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人は文章を読まなくなっているのか、少なくとも米国ではむしろ多目的な理由で読む人が増えている

不破雷蔵「グラフ化してみる」「さぐる」ジャーナブロガー 検証・解説者
↑ 文章を読む事は知識を得る手段として最も身近な手段。ネットの普及の影響は

インターネットの普及浸透で、読書などの文章を読む行為から人が遠ざかっているとの指摘がある。多分に「紙媒体の書籍や雑誌、新聞で無いと、読書などの『文章を読む』とは認識しない」との考えから連なる発想であり、むしろ電子書籍をはじめとしたインターネットで提供されるさまざまな文章を合わせると、人は以前よりもいっそう文章に目を通しているとの見方もできる。今回はアメリカ合衆国の民間調査会社PewResearchCenterが2016年9月に発表した読書に関する報告書「Book Reading 2016」(※)を元に、同国の「文章を読む行為」の実情について、その目的の切り口から確認していく。

今調査では主に書籍を対象とした読書に限定してアメリカ合衆国の成人による読書性向を調べているが、次に示すのは書籍に限らず、雑誌や新聞、さらにはインターネット上のさまざまなテキストコンテンツも合わせ、また媒体種類を問わず、文章を読んでいるか否かに関する調査項目の結果。普段の行動性向を尋ねたものだが、2011年当時とその5年後の2016年においてでは、複数の項目で値が上乗せされている。つまり文章を読む目的が多様化し、より多くの人が幅広い目的で「文章を読む行為」をしていることになる。

↑ 何のために文章を読んでいるか(アメリカ合衆国、複数回答、利用媒体問わず)
↑ 何のために文章を読んでいるか(アメリカ合衆国、複数回答、利用媒体問わず)

直接の因果関係を示す調査項目は無いが、この5年間で文章を読む行為に関する変化といえば、インターネットの普及浸透、特にスマートフォンやタブレット型端末のような機動力の高い端末の普及と、それを用いて閲覧できる電子書籍をはじめとしたさまざまなコンテンツの増加、利用の仕組みの整備が挙げられる。かつては写経など直接手で写すしか書物を広める手立てが無かった時代から、印刷技術の開発とそれを用いた印刷物の普及により、文章を読む機会が多くの人にもたらされたのと同様、インターネットの普及浸透もまた、文章を読む行為に新たなステップをもたらしたと考えても間違いではあるまい。

特に情報の集積と整理、検索による任意対象の抽出が容易なインターネット(上の情報)と相性の良い「興味ある事を調べるため」に関して、10%ポイントもの上昇が見られる点では、人の知的探求心の充足が大いに促進されたと考えて良いだろう。

現状に関して属性別に見たのが次以降のグラフ。まずは性別と年齢階層別。

↑ 何のために文章を読んでいるか(2016年春、アメリカ合衆国、複数回答、利用媒体問わず)(性別、年齢階層別)
↑ 何のために文章を読んでいるか(2016年春、アメリカ合衆国、複数回答、利用媒体問わず)(性別、年齢階層別)

男女別では男性の方が就業率が高いこともあり、学業や仕事で読む人の割合が高い。他方、それ以外の項目では押しなべて女性の方が高く、女性は多方面で読書意欲がより高いことが分かる。特に趣味趣向では男性との間に8%ポイントもの開きを見せている。

年齢階層別では若年層の方が活発だが、中堅層ではむしろ「している事に必要なため」の値が高めに出るのが興味深い。仕方なく目を通さねばならない書類やデータ、文章などとの対峙機会が多いということか。歳を経るに連れて序列が少しずつ変化し、高齢層では自分自身の趣味趣向のために読むとの回答がもっとも高くなる。好奇心の充足のためとする回答が減退しているのと合わせ見ると、「歳を重ねるに連れて四方八方への好奇心は減っていき、自分の好き嫌いがより前面に出てくるようになる」とも読める。

学歴や世帯年収別ではどうだろうか。

↑ 何のために文章を読んでいるか(2016年春、アメリカ合衆国、複数回答、利用媒体問わず)(性別、年齢階層別、居住地域別)
↑ 何のために文章を読んでいるか(2016年春、アメリカ合衆国、複数回答、利用媒体問わず)(性別、年齢階層別、居住地域別)

学歴別では非常にきれいな形で高学歴ほど多目的で文章を読む人が増える傾向が見受けられる。文章を読む動機、意欲が強い人ほど高学歴となりうるのか、高学歴だからこそ色々な意図で文章を読もうとするのか。相関関係か因果関係かは今調査だけでは特定できないが、恐らくはその双方とも正解なのだろう。

世帯年収別でも大よそ学歴と同じように、高年収ほど多目的で文章を読むようになる。これは年収が上になるほど読む機会を得やすい、ハードルが低くなるのに加え、学歴と世帯年収との間には一定の相関関係があるのも要因だと考えられる。

地域別も学歴や世帯年収と相応の相関関係があるように思えるが、「学業や仕事」の項目では大きな差異があるものの、それ以外の項目ではほとんど違いが生じていないのが興味深い。

文章を細切れにして読むことが容易なインターネットの普及に伴い、読書の概念はより一層曖昧なものとなりつつある。紙かデジタルかの媒体種類の差異はもちろんだが、ウェブ上の記事を読むことと電子書籍を読むことの違いはどこにあるのだろうか。文章量だけの差異とするなら、ショートショートやエッセイを少しずつ読み進めること、数十ページしかない小冊子的な書籍を読むことは、書籍を閲読する意味での読書たり得るのか。

もっとも人の知識欲、探求心、知的好奇心を充足する文章を読めるのであれば、その辺りの話はあまり気にしなくてもよいのかもしれない。

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米国で媒体を問わず年に1冊も書籍を読んでいない人は26%

※Book Reading 2016

2016年3月7日から4月4日にかけて、アメリカ合衆国に居住する18歳以上の男女に対しRDD方式で選択された電話経由で音声対話によって行われたもので、総対象者数は1520人。うち381人は固定電話、1139人は携帯電話(そのうち636人は固定電話非保有者)。国勢調査の結果に基づいた各種ウェイトバックが行われている。

「グラフ化してみる」「さぐる」ジャーナブロガー 検証・解説者

ニュースサイト「ガベージニュース」管理人。3級ファイナンシャル・プランニング技能士(国家資格)。経済・社会情勢分野を中心に、官公庁発表情報をはじめ多彩な情報を多視点から俯瞰、グラフ化、さらには複数要件を組み合わせ・照らし合わせ、社会の鼓動を聴ける解説を行っています。過去の経歴を元に、軍事や歴史、携帯電話を中心としたデジタル系にも領域を広げることもあります。

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