日銀の金融政策とは何か
金融政策でデフレは解消できるのでしょうか。2013年1月22日の金融政策決定会合で、日銀は政府からの要請のあった「物価安定の目標」を導入することを決定しました。2012年2月に決めた物価安定の目途を修正し、目途(Goal)を目標(Target)とした上で、その目標を消費者物価指数(除く生鮮食料品)の前年同月比の上昇率で2%としたのです。
日銀の金融政策決定会合は、日銀の役員である政策委員が多数決により金融政策を決めるというものです。日銀の政策委員は、日銀総裁と二人の副総裁、そして六人の審議委員で構成されます。日銀の政策委員は、政府により選出され国会の同意が必要とされます。そのぐらいに金融政策を決めるメンバーは重要であるとともに、金融政策は政府が決める財政政策と同様に日本の金融経済に大きな影響を与えることは確かなのです。
自民党の安倍晋三総裁は、日銀がこの金融政策決定会合で物価上昇率目標の設定を見送れば、日銀法改正に踏み切る考えを明らかにしていました。「次の会合で残念ながらそうでなければ、日銀法を改正して、インフレターゲットをアコード(政策協定)を結んで設ける」と述べていたのです。つまり、日銀法改正をちらつかせて日銀に物価目標を導入するように迫ったのです。
何故、日銀に物価目標(インフレターゲット)の導入を迫ったのでしょうか。インフレターゲットやアコードとは何でしょうか。それを理解するためには、まず日銀の金融政策のお話をしておかなければなりません。
中央銀行の役割については、学生時代の政治経済の教科書などにも書かれていたと思いますので、それをまず思い出してください。
ひとつは発券銀行としての役割で、日銀はお札を発行できる唯一の銀行です。そして銀行の銀行という役割があります。民間の金融機関は日銀に当座預金口座を持っています。これを通じて民間銀行から預金を受け入れたり、民間銀行はその預金を引き出したりします。ちなみに民間銀行が日銀の当座預金から預金を引き出すことが、日銀券の発行ということになります。
民間金融機関は日銀の当座預金に一定の金額を残すことが義務づけられています。預け入れなければいけない最低金額を「法定準備預金額」あるいは「所要準備額」といいます。それを超える部分が超過準備と呼ばれ、これには0.1%の利子がついています。この超過準備の付利の引き下げや撤廃についても現在、議論されています。
中央銀行の役割には、政府の銀行という役割があります。現在の財務省は昔、大蔵省と呼ばれていましたが、大蔵省には蔵というか金庫はなく、その役割は日銀が担っているのです。政府も日銀に当座預金口座を持っています。
民間銀行同士のお金のやり取りも日銀の当座預金を通じて行われることが多く、日銀は日本のお金の流れの胴元といえる機関なのです。日本中で使われる日々のお金はその時々の状況により、出入りがあります。
たとえば年末年始を考えて見てください。銀行は年末年始は営業していません。このため、銀行が休みの前にある程度必要なお金を引き出す人が多くなります。つまりそれだけの資金が必要になるため、日銀はその資金をオペレーションを通じて市場に供給します。反対に年末年始の休みが終わるとデパートやスーパーなどはその間の売上金を今度は銀行に預けます。つまり市場には今度はお金が溢れることになります。その資金を通常であれば日銀はオペレーションで吸収します。日銀のオペレーション(オペ)とは、民間の金融機関の保有する国債などを購入して資金を供給したり、日銀保有の国債を売却して資金を吸収したりするものです。ただし、保管当座預金制度(超過準備に付利をつける措置)が政策金利の過度な低下を防ぐ役割となったことや、2010年10月の包括緩和政策で実質的なゼロ金利政策が再び導入されたことから、2009年度以降は資金吸収オペは実施されていません。
これが日銀の資金調節と呼ばれるもので、金融機関同士が資金を融通し合う場である短期金融市場における資金量を調節することで、金利の跳ね上がりや急低下を抑え、ある一定の水準に誘導します。そのある一定水準というのが、金融政策における目標となっており、これを政策金利と呼んでいます。この政策金利を誘導するのが本来の意味での金融政策なのです(伝統的手段)。政策金利を上げ下げが、金融機関が企業に資金を貸し出す場合の金利などに波及することにより、日本の経済活動全体に金融政策の影響が及んでいくとされています。