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女性版ツール・ド・フランスは可能か?

宮本あさか自転車ロードレースジャーナリスト
1903年に誕生した男性版は、100回大会を無事に終えたばかり。写真:宮本あさか
1903年に誕生した男性版は、100回大会を無事に終えたばかり。写真:宮本あさか

2012年ロンドン五輪ロード金メダリストにして、2006・2012年世界選手権ロード優勝のマリアンヌ・フォスや、2010年世界選手権個人タイムトライアル優勝エマ・プーリーなどの女性自転車プロ選手4人が、ツール・ド・フランス開催委員会のA.S.O.アモリー・スポール・オルガニザシオンに、8500人分の署名と嘆願書を提出した。「女性版ツール・ド・フランスを開催して欲しい」と。

「1世紀の時を経て、今こそ、女性たちにもツール・ド・フランスを走る許可が与えられるべきなのです」

署名公式ページより)

インターネットによる署名集めは今も継続されており、8月12日の段階で5万人以上が賛同の意を寄せている。

数々の失敗

女性版ツールの試みは、かつて幾度となく繰り返されてきた。初めての試みは1955年だった。1985年から1989年までは、男性版ツール開催委員会により、正式なる「ツール・ド・フランス・フェミナン」が行われていた。1990年にはフランスの枠を飛び出して、「ツール・ド・EEC(欧州経済共同体)」へと拡大したが、1993年が最後の大会になった。

また1998年から2009年までは、「女性版グランド・ブークル」が存在した。「ツール・ド・フランス」という名称の使用は本家ツール開催委員会から禁止され、しょうがなくツールのあだ名「グランド・ブークル(大きな輪)」が使われた。同大会の史上最後のチャンピオンこそがプーリーで、フォスも総合3位に入った。

つまり女性版ツールは、ことごとく失敗に終わってきたのだ。現在は「ルート・ド・フランス」が、かろうじて女性版フランス一周の代わりを務めている。イタリアのグランツール、ジロ・デ・イタリアは、1988年から今まで女性版ジロ・ドンネを継続してきたというのに!

ほぼ不可能に近い願望

さて、2013年、女性チャンピオンたちの嘆願の内容は、次のようなものだった。

-2014年、第101回ツール・ド・フランスのスタートラインに、女性も立ちたい。

-男性版と同じ日程で、同じコース・同じ距離を走りたい。

-男性と女性が混ざらないように、スタート&ゴール時間をずらす。

ツール開催委員長クリスティアン・プリュドムからの返答は、色よいものではなかった。「出された条件を見る限り、実現はほぼ不可能だ」と。

これに対して、英国の女性議員がさっそくツールに食って掛かったとも言われているが……、プリュドムのコメントは、残念ながら間違ってはいない。嘆願内容はまるで夢物語に過ぎず、現実的に考えた場合、3つの理由により実現はほぼ不可能に思える。

1つ目は、女性が男性と同じ距離を走ること事態が、無謀ではないかということ。男性版の2013年ツール・ド・フランスは、21日間で3404kmを走破した。1日の平均走行距離は162km。しかも短距離のタイムトライアル区間を除くと、1日平均184kmを走ったことになる。一方でUCI国際自転車競技連盟のルールによれば、女性レースの1日の最大走行距離は140kmと定められている。また大会期間も、前述のルート・ド・フランスやジロ・ドンネの8日間が、現在のところ最長だ。

2つ目は、本家ツールと同じ大会日程で行った場合に、宿泊施設や駐車場の確保がとてつもなく難しくなること。ツール・ド・フランスでは、日々、約4000人が1600台の自動車で移動しており(+3週間で通算1500万人の観客)、しかもこの全員が、最悪でもステージ地の直径100km以内に宿泊する必要がある。フランスの山奥や僻地を駆け巡るツールでは、この宿泊施設確保が、開催委員にとってもジャーナリストにとっても最大の頭痛の種なのだ。ここに女性ツールの選手&スタッフが加わったらどうなるか……。

そして3つ目。例えば女性ライダーが、男性よりも早い時間にスタートを切った場合(女性の方が当然ながら走行時速が遅いため、2~3時間は早いスタートを切る必要があるかもしれない)、つまりはスタートやゴールの設営時間、広告キャラバン隊のスタート時間、さらには道路封鎖の時間を大幅に早める必要がでてくる。開催スタッフや道路脇に立つ警察の労働時間はおのずと長くなるし、交代制を取る必要性があるかもしれない。ちなみに2013年大会で最も早いスタート時間は10時35分だった。

まったく別の形で

つまりプリュドムの発言は、決して反フェミニズムなどではない。現実に則って、嘆願をそのまま受け入れるのは無理だ、と言っているのである。

「嘆願書とか署名を前触れもなく郵便で送りつけてくるんじゃなくて、実際に顔を見て話をする機会を持ちたかったね。我々は全ての人間に門戸を開いている。女性レースを開催するということの重要性も、十分に理解しているんだよ」

ツール開催委員会は、2009年からレディース・ツアー・オブ・カタールを開催している。また23歳以下の大会ツール・ド・ラヴニール、一般サイクリストに向けたレタップ・デュ・トゥールやラ・オート・ルート等々、様々な種類の自転車大会を催している。2013年10月には、史上初めて、ツール・ド・フランスの名前が冠されたクリテリウム(市街地興行レース)が、日本のさいたま市で開催される!

ただもちろん、ビジネス的に見合わなければ、ツール・ド・フランス開催委員会も女性版ツールに乗り出すことはできないだろう。ちなみに男性版ツールは、2011年大会では、開催収入は1億2000万ユーロ。うち利益は3250万ユーロ(約41億7000万円)だったとのこと。

自転車ロードレースジャーナリスト

フランス・パリを拠点に、サイクルロードレース(自転車競技)を中心とした取材活動を行っている。「CICLISSIMO」「サイクルスポーツ」誌(八重洲出版)、サイクルスポーツ.jp、J SPORTSサイクルロードレースWeb等々にレースレポートやインタビュー記事を寄稿。

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