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菅総理の「最終的には生活保護」を実現するために

大西連認定NPO法人自立生活サポートセンター・もやい 理事長
生活保護の関係法令や通知等をまとめた「生活保護手帳」撮影筆者

菅総理の「最終的には生活保護」を実現するために

1月27日の参議院予算委員会において、菅総理が新型コロナウイルス感染拡大の影響で生活に困窮する人たちへの支援について「最終的には生活保護」と発言しました。

菅首相「最終的には生活保護」 新型コロナでの困窮者支援で持論、野党から批判(毎日新聞)

いくつかのメディアでも報道されたほか、SNS等でも多く言及されています。

実は、私は、この1月27日の参議院予算委員会に参考人として招致されていて、この発言を目の前で聞いていました。

私自身が参考人としてこの日、国会に招致されたのも、まさにこのコロナ禍での生活困窮者の状況や、必要な支援策について答弁をするためでした。

私が答弁した内容については下記をご参照ください。

国会で「参考人」として話してきたこと|大西連

総理の発言にあるように、困ったときに「最終的には生活保護」というのは、その通りですし、そのために生活保護は「最後のセーフティネット」として存在しています。

しかし、私も自分の答弁のなかで話していますが、生活保護の制度自体がもつハードルによって本来利用できる人の利用が進まないことや、生活保護の手前のセーフティネットが脆弱であることなどにより、「最終的には生活保護」となっていない現状もあります。

菅総理の「最終的には生活保護がある」を実現するために何が必要か、以下に解説します。

■コロナ禍で増加する生活困窮者

私の所属する〈もやい〉でも、このコロナ禍では、例年に比べて相談件数が1.5~2倍以上の状態が続いています。

また、緊急事態宣言の影響も大きく、2020年4月以降、コロナ禍での支援として毎週土曜日に新宿で食料品の配布と相談会をおこっていますが、コロナ禍の前は60~80人の方がいらっしゃる状況だったのが、4月頭には120人、4月末には150人、5月末ごろには約180人と、急激に増加しました。

7月以降は毎回150人ほどに落ち着きましたが、150人を下回ることはなく、2021年1月の再度の緊急事態宣言を受けてからは200人をこえ、直近の1月23日では約240人と、例年の3倍を超えています。

これは、あくまで一つの支援現場の数字でしかありませんが、1年ほど続くコロナ禍で生活が苦しくなった方が多く存在することは間違いありません。

■生活保護の利用をためらう人が多い

派遣、契約、日雇いなどの非正規労働者や、フリーランスや業務委託など、もともと不安定な働き方をしていた方に多くのしわ寄せがいっています。より弱い立場の人に失業や収入の減少などの影響が出ていると言えます。

一方で、そういった状況の方で多く利用が進んでいるのは、生活保護ではなく「貸付」の仕組みとなっています。

この「貸付」は、生活福祉資金の特例貸付といい、「緊急小口資金」と「総合支援資金貸付」との2つを指します。

緊急小口資金貸付は、「緊急かつ一時的な生計の維持」のための20万円を上限とした無利子・無担保の貸付制度。

総合支援資金貸付は「生活再建までの間に必要な生活費用」のための月額15~20万円を上限とする原則3ヶ月(状況により3か月の延長あり)の無利子・無担保の貸付制度です。

厚労省:生活福祉資金

この「貸付」ですが、厚労省によれば、2020年3月25日~2021年1月16日まで、すでに累計で1,424,950件が支給決定され、貸付の総額は5,721億円にものぼります。

2019年度の貸付件数が約1万件であったことを考えると、前代未聞の件数であることがわかります。

そして、これだけ「貸付」の利用が進んでいる背景には、生活保護を利用できる経済状況の方で、利用をためらう方が残念ながら非常に多いということがあります。

■生活保護は「権利」

厚労省や田村厚労大臣も昨年末より、生活保護は権利であること、ためらわずに必要な方は申請をしてほしい、ということを積極的に発信しています。

厚労省HP:生活保護を申請したい方へ

厚労省HPより
厚労省HPより

私もためらわずに申請してほしい、と強く思っています。

■「扶養照会」という問題

一方で、生活保護のハードルとなっているものに「扶養照会」というものがあります。

生活保護において、家族や親族の「扶養」は「義務」ではなく「保護に優先する」ものとされています。

具体的には、生活保護法第4条2項に

「民法(明治二十九年法律第八十九号)に定める扶養義務者の扶養及び他の法律に定める扶助は、すべてこの法律による保護に優先して行われるものとする。」

とあります。

そして、扶養が可能かどうか扶養義務者(家族親族)に対して連絡することを「扶養照会」と言います。

この「扶養照会」について、直近では、厚労省は2020年9月11日に「現下の状況における適切な保護の実施について」という事務連絡を発出しています。

この事務連絡によれば、以下の場合、扶養照会をしなくていいと明記しています。

・被保護者、社会福祉施設入所者、要保護者の生活歴等から特別な事情があり明らかに扶養ができない者並びに夫の暴力から逃れてきた母子等当該扶養義務者に対し扶養を求めることにより明らかに要保護者の自立を阻害することになると認められる者であって、明らかに扶養の履行が期待できない場合

・長期入院患者、主たる生計維持者ではない非稼働者、未成年者、概ね70 歳以上の高齢者等

・20年間音信不通である等、明らかに交流が断絶している場合

このように、「扶養照会」をおこなえる条件というのは、現行の仕組みでも限られていると言えます。

しかし、実際に自治体の窓口(福祉事務所)においては、この事務連絡通りの対応がなされずに、一律に家族に連絡をする、もしくは、窓口でその旨をちらつかせて申請の意思をくじく、といった不当な対応をおこなってしまう事例が多く発生しています。

また、窓口に行く以前に「扶養照会」を理由に申請をためらったり、申請することをやめてしまう方も多くいます。

■「最終的には生活保護」を実現するために

支援現場にいて、この「扶養照会」を理由に生活保護の申請をためらってしまう方が多くいる現状を、なんとか変えていかなければならないと感じています。

必要な方が必要な支援を利用することに対してブレーキをかけてしまうことは、本来あってはならないことだと思います。

「扶養義務」を求めない、というような生活保護法改正をしていただきたいと思いますし、コロナ禍での特例的な対応でもかまわないので、原則として「扶養照会をおこなわない」取扱いとできるように制度変更していくことが求められています。

「最終的には生活保護」が実現するためにも、生活保護の手前のセーフティネットの整備も急務ですが、生活保護の「扶養照会」をなくす、という対応も、どちらも早期におこなっていく必要があります。

以上

認定NPO法人自立生活サポートセンター・もやい 理事長

1987年東京生まれ。認定NPO法人自立生活サポートセンター・もやい理事長。新宿での炊き出し・夜回りなどのホームレス支援活動から始まり、主に生活困窮された方への相談支援に携わっています。また、生活保護や社会保障削減などの問題について、現場からの声を発信したり、政策提言しています。主著に『すぐそばにある貧困」』(2015年ポプラ社)。

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