「自ら運転している」状況は有りえないことに注意。
自動車乗用中の死者数は漸減の動きを継続中。2009年から2010年にかけてはわずかに増加したが、2011年には再び大きく減少し、そして2012年以降もその傾向は続いている。10年の経過でおよそ半分にまで減っていることになる。多種多様な努力に対し、相当な成果があったと見て良い(無論人口数の漸減もあるが、減少度合いは比べものにならない)。
また年齢階層別の人数では、未成年者や青年が減少傾向にある中で、高齢層は漸減から横ばいに推移している。2008年以降は600人前後で維持され、大きな変化はない。直近ではむしろ638人となり、増加トレンドへの転換の兆しすら見られる。これは高齢層の人口そのものの増加による上乗せと、安全対策の強化や医療技術の発達による減少作用が均衡、さらには高齢層の人口増加が勢いをつけてきたものと考えられる。
直近の年齢階層別の具体的な値を見ると、若年層では20代前半がやや盛り上がりを示しているのが特徴的。これは無謀運転などの影響によるものだろう。実際、他の年齢層と比べ、運転操作不適、わき見運転、安全速度などの安全運転義務違反による法令違反が元で死亡事故を起こした第1当事者の比率は、20代前半では高くなっている。それ以降は20代後半で一度大きく減少し、あとは漸次年齢と共に上昇していく。自動車の利用者数や頻度の増加、加齢に伴うリスクの増大などが要因と考えれば道理は通る。また60代後半から一段階の上昇が見られるが、これは該当年齢階層の人口そのものが多いのも理由の一つではある。
続いてこれを主要年齢階層別に区分し、各年毎に「全体数に占める比率」を算出したのが次のグラフ。高齢者の比率が漸増し、他の層が少しずつ減っている様子が見て取れる。
高齢層も死者数は2007年までは減少、2008年以降は横ばいに推移している。他方それより下の層は(人口そのものの漸減も一因だが)確実にその数を減らしており、結果として全体に占める高齢層の比率は少しずつ上乗せされる形となる。10年の経過で2倍近くの比率増加は、看過できない状況に違いない。現在では自動車乗車中の事故死亡者のうち5割近くが高齢者との結果が出てしまっている。
余談ではあるが、自動車だけでなくバイクなども含めた「原付以上の運転者」における死亡事件数(交通事故による死亡者数では無い)を、「各年齢階層の免許保有者数」を考慮して指標化すると次の通りとなる。直近と取得可能なもっとも古い値となる2005年の分を併記した。これなら「年齢階層によって人口数に対する免許取得者比率が異なる」状況を考慮しなくても済む。
すべての年齢階層で10年の経過により件数は大幅に減っており、少なくとも交通死亡事故の減少は年齢を問わずに生じているのが分かる。比率では高齢層の方が大きな減り方を見せているが、これは元々の値が高かったため。絶対数では今なお高齢層の方が高い交通死亡事故リスクが存在していることに違いは無い(16歳未満も事故件数そのものはカウントされているが、免許取得者は存在しないので、今件グラフでは値が計上されない)。
免許取得者あたりの交通死亡事故件数では未成年者同様、さらにはそれ以上を示している高齢者の該当事案は、今後絶対数でもさらに増加することが予想される。今後は今まで以上の対応が求められよう。
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