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で、GoToトラベルは感染増に影響したのか-再開か停止かもまたムード?

瀧澤信秋ホテル評論家
(写真:つのだよしお/アフロ)

GoToトラベルと感染拡大そしてエビデンス

緊急事態宣言が出された1月7日、自民党本部で観光立国調査会幹部会が開催、二階幹事長をはじめ観光関係の議員や観光庁等と、宿泊・旅行・交通といった観光事業の代表者・関係団体との意見交換がなされた。もちろん早期のGoToトラベル再開という要望が出されたことは言うまでもないが、再開か停止継続か-観光とコロナ関連のデータやエビデンスということでいえば、GoToトラベルと感染の因果関係についても目下注目されるテーマのひとつだ。

すなわち、2020年後半に実施された観光需要喚起キャンペーン(観光支援事業)であるGoToトラベルが、新型コロナウイルスの感染拡大に影響しているのか否かという問題である。観光業界を中心に感染拡大との因果関係はないというデータや意見を散見する一方、1月25日には「GoToトラベルが新型コロナウイルスの感染拡大に影響した可能性があるとする研究論文を京都大学のグループが発表」というニュースが拡散したし、それ以前にも観光庁のデータにまつわる同様の報道など、GoToトラベルと感染拡大の因果関係を匂わすニュースも注目された。

ここではニュースの引用はしないが、それぞれの立場で「それ見たことか」「そんなデータやニュースは価値がない」など喧々囂々と意見が飛び交っているのはまた当然といえる。では「GoToトラベルで感染が拡大したか否か」と問われれば、筆者にとっては“よくわからない”というのが正直なところだ。ここまで読み進めていただいた読者の方から“ふざけるな”とお叱りを受けそうだが、個人的なSNSからの発信ならまだしも、少なくともメディアから評論家としての記事発出に資するレベルのデータやエビデンスを探しても、とにかくいまは錯綜としている状況だ。

確かに、GoToトラベルで人々の長距離移動が増加したことは間違いなく、ウイルスが人を介して感染するならば、単純に人が移動すれば感染の可能性が上がることになるわけで、多くの人の移動を促す(キャンペーン)=感染拡大へ影響という見方も理解出来る。一方で「少なからず影響」「影響力」「大勢に影響しない」という言葉遊びのような話で恐縮であるが、何をもって影響があったとするのかという定義付けは議論の大前提だろう。ここで言うところの影響の意味は、なんていちいち前置きなんてややこしいが。

話を戻して、GoToトラベルではなく「GoToイート」の方が問題だったという意見もある。とはいえ、トラベルにはイートはつきものだろうし、GoToトラベルの地域共通クーポンは多くの飲食店で使用可能だった。トラベルとイート/地域共通クーポンとGoToイートの実質的な違いや境界線もまたよくわからない。そもそもスタート前倒し時から制度改変連続&ゴールポスト動きまくりのGoToそのものも昨春に発表された内容からかなり変化してきた。

そもそも“うやむや・あいまい”の事象は議論のたたき台にすらならないが、そうした前提はさておき、少なくとも影響があったか無かったのかを検討する際には、地域共通クーポンの利用可能な店舗数は当然として、クーポン利用額等のデータも必要になるだろう。皆が頷くような確固たるエビデンスやデータが存在するのならば事態は変わってくるのかもしれないが、いまだ多く国民を納得させる信用・納得させるデータやエビデンスが大きく拡散されていないのはまた事実といえる。

写真:アフロ

ムードの支配

一方で、ホテル評論家として筆者から言えるのは、観光に限ってみてもコロナ禍においては一貫してムード(気分・情調・雰囲気)が大きく支配してきたという点だ。

●緊急事態宣言で出歩けないムード

●宣言明けで一気に活動していいムード

●GoToで観光産業が盛り上がるムード

●GoToだから出歩いてもいいんじゃねぇ的ムード

●感染者増加でGoTo停止のムード

●緊急事態宣言だけどみんな出歩いているからいいんじゃねぇ的ムード・・・

正しい(と信じる)データを出し続けることが重要なのは言わずもがな。一方で誤解を恐れず言うとムードは実に大切だ。ムードで多くの人々が動く(動かすことが出来る)。ムードを支配出来るのはある意味で最強ともいえるだろう。筆者は仕事柄、ホテルなどの広報・PRやブランディングにも精通していると自負しているが、世論を動かすのはエビデンスやデータよりも(あるいはそうした原拠から作られる)ムードではないか?と思うほどだ。

鈴木博毅氏の「超」入門 空気の研究という本に「日本では、どのムラに所属するかによって、「物の見方」や善悪の基準が大きく変わる」という部分があるが、立場や所属といったそれぞれの場所のムードもまた、コロナ禍の人々の行動においては各々が理解する必要がある。観光業界関係者がGoToトラベルと感染症拡大の議論で“国民全体でみれば旅行の移動は1%に過ぎない”“GoToトラベルと感染症拡大の因果関係を示すデータはないことこそ本質”という主張があった。

逆に捉えれば、多くの人々は「日々の生活をどうするか」という中で旅行にすら行けないということであり、直情的なムードが支配する中で因果関係がないという確固たるエビデンスを示したところで、国が二分するような渦中に世論を変えることはできるのだろうか。いずれにせよ本質という点でいえば、いかにムードを支配できるのかを首尾一貫して意識していることは何ごとにおいても肝要だ。

難しいアクセルとブレーキ

一層の自粛を/経済を回せと意見がはっきり割れるような世情であれば(高度かもしれないが)ムードの逆張りも重要である。GoToトラベルでとにかく印象に残っているのはアクセルを踏みまくっていた業界そしてメディアだった。

テレビのワイドショーで煽り煽られ疲弊したGoToホテル現場の悲鳴(Yahoo!ニュース(個人)瀧澤 信秋)

では、業界側の情報拡散においてそんなブレーキ役がいるのか?ということになるが、多様化するメディアという点も鑑み、情報拡散やムード作りに戦略性とバランス感覚が求められることは間違いない。情報拡散という点でいえば、たとえば血の滲むような各ホテルの感染症対策の努力にまつわる発信もバラバラだったが、そうした動きを取り纏めたり、逆張り抑制の情報拡散にしても、世論のムードを変えていくような強い発信を続けていたらGoToムードも変わっていたかもしれない。1本よりも3本の矢は強い。

一方、前出の鈴木氏の本では「「ロジック」や「データ」を重視するよりも、「ムード」や「空気」に流されやすい国民性」という部分もあったが、ゆえにコロナ禍は、ムードや空気の重要性を知る機会とも感じている。観光産業は必ず復活する。原理的な意味では人々の気持ちの中では観光したくなくなっているわけではない。コロナがなければ旅をしたいという人は多い。

無論個々の宿泊施設では難しいが、盛り上がれば盛り上がるほど業界側自らが敢えてブレーキを踏むような、“世の中がおやっ意外!?”と思う情報拡散やムード作り。逆張り的に世間に意識を根付かせるという意味での高度なブランディングは、イザという時に新たな信頼を得られるかというムードにも功を奏すかもしれない。

そうした点で気になったのが冒頭に書いた観光立国調査会幹部会のニュースだ。GoToトラベル停止か継続かも含め世論が拮抗するピリピリとした中、ステイホームも呼びかける緊急事態宣言の日というタイミングは敢えて何かの狙いがあったのかと邪推してしまった。「観光業界は一丸となってコロナ対策に真剣に向き合っています」「感染拡大防止第一でその上でこうしたデータがあります」「その上でGoTo再開を希望します」というアピールする場にもなるムード作りのひとつのチャンスだったのにと思ったのは筆者だけだろうか。

*   *   *

感染予防、対策、抑制と共に、繰り返すが正しい(と信じる)データを出し続けることは重要であることは言うまでもない。そして、データやエビデンスが世論やムードを変えることもある。一方、ムードを支配できるような情報発信力はコロナ禍においてますます重要になってくるといえるだろう。

ホテル評論家

1971年生まれ。一般社団法人日本旅行作家協会正会員、財団法人宿泊施設活性化機構理事、一般社団法人宿泊施設関連協会アドバイザリーボード。ホテル評論の第一人者としてゲスト目線やコストパフォーマンスを重視する取材を徹底。人気バラエティ番組から報道番組のコメンテーター、新聞、雑誌など利用者目線のわかりやすい解説とメディアからの信頼も厚い。評論対象はラグジュアリー、ビジネス、カプセル、レジャー等の各ホテルから旅館、民泊など宿泊施設全般、多業態に渡る。著書に「ホテルに騙されるな」(光文社新書)「最強のホテル100」(イーストプレス)「辛口評論家 星野リゾートに泊まってみた」(光文社新書)など。

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忌憚なきホテル批評で知られる筆者が、日々のホテル取材で出合ったリアルな現場から発信する辛口コラム。時にとっておきのホテル情報も織り交ぜながらホテルを斬っていく。

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