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異例ずくめのカタールW杯。欧州の強豪国との対戦を控える日本代表に重くのしかかる決定的ハンデとは?

中山淳サッカージャーナリスト/フットボールライフ・ゼロ発行人
(写真:ロイター/アフロ)

過去のW杯と大きく異なるポイント

 4年に一度のW杯。しかし、今回のカタールW杯に限って言えば、過去のW杯とは大きく異なることがある。

 ひとつは、通常のW杯はヨーロッパのシーズンを終えた後の6~7月に開催されるが、今回のカタール大会は、気候の問題により11~12月に開催されること。それにより、参加選手の多くがプレーするヨーロッパの各リーグや大会は一時的に中断され、日本でもJリーグ最終節が11月5日に設定されている。

 もうひとつは、2020年冬に始まったパンデミックの影響だ。

 その影響は各大陸予選の試合日程におよび、日本代表がそうだったように、各チームは息つく暇もないほどの超ハードスケジュールのなかで予選を消化することを強いられた。

 もっとも、カタール大会が通常よりも半年遅れの開催だったことは、大会を主催するFIFA(国際サッカー連盟)にとっては、不幸中の幸いだった。今回の大陸間プレーオフは6月に行われるが、これまでのW杯であれば、その日程だとすべての出場チームを本大会前に決められなかった可能性もあるからだ。

 ただし、出場チームにとっては、マイナス面が多い。とりわけ本大会の準備期間は大幅に短縮され、通常のW杯とは異なる要素として少なくない影響を与える。日本代表の本大会出場決定から本番までの準備期間だけを見ても、その違いは一目瞭然だ。

 たとえば、前回2018年ロシア大会の場合、日本が予選突破を決めたのは、2017年8月31日のオーストラリア戦。その後、9月5日に最終節(サウジアラビア戦)を戦った日本には、約9ヶ月の準備期間があった。

 その間、ハリルホジッチ監督の下で9試合、西野監督の下で3試合の強化試合を戦ってから、本番に挑むことができた。

 ちなみに12試合の対戦相手は、ハリル時代はニュージーランド(ホーム)、ハイチ(ホーム)、ブラジル(欧州遠征)、ベルギー(欧州遠征)、日本開催のE-1サッカー選手権で北朝鮮、中国、韓国、そしてマリ(欧州遠征)、ウクライナ(欧州遠征)。そして西野時代は、ガーナ(ホーム)、スイス(欧州直前合宿)、パラグアイ(欧州直前合宿)。

 W杯登録メンバーが結集し、いつものように本番前の事前合宿を設けることもできた。

 過去を振り返れば、プレーオフ(アジア第3代表決定戦)経由で初出場を果たした98年大会と、開催国として予選を戦わなかった2002年大会を除けば、余裕を持ったスケジュールで本大会に向けた準備ができていた。

 06年ドイツ大会、10年南アフリカ大会、14年ブラジル大会では、それぞれ約1年の準備期間があった。

 その中でこなした強化試合数は、06年大会のチームが20試合、10年大会のチームが17試合、そして14年大会のチームも17試合。06年ジーコジャパンと14年ザックジャパンの時代には、W杯前年にコンフェデレーションズカップに出場し、強豪国との真剣勝負も経験できた。

 しかし、今回の森保ジャパンには、約8ヶ月の準備期間の中で、わずか6試合しか強化試合を組むことができないうえ、実質的には事前合宿を行う時間もない。

 そしてその強化試合も、ネーションズリーグを戦うヨーロッパ勢や北中米カリブ勢、あるいはネーションズカップ予選を戦うアフリカ勢と対戦することが難しく、南米勢、アジア勢、オセアニア勢との強化試合を組むしかない。

 しかも、昨年から16試合を戦った森保ジャパンが対戦した相手は、21年6月のセルビア戦(国内親善試合)を除けば、アジア勢のみ。その多くが格下相手で、互角以上の相手と戦った試合は、一昨年秋の欧州遠征まで遡らなければならない(カメルーン、コートジボワール、パナマ、メキシコ)。

 アジア最終予選の相手と、ドイツ、スペインとの実力差は、想像以上に大きい。そのうえ、ドイツもスペインも、ネーションズカップではほぼ同じレベルの相手と真剣勝負を戦いながら、W杯本番に向けた強化を同時に行えるアドバンテージがある。

 今大会が、いつも以上にヨーロッパ勢優位と言われる理由だが、ヨーロッパの強豪2チームと同じグループに組み込まれた日本にとっては、極めて厳しい状況だと言わざるを得ない。

 そうでなくても、現在の日本代表にはUEFAチャンピオンズリーグを戦うクラブでプレーする選手が限られており、リバプールの南野拓実にしても、そこでのプレータイムは極めて限定的だ。

 そういった各選手の日常的なプレー環境を考えても、日本代表が抱えるハンデは大きい。

 現在、6月の国内4試合のうち、パラグアイとの対戦(2日)が決定したほか、ブラジルとの試合(6日)も正式に発表されたが、9月の2試合も含め、どこまでハイレベルな相手と対戦できるかは、これまで以上に重要なポイントになることは間違いない。

 今後、JFA(日本サッカー協会)から発表される強化試合の対戦相手は、どの程度のレベルのチームになるのか。JFAのマッチメイク能力が、いつも以上に問われそうだ。

サッカージャーナリスト/フットボールライフ・ゼロ発行人

1970年生まれ、山梨県甲府市出身。明治学院大学国際学部卒業後、「ワールドサッカーグラフィック」誌編集部に入り、編集長を経て2005年に独立。紙・WEB媒体に寄稿する他、CS放送のサッカー番組に出演する。雑誌、書籍、WEBなどを制作する有限会社アルマンド代表。同社が発行する「フットボールライフ・ゼロ」の編集発行人でもある。

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