原油価格下落による日本への影響
12日のニューヨーク原油市場でWTI(ウェスト・テキサス・インターミディエート)先物は12年ぶりに心理的な節目となっていた1バレル当たり30ドルを割り込んだ。
WTIの30ドルという水準はあくまでひとつの目安であったが、それはリーマン・ショック後につけた32.40ドルが直近の安値となっていたためと思われる。WTIは2008年7月11日に147.27ドルという史上最高値を記録したあと急落し、2009年12月19日に32.40ドルまで下落していた。
WTIが2001年あたりの20ドル近辺から2008年7月に140ドル台に上昇した要因は、OPECの生産調整もあったが、中国など新興国の経済成長を背景にした急激な需要増があった。そこに投機的な買いが原油先物に入ったためとみられる。ところが2009年のリーマン・ショックをきっかけに世界的な金融経済危機の発生もあり、WTIは急落し、そのときつけたのが32.40ドルであった。
2009年12月に32ドル台に下落したWTIは再び上昇トレンドに入る。この背景には中国などの経済成長が続いていた面があった。さらに日米欧の中央銀行による積極的に資金供給もあり、原油先物が買われていた側面もあった。
しかし、そのWTIの上昇も2011年5月には112.8ドルに上昇したところでピークアウトした。2014年7月ぐらいまでは100ドル台をつける場面もあり、高値圏で推移していた。しかし、2014年7月以降に再び一方的な下落を続け、2015年3月17日に43ドル39セントに下落した。ここからいったん買い戻されて60ドル台を回復したものの、そこから再び下落し30ドル割れとなったのである。
この原油下落の背景には、米国でのシェールオイル生産拡大で対米輸出が減っていることなどもあり、原油が世界的に供給過剰となっていた側面があった。ここに中国の経済減速が材料視された。中国による実質的な元切り下げなどを受けて、中国経済の悪化による需要の減少が意識されたのである。つまり需要と供給の両面から原油価格は下落圧力が加わった格好となった。
WTIの30ドル割れは、中国を初めとする新興国の経済成長がピークアウトしたことを象徴するような出来事ともいえる。ここを下回るとチャート上からは20ドルあたりが見えてくる。
この原油先物がどこまで下がるのかも重要かもしれないが、この低価格がこのまま継続してしまうのかどうかの見極めも重要となる。原油はまもなく枯渇すると騒がれた時期もあったが、それにとって変わるようなシェールオイルも現れた。原油価格の下落はサウジアラビアなどの産油国の経済や財政に大きな影響を与えかねず、中東情勢をさらに不安定化させることも予想させる。ロシアは原油安で8000億円超の歳出削減の方針を明らかにした。
オイルマネーが金融市場から資金を引きあげてくることも予想され、それが東京株式市場の下落傾向のひとつの要因とも言われている。原油の輸入依存度の高い日本にとって経済そのものには当然ながらプラス要因である。ただし、新興国経済の悪化によるマイナスへの影響も想定される。さらに原油価格の動向は物価にも影響を与えることになり、日銀の物価目標達成を困難にさせかねない。この原油価格の動向は市場にも経済にも、日銀の金融政策にも大きな影響を与えることに対して注意も必要となろう。