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【最新研究】新型コロナワクチンはコロナ後遺症(ロングコビッド)を予防する?皮膚症状への影響も

大塚篤司近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授
(写真:イメージマート)

【コロナ後遺症(ロングコビッド)とは?新型コロナウイルス感染後に長期間続く症状】

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)から回復した患者の中には、感染後も長期間にわたって様々な症状が続く人がいることが明らかになっています。これは「ロングコビッド」や「ポストコロナ症候群」と呼ばれ、疲労感、息切れ、味覚・嗅覚障害、頭痛などの症状が代表的です。また、皮膚症状としては発疹や湿疹、かゆみなども報告されています。

ロングコビッドの正確な定義はまだ確立されていませんが、一般的には感染後4週間以上症状が続く場合を指すと考えられています。海外の研究では、COVID-19患者の約3割にロングコビッドが見られるとの報告もあり、かなりの割合の人が長期的な影響を受けている可能性があります。日本でも同様の傾向があると考えられますが、まだ十分なデータがなく、実態は明らかになっていません。

ロングコビッドの症状は多岐にわたり、個人差も大きいため、診断や治療が難しいのが現状です。また、感染後の後遺症という性質上、ウイルスそのものへの治療ではなく、症状に応じた対症療法が中心となります。ロングコビッドに悩む患者さんに寄り添い、適切なケアを提供していくことが医療者に求められていると言えるでしょう。

【新型コロナワクチン接種とロングコビッドの関係性】

さて、ロングコビッドが社会的な問題となる中、ワクチン接種がその予防に役立つのではないかという期待が高まっています。今回紹介する研究は、米国の大規模な電子カルテデータを用いて、ワクチン接種がロングコビッドのリスクに与える影響を調べたものです。32万人以上のCOVID-19患者を対象に、ワクチン接種者と未接種者でロングコビッドの発症率を比較しました。

その結果、ワクチン接種者は未接種者と比べ、ロングコビッドのリスクが全体的に低いことが分かりました。特に、循環器系や血液系、皮膚の症状で顕著な差が見られ、ワクチン接種によってこれらの症状のリスクが10%以上低下していました。一方、精神的な症状については、ワクチン接種者の方がやや高いリスクを示しましたが、これは医療機関の受診行動の違いなどが影響している可能性があります。

また、ワクチンの接種回数や最終接種からの期間、感染時の重症度などでも解析しましたが、ワクチンの予防効果は概ね一貫して認められました。ただし、オミクロン株流行期の感染では、それ以前と比べてワクチンの効果がやや低下する傾向がありました。これは、オミクロン株に対するワクチンの有効性が従来株ほど高くないことが影響しているのかもしれません。

今回の研究は、ワクチン接種がロングコビッド予防に一定の効果があることを示した点で意義深いと言えます。ただし、あくまで観察研究であるため、因果関係を証明するものではありません。また、ワクチンの種類や接種のタイミングなど、まだ検討すべき点は多く残されています。今後、ロングコビッド予防におけるワクチンの役割について、さらなるエビデンスの蓄積が期待されます。

【皮膚症状とロングコビッド・ワクチン接種の関係性】

今回の研究で特に興味深いのは、ロングコビッドの皮膚症状とワクチン接種の関係性です。結果を見ると、ワクチン接種者は未接種者と比べて皮膚・皮下組織の症状のリスクが約30%低いことが示されました。これは、ワクチンがCOVID-19の重症化を防ぐだけでなく、感染後の皮膚トラブルの予防にも有効である可能性を示唆しています。

COVID-19に関連する皮膚症状としては、発疹、湿疹、かゆみ、皮膚の乾燥などが報告されています。これらの症状は、ウイルスによる直接的な影響だけでなく、感染に伴うストレスや免疫力の低下なども関与していると考えられます。ワクチン接種によって感染のリスクが下がれば、結果的に皮膚症状の発現も抑えられるという予防効果が期待できるかもしれません。

ただし、現時点ではロングコビッドの皮膚症状に関する研究データはまだ限られており、ワクチンの効果についても不明な点が多いのが実情です。また、ワクチン接種自体が皮膚疾患を引き起こす報告もあります。接種部位の発赤や腫れ、かゆみなどは比較的よく見られる副反応ですし、まれではありますが重篤なアレルギー反応を起こすこともあります。

したがって、ロングコビッドの皮膚症状とワクチン接種の関係性については、さらなる研究の蓄積が必要不可欠です。皮膚科医としては、ロングコビッド患者さんの皮膚症状に適切に対処しつつ、ワクチン接種による皮膚への影響にも注意を払っていく必要があるでしょう。そして、得られた知見を臨床現場にフィードバックし、患者さんに最適な情報提供とケアを行っていくことが求められます。

【まとめ】

以上、米国での大規模な研究から、新型コロナワクチンがロングコビッドのリスク低減に寄与する可能性が示されました。特に皮膚症状については顕著な予防効果が認められ、皮膚科医としても注目すべき結果と言えます。

ただし、ロングコビッドについてはまだ不明な点が多く、今後さらなる研究の蓄積が必要不可欠です。特に皮膚症状については、ワクチンの効果だけでなく、接種による皮膚トラブルのリスクについても検討していく必要があるでしょう。

参考文献:

Nat Commun. 2024 May 22;15(1):4101. doi: 10.1038/s41467-024-48022-9.

近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授

千葉県出身、1976年生まれ。2003年、信州大学医学部卒業。皮膚科専門医、がん治療認定医、アレルギー専門医。チューリッヒ大学病院皮膚科客員研究員、京都大学医学部特定准教授を経て2021年4月より現職。専門はアトピー性皮膚炎などのアレルギー疾患と皮膚悪性腫瘍(主にがん免疫療法)。コラムニストとして日本経済新聞などに寄稿。著書に『心にしみる皮膚の話』(朝日新聞出版社)、『最新医学で一番正しい アトピーの治し方』(ダイヤモンド社)、『本当に良い医者と病院の見抜き方、教えます。』(大和出版)がある。熱狂的なB'zファン。

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