リアル冒険マシン【KTM 890 ADVENTURE/R】パワフル&扱いやすくオフ性能ピカイチだ!
10psアップでフレームも進化
KTM 2021アドベンチャーモデルのメディア試乗会で「890 ADVENTURE/R」に試乗してきたのでレポートしたい。
890アドベンチャーは従来の790アドベンチャーの進化版である。今回最も変わったのがエンジンだ。基本レイアウトはそのままに排気量を889ccに拡大し、動弁系やバランサーの改良、ピストンの軽量化とクランクマスの増加などにより最高出力も105psへと10psアップ。
車体面ではクロモリ製トレリスフレームにアルミスイングアーム、WP製前後サスペンションなどの基本構成は従来モデルを踏襲しつつ、ステムまわりの強化やサブフレームの軽量化、シフトアップ&ダウン対応のクイックシフターなどを採用。
ボッシュ製ライドバイワイヤーによる電子制御には4種類のライドモード(ストリート、レイン、オフロード、ラリー※「R」のみ)やコーナリングABS&トラク
なお、兄貴分の1290スーパーアドベンチャー同様、890にもスタンダード仕様と「R」が付くオフロード強化バージョンを用意。「R」はサスペンショントラベル量を増やしてブロックタイヤを装備、ワンピース型シートを採用するなどオフロード性能をさらに高めたモデルとなっている。
【890アドベンチャーR】
アドベンチャー界随一のオフ性能
従来のKTMは、水冷単気筒エンジン「LC4」を搭載する690シリーズと水冷Vツインエンジン「LC8」を搭載する1290シリーズの2本立てで主なストリート用大排気量モデルの製品ラインを構成していたが、2018年に登場した790デュークに搭載されていたのがKTM初の水冷並列2気筒エンジン「LC8c」だった。
小文字のcはコンパクトの意味で、Vツインの鼓動感とパワーに単気筒モデル並みの軽量スリムさを兼ね備えた新時代のエンジンとして翌2019年にデビューした790アドベンチャーにも投入。そして今回の最新作、890アドベンチャーへと受け継がれた。
435度に設定されて点火サイクルにより並列2気筒でありながら1290系のLC8(75度Vツイン)と似た鼓動感と滑らかな回転フィールが特徴で、排気量拡大によってスロットルを開けた瞬間のパンチ力はより強烈に。クランクマスが20%高められて低速走行での粘り強さも増したことで、林道トレッキングもより快適になった。
テストコースは生憎の雨だったが、ライドモードを「オフロード」に設定してトライ。レスポンスは穏やかでパワーも抑えられるので走りやすい。コーナー立ち上りで加速するとリアがスライドを始めるが、割と早いタイミングでトラコンが介入して収めてくれるので安心だ。
徐々にマシンに体が慣れてきたのでラリーモードも試してみたが、エンジンの瞬発力が増して反対にABSとトラコンの介入度がさらに控えめになるなど、ライダー自身が操っているダイレクト感がさらに増してくる。
トラコンレベルは9段階から選べるため、路面や走り方によってより細かい設定ができるのがまさにエキスパート向き。今回のようにヌルヌルの路面で後輪を滑らせたいときは、思い切ってトラコンレベルを2程度まで下げて丁度いい感じだった。
890アドベンチャーRであらためて特筆すべきは、車体の左右に振り分けられた燃料タンクだろう。790アドベンチャーから初採用された“ロワータンク”と呼ばれるレイアウトで、低重心による安定感がメリット。1回の給油で400kmを走破する20L容量を持ちながらもハンドリングへの影響が少ないのがメリット。
実際にスライドしたときの挙動も安定感があって低速でもフラ付きにくく、ヒザまわりがスリムなのでホールドもしやすいなど利点多数。ダカールラリー連覇のノウハウが生かされている部分だ。公道用の市販モデルであるのもかかわらず、その走破性能は競技用エンデューロモデルにも迫るレベルと感じた。
同時に試乗したフラッグシップモデルの「1290スーパーアドベンチャーR」に比べると、明らかにフットワークも軽やかで走破力も優れるなど全般的にオフロード性能は高いが、身軽なぶん車体の動きも速いのでガチで攻めていくと難しさも顔を出してくる。
これに対し1290は圧倒的にパワフルで車重もあるのだが、マシンの挙動がおっとりしているのでダートでもある意味快適。アフリカのサバンナを一気に数百キロ突っ走るようなシーンで本領を発揮することだろう。その非日常感もまたKTMのウリなのだ。
【890アドベンチャー】
ベストバランスな万能バイクだ
一方、890アドベンチャーはロングスクリーンや前後セパレートタイプのダブルシート、オン&オフタイヤなどが装備され、よりオンロード向けの仕様になっているのが特徴だ。
エンジンと電子制御は「R」と共通だが、WP製サスペンションのストローク量も「R」の前後240mmに対して200mmと短く、シート高も30mm低い850mmに抑えられるなど、オンロードでのハンドリングや快適性を重視していることが分かる。
エンジンも「R」同様、力強さが増しているし、クランクマスを増やしたことでエンジンの回転フィールが円やかになっている。巨大マシンが幅を利かせるアドベンチャー界にあって、200kgを切る軽量な車重に100ps強の扱いやすいパワーを持ったベストバランスな一台と言えよう。
「R」と同じ前後21/18インチのワイヤースポークホイールに標準装着されたAVON・トレールライダーも普通の林道なら問題なく走破できるはず。街乗りレベルから長距離ツーリングまで便利に使えるオールラウンダーだ。
※原文より筆者自身が加筆修正しています。