米国の出口政策による日銀への影響
FRBのバーナンキ議長は6月19日のFOMC後の記者会見において、失業率が低下基調を維持するなどの経済情勢が見通しどおりに改善すれば、今年後半に資産購入プログラム(LSAP)の規模縮小をスタートさせるのが適当と見ていると述べ、一定のペースで規模を縮小し、失業率が7.00%程度に下がっていくことを目安に、来年半ばにかけて緩和策を終了するという意向を示した。
2012年12月12日のFOMCで、年末に終了するツイストオペの代わりに毎月450億ドル規模の米国債購入を決定した。これまでのツイストオペでは、450億ドルの短期債を売って長期債を購入していたが、短期債を売却しない分、FRBのバランスシートは拡大することになる。これにより現在FRBは、400億ドルのMBSの買入を含めると月額850億ドルを買い入れている。国債の償還分の買入も行っている。
この際に少なくとも2015年半ばまで低金利を維持するとの文面が声明文から削除され、その代わりに、米失業率が6.5%を上回り、向こう1~2年のインフレ率が2.5%以下にとどまると予想される限り、政策金利を低水準にとどめる、という数値のガイダンスに変更された。いわゆるデュアル・マンデート(最大限の雇用と物価安定)のそれぞれに、期間を限定せずに目標が課せられた。ただし、これはこの目標に向けて金融政策が自動的に変更されるというわけではなく、かなり裁量部分を残していた。
量的緩和策など非伝統的手段をとった中央銀行にとり、その出口政策は重要である。日銀が2001年3月から2006年3月まで続けた量的緩和策は、目標が日銀の当座預金残高であり、これは技術的には引き下げることは容易であった。福井元日銀総裁は当座預金の目標額を何度か引き上げたものの、その際に国債の買入額は増加させなかった。2006年3月の量的緩和の解除の際、国債の買入については減額や停止は行われていない。
ところが、その後の日米欧の中央銀行は競うかのように国債の買入を中心とした政策を拡大してきた。その金額だけでなくオープンエンド型の買入も実施してきた。
2012年9月のFOMCで住宅ローンを担保にした証券であるMBSを毎月400億ドル追加購入することを表明したが(QE3)、物価安定の下で労働市場の改善が実現できるまでMBSの購入を継続するとして、このMBSの買入はオープンエンド型(無期限)となったのである。
日銀も追随する格好となり、2013年1月22日の金融政策決定会合で、日銀は政府からの要請のあった「物価安定の目標」を導入することを決定するとともに、あらたな追加緩和策として「期限を定めない資産買入方式」を導入することを決めた。さらにその買入を4月4日の異次元緩和で大幅に増額したのである。
今回のFRBの出口に向けた姿勢への変化は、市場に動揺を与えた。特に新興国市場に大きな影響を与え株や債券、通貨の下落を招いた。米債も下落し10年債利回りはあっさりと2.5%台に上昇した。
今回の出口政策は条件付きであり、しかもFRBはいきなり購入をやめるわけではない。それでも今回のFRBの姿勢の変化とそれによる市場への影響度をみると、出口政策がいかに難しいのかを示している。
日銀は白川前総裁時代には、このFRBのようにかなり裁量の余地を残していた。これがリフレ派には甘い政策ともとられ、2%の物価目標を設定し、それが可能になるまでは異次元緩和を継続することを約束してしまっている。
ECBも国債買入手段は残しているが、それを使うことはよほどのことがなければない。イングランド銀行もFRBが出口を意識しているなかにあり、国内の経済・物価動向がおかしくならなければ、あらたな量的緩和を行うことは考えづらい。
その結果、取り残されてしまう格好の日銀は、いつどのタイミングで出口政策をとれるのか。物価目標達成が困難とみれば、追加緩和を迫られる可能性もあり、それが国債の買入となれば、出口政策を困難にさせるだけでなく、国債市場に対しさらなる流動性の低下といった影響を与えかねない。
日本の物価目標はほんとうに2%で良いのか。消費増税による物価上昇まで加味すると4%近い物価上昇が目標となっているが、現実にそれを国民は受け入れられるのか。少し日銀も裁量の余地を設ける工夫もしなければ、思わぬ円安や長期金利の上昇などを招く可能性もある。FRBの出口戦略は今後の日銀の政策にも大きな影響をあたえかねず、それに対する配慮もいずれ必要になるであろう。