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ラグビー・リーグワンでMVPに輝いたSOモウンガ(BL東京)。引退したHO堀江をリスペクトする理由

斉藤健仁スポーツライター
今季のリーグワンD1でMVPに輝いたSOモウンガ(撮影:斉藤健仁)

 5月26日、東芝ブレイブルーパス東京が埼玉パナソニックワイルドナイツを24-20で下し、14シーズンぶりに王者となった。今季の「NTTジャパンラグビー リーグワン」ディビジョン1のMVPには文句なしで、ブレイブルーパスの優勝に大きく寄与したオールブラックス56キャップの司令塔SOリッチー・モウンガ(30歳)が輝いた。 

◇古豪を復活させたオールブラックスの司令塔

 クルセイダーズ(ニュージーランド)を昨季までスーパーラグビーで7連覇に導いていた〝優勝請負人〟は、「異なる世界のラグビーに貢献したい」「ブレイブルーパスは非常に素晴らしいチームで、チームが一つにまとまってハードワークして優勝したいという意欲に溢れていたので、自分もその一部になりたいと思ってやってきました」と3年契約で来日。

 4月にトンガ出身の父が急逝するという不幸も乗り越えて、SOモウンガはプレーオフ2試合を含む15試合で10番を背負い、決勝戦でも見事にゲームをコントロールし古豪を復活させた。 

 ブレイブルーパスのトッド・ブラッカダーHCは「世界の一流選手の中でも、リッチー(・モウンガ)ほど多く決勝の舞台に立った選手はそう多くはいないと思います。彼はチームに必要なことをシンプルにかつ明快に伝えてくれた」と話した。

 また今季、10年ぶりにキャプテンを務めた日本代表NO8リーチ マイケルも「リッチーの意思決定、一週間の過ごし方、試合のコントロールの仕方、そして選手やスタッフへの意識の持たせ方など、ラグビーのIQのレベルをもう一段階上げてくれた。試合運びやキックの入れ方、彼がどんなオプションを取ったか、決勝戦はそれが顕著に表れていた」と称えた。

決勝でも冷静なプレーを見せたSOモウンガ(撮影:斉藤健仁)
決勝でも冷静なプレーを見せたSOモウンガ(撮影:斉藤健仁)

◇「ファイナルはわずかな差で決着がつく」(モウンガ)

 決勝後、SOモウンガがまず話したのはワイルドナイツへのリスペクトだった。

本当に想像を超える素晴らしい決勝戦でした。まずは素晴らしい決勝を戦ってくれたワイルドナイツに感謝します。彼らのようなチームと戦えたことでベストな試合ができたし、彼らはリーグワンを高いスタンダードに上げてくれました。今日の決勝は観客やファンに見せられたことはとてもクールでした。またリーグワンがこれからどこへ向かって行くのかを示すものにもなったかな

 ただ、ファイナルは、ラストプレーのトライでワイルドナイツが逆転したかと思われた。ただTMO(テレビジョンマッチオフィシャル)の末、この試合で引退が決まっていたワイルドナイツのHO堀江翔太のパスが「前」と判定、ノートライ。結局、ブレイブルーパスが24-20で逃げ切った。 

 SOモウンガに最後の心境をたずねると「いろいろな感情がありました。残り時間わずかで試合に負けたと思ってグラウンドにいたのに、(国立競技場の)大型スクリーンに映し出されたボールを見たら、フォワードパスだった可能性を知りました。それがファイナルのラグビーです。ファイナルは、多くのドラマがあり、激しさがあり、ほんのわずかな差で決着がつく。今回もそうでした。おそらく(堀江のパスは)50cmほど足りなかったと思います。そうでなかったら話は変わっていたでしょう」と話した。

◇「ハッピー以上の言葉が見つからない!」

 ニュージーランドだけでなく、日本でチャンピオンになった率直な気持ちを聞かれてSOモウンガは「かなり新鮮です。でもシーズンスタート時にビジョンを持って、大会で優勝するために、やるべきことは変わらない。そして、ついにここに来ることができました。同じように幸せ、喜びを感じ、安堵感でいっぱいで、ハッピーという以上の言葉は見つかりません。

 シーズンの初めからチーム全員が今日の日を迎えるために全力を尽くしてきました。その努力が実を結んだことは夢のような気持ちですし、このチームで自分がプレーした今日という瞬間は素晴らしいものだと噛みしめています。また他の選手たちがこの瞬間を経験し、感じることができることを嬉しく思いますし、クラブもそれを経験できることに感謝しています。ですから今日みんなと成し遂げたことを本当に誇りに思います」とやや興奮した表情で話した。

ノーサイド後、歓喜を爆発させたSOモウンガ(撮影:斉藤健仁)
ノーサイド後、歓喜を爆発させたSOモウンガ(撮影:斉藤健仁)

◇ピッチ外でも「深い絆を作った」

 常勝軍団だったクルセイダーズ、そして優勝から遠ざかっていたブレイルブーパスで、アプローチは違ったのか。「クルセイダーズは長い成功の歴史を持っています。一方でブレイブルーパスは近年、成功から遠ざかっていました。ポテンシャルを引き出し、かつ東芝のラグビーをするベストな方法を導き出すことはとても難しいことです。ただ今シーズンはそこの適切なバランスが見つけられたと思います。でも、もっと改善できることはたくさんあるし、(今後)僕らは今季以上に成長できるチームだと思います」(SOモウンガ)

 逆に、両チームに共通することはあったのか――。少し考えながらSOモウンガは「チームが優勝するときに共通していることは、努力、人に対する思いやり、愛情、そして、楽しみながらやるのが好きなチームということです。

そして、ラグビーとは関係ないことでも、似ていると思うことがたくさんあるし、そちらの方が大事だと思うこともあります。ラグビー面で言えば当然、フィールドでのプレースタイルですが、文化面で言えば人とのつながりや気遣いで、それはフィールド内にはとどまりません。日常の中で一緒にランチを取ったりコーヒーを飲んだり、そういったささやかなことのすべてがフィールドでラグビーをする上で大切になってきます。そして自分の友人、チームメイトを深く理解すること、どこの出身か、家族や奥さんなど、そういうことを理解することでより深い絆を作れます」と話した。

14シーズンぶりに日本一の栄冠に輝いたブレイブルーパス(撮影:斉藤健仁)
14シーズンぶりに日本一の栄冠に輝いたブレイブルーパス(撮影:斉藤健仁)

◇来季は「もっとクリエイティブにならないといけない」

 今季、リーグワンのタイトルと、MVPや「ベスト15」と個人「3冠」に輝き、4冠を達成したSOモウンガ。どの賞が一番嬉しい?と聞くと、当然のように「リーグワンのタイトルです!」と語気を強めた。「私は最高の選手になりたいとか、自分が注目されたいとか、自分の力を試したいという思いで日本に来たわけではありません。優勝するためにブレイブルーパスに来たし、ブレイブルーパスも自分を加入させたと思います。今は肩の荷が下りて楽になりましたね」。

 優勝した夜は「ビールを飲んで、笑って、歌って、踊って、しかるべきお祝いをしました」と笑顔で話した。来季に向けての話をふると、SOモウンガは「変わらなくていけません。同じことをやり続けて連覇できるチームはありません。さらに成長が必要です」と語気を強めた。

 そして「それは自分がまさにクルセイダーズで最初に経験したことで、チームは毎年、進化していきます。既存の枠にとらわれず、もっとクリエイティブにならなければいけない。そして今回の優勝が自分たちグループにとっての挑戦になります。この優勝で満足してしまっているのか――。そうでなければ、もっと追い求めることができます。満足しているのなら、私たちはただ タイトルを1つ獲得しただけのチームで終わるでしょう。それは自分たち次第なのです」と続けた。

決勝は日本ラグビー界のレジェンドHO堀江のラストゲームとなった(撮影:斉藤健仁)
決勝は日本ラグビー界のレジェンドHO堀江のラストゲームとなった(撮影:斉藤健仁)

◇「堀江さんは日本ラグビーに大きな貢献をしてくれた」

 ノーサイド後、SOモウンガはHO堀江に自ら握手を求めていた。その意図を聞くと、SOモウンガは「日本に来て日が浅いですが、日本に来たからには、日本のラグビーのレジェンドたちのことをよく理解しなければなりません。リーチや堀江さんは日本のラグビーに大きな貢献をしてきました。ラグビー界のレジェンドたちが日本のラグビーを支えて発展させてきたのです。

堀江さんはワイルドナイツだけでなく、日本のラグビーに大きな貢献をしてくれた、日本のラグビーを押し上げてくれた。(堀江さんという)レジェンドがピッチを去るというこの日にこれだけのお客さん(56,486人)が集まってくれたことが物語っています。ありがとうございました」と敬意を示した。

 SOモウンガは優勝後、「ウォーム」というダンスを少し踊ってみたり、表彰式では「(MVPの賞金100万で府中に)家を買うよ!」と冗談を飛ばしてみたりと、やっと、5月25日に30歳になったばかりの青年らしさを見せた。ただ今季は最後までピッチ内外で、日本の若いラグビー選手にとっても模範となる態度をとり続けた。

 来季も、連覇に挑むSOモウンガ、そしてブレイブルーパスから目が離せない。

今から、来季のSOモウンガのプレーが楽しみだ!(撮影:斉藤健仁)
今から、来季のSOモウンガのプレーが楽しみだ!(撮影:斉藤健仁)

スポーツライター

ラグビーとサッカーを中心に新聞、雑誌、Web等で執筆。大学(西洋史学専攻)卒業後、印刷会社を経てスポーツライターに。サッカーは「ピッチ外」、ラグビーは「ピッチ内」を中心に取材(エディージャパン全57試合を現地取材)。「高校生スポーツ」「Rugby Japan 365」の記者も務める。「ラグビー『観戦力』が高まる」「ラグビーは頭脳が9割」「高校ラグビーは頭脳が9割」「日本ラグビーの戦術・システムを教えましょう」(4冊とも東邦出版)「世界のサッカー愛称のひみつ」(光文社)「世界最強のGK論」(出版芸術社)など著書多数。学生時代に水泳、サッカー、テニス、ラグビー、スカッシュを経験。1975年生まれ。

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