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再びブレイナード米財務次官が外債購入を牽制

久保田博幸金融アナリスト

2月のG7あたりを境に、政府からの為替に関する発言が明らかに変化していたが、その背景には米国の意向が強く働いていたとみられる。

2月12日のG7による緊急共同声明について、円の過度な動きに懸念を表明することがG7の目的だったとの匿名のG7筋による発言があった。匿名のG7関係筋が「G7声明は誤って解釈された。同声明は、円の過度な動きに対する懸念を示すものだった。G7は円の一方的なガイダンスを懸念している。日本をめぐる問題は、モスクワで今週末開かれるG20会議で焦点になる」と発言した(ロイター)。

「匿名のG7高官が声明は円の過度な変動への懸念を示唆したものだと語ったことについて、声明発表につながったやり取りに詳しい関係筋は、日本がすぐさまデフレ不況対策に理解が得られたとの認識を示したことへのいら立ちによるものだった可能性があると指摘した。」 (ロイター)

この匿名のG7高官からの声明はワシントン発だそうである。そうであれば、米国の高官という可能性が高くなる。その米国からG20に出席するのは、サインが特徴的なルー次期財務長官ではない。ルー次期財務長官は議会での承認を待っている段階であり、代わりにブレイナード財務次官が出席した。

11日に会見したブレイナード次官は、積極的な金融緩和と財政出動を打ち出した安倍政権の経済政策について、「成長力を取り戻し、デフレ脱却を目指す日本の努力を支持する」と述べ支持する考えを示した。ただし、「財政、金融政策は自国の景気回復を目的に使われることが重要だ」としたうえで、「為替相場は市場が決めるというのは先進国間のルールだ」と述べ、通貨を安く誘導することを目的にする政策は認められないという考えを強調した(NHKニュース)。

このブレイナード次官の発言は円安容認と受け止められたが、この発言や共同声明を円安容認とする解釈は誤りだとの指摘もあった(FT)。カーニー・カナダ中銀総裁も日本の当局が為替相場の特定の水準を目標としているとの懸念が「一部」出ているとして、「G7はこの件に関して討議した。週末のG20財務相・中央銀行総裁会議でも議題として取り上げられる見通しだ」と述べていた。

これらの状況から察するに、ワシントンの匿名のG7高官とは米国関係者であるとみられ、ブレイナード次官もしくはその関係者である可能性が高いと思われた。

G7後、麻生財務相は為替に関することについての質問には一切答えなくなった。2月28日の国会で麻生財務相は、日銀の外債購入について、今の状況では為替介入するような結果になるため断固として回避すべきとの考えを示した。

ところがその一方で、安倍晋三首相は、麻生財務相の発言に対して、今の時点では財務相は慎重な態度をとったのだろうとの解釈を示し、引き続き緩和手段の1つという自身の考えを否定しなかった(ロイター)。

そして麻生財務相は3月5日の衆議院本会議で、金融緩和の手段として具体的にどの資産を買うかは日銀の判断だとしたうえで、外債購入という選択肢があることについては私と安倍晋三首相の間に不一致はないと語った(ロイター)。

外債購入についてはかなりトーンダウンさせてきたものの、質問に答えざるを得なかったためか、再び外債購入の選択肢があると発言に、またあの人が登場してきた。

米国のブレイナード財務次官(国際問題担当)は5日に、「G7加盟国は、外国資産の購入を通じてマクロ経済の緩和を目指すことを明確に排除している。こうした手段は、世界の需要増進に貢献しない」と述べた(ロイター)。今回は匿名ではなくてこのように言い切っていた。NHKも報じていたが、ブレイナード次官のこの発言は、改めて外国債券の購入をけん制したものと言える。ブレイナード財務次官はご主人がカート・キャンベル元東アジア・太平洋担当国務次官補で、親日家とみられているが、こと為替政策については、安倍政権の動きを牽制しているようである。今後の為替の動向を見る上でも、このブレイナード財務次官の発言には十分注意が必要と思われる。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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