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森保監督はなぜ30代ベテランを軒並み外したのか? 新生・日本代表初陣26人選考を読み解く

元川悦子スポーツジャーナリスト
吉田麻也(左から2人目)と長友佑都(右端)ら不在の中、新生日本代表が船出する(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

30代はシュミット、遠藤、伊東の3人だけでスタート

 3月24・28日のウルグアイ・コロンビア2連戦から2026年北中米ワールドカップ(W杯)に向けての強化をスタートさせる第2次森保ジャパン。今回選出されたメンバー26人を見ると、2022年カタールワールドカップ(W杯)組が16人、それ以外が10人。初招集は角田涼太朗(横浜)、バングーナガンデ佳史扶(FC東京)、半田陸(G大阪)、中村敬斗(LASKリンツ)の4人で、「過去4年間の継続」が色濃く感じられる陣容だ。

 こうした中、注目すべき点の1つが年齢構成。30代はシュミット・ダニエル(シントトロイデン・31歳)、遠藤航(シュツットガルト・30歳)、伊東純也(スタッド・ランス・30歳)の3人だけで、DF陣の最年長が26歳の板倉滉(ボルシアMG)という若さである。

 実際、カタールW杯メンバーで今回選外となった10人のうち7人が30代。これまでキャプテンを務めていた吉田麻也(シャルケ)が先月「(自分が招集されるかは)監督次第。どこを見るかじゃないのかな。現時点を見るのか、4年後を見るのか、1年後を見るのか。僕には分かりません」と話していたが、森保監督はあえて2026年にフォーカスし、若い世代にチャンスを与えたということだろう。

 確かに今年は11月からW杯2次予選が始まるものの、3・6・9・10月の活動は全てフレンドリーマッチ。となれば、割り切ってテストをした方がいいと判断するのも理解できる。2024年1~2月のアジアカップ(カタール)で本気でアジアの頂点を取りに行こうと思うなら、その時点で足りないところだけピンポイントでベテランを呼び戻すのもありだろう。ただ、現時点では「できる限り、若い世代を育てていく」というポリシーを指揮官は貫こうとしている。それが鮮明になった初陣の選考と言っていい。

次の3年間、日本代表をリードする1人になりそうなシュミット(筆者撮影)
次の3年間、日本代表をリードする1人になりそうなシュミット(筆者撮影)

川島永嗣、権田修一不在のGK陣はシュミット中心に新たな競争

 各ポジションを見ていくと、まずGKだが、カタールW杯唯一の経験者であるシュミットが今後の軸を担うことになりそうだ。本人も「次の2026年北中米W杯に選ばれなかったら、カタールに行けた意味もない。とにかく成長して3年半後の大舞台に立ちたいと強く思います」と語気を強めており、自覚は十分だ。

 今冬の欧州移籍市場で権田修一(清水)の欧州再挑戦が実現しなかった通り、日本人GKが海外に赴くのは想像以上にハードルが高い。そういう意味でも現時点ですでに4シーズンの実績を積み上げるシュミットの経験値は大きい。もちろん東京五輪世代の大迫敬介(広島)と谷晃生(G大阪)もポテンシャルはあるし、今後は圧倒的な身体能力を誇る鈴木彩艶(浦和)も候補に入ってくるかもしれないが、まずはシュミットに大黒柱としての安定感を求めたい。

CB陣は板倉らカタール組が中心、新顔の多いSBは新たなサバイバルへ

 センターバック(CB)に関しては、カタール組の板倉、冨安健洋(アーセナル)、伊藤洋輝(シュツットガルト)を軸に、昨年9月の欧州遠征に呼ばれた瀬古歩夢(グラスホッパー)、新戦力の角田が加わる形。左サイドバック(SB)が人材難であることから、伊藤は主にそちらに回り、角田も両にらみで準備する形になるだろう。

 こうした中、冨安が15日(日本時間16日未明)のUEFAヨーロッパリーグ(EL)・スポルティング・リスボン戦で負傷交代。今回の代表招集を回避する可能性が高まったため、板倉の存在がより大きくなりそうだ。板倉のW杯と所属クラブでの安定感を踏まえると、絶対的リーダー格と位置づけていい。「吉田に代わるキャプテン候補」という見方も出ている人材だけに、これまで以上の強いリーダーシップを期待したい。

 右SBの方はオランダ1部で優勝争いをしているAZの主力・菅原由勢に、シントトロイデンでフル稼働している橋岡大樹、パリ五輪世代の成長株・半田が挑む構図。ただ、菅原も2020年10月のカメルーン戦終盤にわずかにピッチに立っただけで、橋岡も国内組だけで挑んだ2019年E-1選手権で2試合に出たことがある程度。A代表実績は皆無に等しい。そういう意味では横一線の競争になりそうだ。

今季の菅原は大いに自信をつけているだけに期待大だ
今季の菅原は大いに自信をつけているだけに期待大だ写真:REX/アフロ

 ただ、森保監督が2月の欧州視察時にわざわざAZまで足を運んでチェックしたように菅原への期待値が高まっているのは確か。「由勢は、チーム内の立ち位置が明らかに変わっている。以前はレギュラーを取るために戦っていたが、今はチームの中心として信頼されながらプレーしていると感じた」と太鼓判を押していただけに、ファーストチョイスになりそうな予感が漂っている。

 左SBは前述の通り、今回は伊藤、角田、バングーナガンデの3人だが、まずは伊藤が試合に出るだろう。とはいえ、伊藤もシュツットガルトではほとんどCBで、本職とは言えない。3人の中で唯一のスペシャリストと言えるのがバングーナガンデだが、まだ若くて経験不足で、守備力の課題もある。そういう選手をどう育てていくのか。日本にとって最大の弱点と言ってもいい同ポジションのレベルアップが3年後の成功のカギになりそうだ。

鎌田はボランチ? それとも攻撃的MF?

 ボランチについては、カタールW杯組の遠藤、守田英正(スポルティング・リスボン)、田中碧(デュッセルドルフ)に、状況次第ではあるが、鎌田大地(フランクフルト)も加わる形になるかもしれない。鎌田は今季クラブでボランチを主戦場としており、いい味を出していた。3月15日のUEFAチャンピオンズリーグ(CL)・ナポリ戦で2列目左という変則的ポジションで起用され、輝き切れなかったところを見ると、やはり役割をある程度、固定して使った方がよさが出るだろう。そこは第2次森保ジャパンの1つの重要テーマになってくるのではないか。

 鎌田が一列下がる場合は、トップ下は久保建英(レアル・ソシエダ)が主に担うことになる。そこには2022年E-1選手権以来の招集となる西村拓真(横浜)もいるが、久保とは全く異なるタイプで、2人を使い分けながら戦っていくのも1つの手かもしれない。いずれにしても、カタールで不完全燃焼に終わった久保は次の3年間は必ずエース級にならなければいけない。本人にもそれだけの自覚はあるだろうし、大舞台の屈辱をバネにスペインで進化を遂げている。その成果をぜひとも今回、力強く示してほしい。

三笘には日本の新エースとして圧倒的な存在感を示してほしい
三笘には日本の新エースとして圧倒的な存在感を示してほしい写真:ロイター/アフロ

左サイドは三笘が絶対的エース。そこに新顔の中村が挑む

 右サイドはこれまで通り、伊東と堂安がベース。所属クラブでこの位置に入っている浅野拓磨(ボーフム)も状況次第ではサイド起用されるかもしれない。が、伊東と堂安というのは日本が自信を持って誇れる攻撃のピース。この牙城はなかなか崩れそうもない。

 左サイドには、W杯以降、イングランドで光り輝いている三笘薫(ブライトン)が君臨。そこに新顔の中村が挑む構図だ。ここにクラブで左要員として使われている前田大然(セルティック)も参戦するかもしれないが、とにかく次期代表では三笘がエースとして頭から使われるのはほぼ確実と見ていい。これまでジョーカー起用に甘んじてきた本人も「次は自分が代表を引っ張れる選手にならないといけない」と強い決意を口にしていただけに、彼の変貌ぶりに大きな期待を寄せたい。それと同時にオーストリアで公式戦14ゴールの中村も爆発的成長を遂げているアタッカーだけに、強気の姿勢でチームにいい刺激を与えてほしい。

FW争いは今季ベルギー14ゴールと成長中の上田を軸に展開か

 最後にFWだが、ここはW杯で活躍した前田、浅野、今季ベルギー1部で14得点をマークする上田綺世(セルクル・ブルージュ)、国内組の町野修斗(湘南)と使い分ける形になるのではないか。ハイプレスが必要な相手には前田か浅野、ボールを収めて保持しながら戦っていく時は上田か町野といったように、状況に応じてFWを入れ替えるのが得策かもしれない。1人の柱だけを軸に据えると、以前の大迫勇也(神戸)依存症のような事態に陥ってしまうし、戦い方の幅も生まれない。森保監督もそう考えている可能性が高い。

 ただ、上田の成長度は目覚ましいものがあるだけに、今回はあえて彼をファーストチョイスで使ってみるのも一案だ。クラブでは左シャドウを主戦場にしているものの、その分、プレーの幅は広がっている。異なる経験を積み重ねた上田が代表で1トップに入った時、どんな動きを見せるのかはぜひ確認したいところだ。

 このような面々でチーム作りがスタートするが、落選した古橋亨梧・旗手怜央(ともにセルティック)やベテラン勢が今後も入ってこないとは限らない。3年前に三笘がここまでブレイクすると想像した人がどれだけいただろうか。そう考えると2026年の代表に誰が入っているかは全くわからない。だからこそ、今回選ばれたメンバーはチャンスを逃してはならない。未来に希望を感じさせる戦いを強く求めたいものである。

スポーツジャーナリスト

1967年長野県松本市生まれ。千葉大学法経学部卒業後、業界紙、夕刊紙記者を経て、94年からフリーに。日本代表は非公開練習でもせっせと通って選手のコメントを取り、アウェー戦も全て現地取材している。ワールドカップは94年アメリカ大会から7回連続で現地へ赴いた。近年は他の競技や環境・インフラなどの取材も手掛ける。

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