SRであることにこだわり続けた40年 【SR400生産終了、気になる次期モデルは!?】
一旦終了も次期モデルを開発中
ヤマハは9月1日、1978年に発売以来変わらないデザインと伝統の単気筒エンジンで多くのファンを魅了してきたSR400が生産終了となることを発表した。
SRを新車で買えなくなってしまうということで、メーカーや販売店へ問い合わせが殺到するなど、ユーザーの間にも動揺が広がったようだ。
今回の生産終了は9月1日から施行される新排出ガス規制によるものだ。ヤマハではSR以外にも、ドラッグスターやセロー250、トリッカー、マグザムなどが生産終了となり、他メーカーでも同様に多くの歴史あるモデルが終了に追い込まれている。まさにバイクの大量絶滅時代の到来である。
ただ最初に断っておきたいのは、SRその他のモデルがそのまま絶版になってしまうわけではないということ。現にヤマハのホームペ―ジにはSR400他いくつかの人気モデルについて「後継モデルの開発に取組んでおります。(発売時期は未定)」とはっきり明記してある。
ヤマハ発動機にも直接聞いてみたが、「次期SRは新規制に対応したモデルとして従来のイメージのまま発売されるでしょう」とのこと。まずは安心して欲しい。
業界を震撼させる新排出ガス規制とは
最近バイク業界を震撼させている新排出ガス規制だが、知らない人のために簡単に説明しておこう。正式には2016年10月に国交省により施行された「平成28年規制」と呼ばれるもので、現在ヨーロッパで施行されている「ユーロ4」との整合性を図るのが狙いだ。
排出ガスのレベルを国際基準に合わせることで、仕様を統一化したグローバルモデルを生産できるので、メーカーとしても長期的に見ればコスト削減につながるメリットもある。ただ、その基準値が相当シビアなのだ。新基準ではほぼ従来の約半分レベルまで排出ガスを減らすことが求められている。
さらにエンジンの状態を監視する「車載式故障診断装置(OBDシステム)」の搭載が義務化され、また「燃料蒸発ガス規制」によりガソリン蒸気の大気中への放出を防ぐための浄化装置が必須となるなど、大幅な設計変更が求められることになる。
キャブレター車などの古いモデルは、到底この条件を満たすことはできない。そこで、メーカーでは現行車をこの機会に一度整理して絶版にするのか、あるいは新規制に対応した新型モデルとして作り直すかの選択を迫られているのだ。
不変という美学
さて、前置きが長くなったが、世間を騒がすSR400とは一体どんなバイクだったのだろう。
SRは単気筒ならではのスリムな車体とヤマハらしい繊細なデザインが美しい古典的なバイクだ。エンジンも誕生以来変わっていない空冷単気筒SOHC2バルブという、これ以上はないシンプルな構造。言わば、バイクの原点ともいうべき姿のまま、40年間変化することを拒み続けたモデルだったわけだ。
発売当初の70年代後半はすでに2気筒から4気筒へ、OHCからDOHCへ、空冷から水冷へとエンジンの高性能化が急ピッチで進みつつある時代だった。こうした流れに逆行する形で現れたのがSRで、すでに当時のネオクラシック(という言葉はまだなかったが)的な存在であり、それ以前の60年代のバイクにも似たビンテージの香りを持つモデルだった。
キックスターターにスポークホイールなど、当時高校生だった私もデビューしたてのSRを見て「なんか昔っぽいバイクだな」と思った記憶がある。より新しく速いモノ、未来的なテクノロジーに憧れた70年代の若者にとってそれはごく普通の反応だったと思う。
その意味でも当時そのタイミングで出てきたSRは異彩を放っていたのだ。あれから40年、SRは時代の波にもまれながらも生き抜いてきた。
YAMAHA SR400 Kickstart My Life
※ムービー内の車両カラーは現行モデルのカラーリングではありません
パリダカ優勝マシンの強心臓
SRには排気量400ccのSR400と500cc版のSR500があった。同じような排気量で何故2つのタイプがあるのかと言うと、実は日本の免許制度に関係がある。
エンジンは当時のビッグオフモデルで第1回、2回の「パリ・ダカールラリー」を連破するなど輝かしい実績を持つXT500がベース。これを日本の免許区分に合わせてスケールダウンしたのがSR400である。
当時、大型二輪に乗るためには試験場での一発試験か限定解除が必要だったため、街で見かけるSRのほとんどは400ccだったと思う。たまにSR500に遭遇すると、ライダーの横顔をチラ見しつつ「コイツ大型だ!」と畏怖と憧れの入り混じった複雑な気持ちになったものだ。
ちなみに、SR400はSR500版をストロークダウンして排気量を落としている。馬力こそ当時でもSR400の27psに対してSR500は32psということで大差ないが、ビッグシングルならではの低中速トルクの力強さはさすがにSR500が上回り、腹に響く一発一発の鼓動感と上下に揺れる振動がファンを魅了した。
一方、エンジンを回したときのバランスの良さではSR400が勝るとも言われ、近年にFI仕様になってからはよりスムーズになった。
ということで、本来の味わいや”らしさ”という点ではSR500は正統派だったが、そのSR500も排ガス規制などの影響により2000年に姿を消しているのは残念な限りだ。
遅れてやってきたブーム
古い記憶では、SRはデビューからしばらくしてブームがやってきたように思う。きっと皆、素材を生かしてどう料理しようか考えていたのだと思う。
ひとつはカフェレーサー風カスタムで、ピカピカにバフ仕上げしたアルミ製ロングタンクにセパハンとシングルシート、砲弾型の通称「ルーカスヘッドライト」や「キャブトンマフラー」などでドレスアップするなど、往年のBSAやノートンなどの英国車を真似たカスタムが街に溢れた。
一方ではSRをカリカリにチューニングしたトラックレーサー風カスタムなども流行り、一時はBOTT(バトル・オブ・ザ・ツイン)のシングルクラスなどで、有名ショップがプロライダーを起用して激しいバトルを繰り広げるなどレースでも人気を博した。
前述したとおり、ハートは筋金入りなので、車体と足まわりを作り込めばサーキットでも相当なラップタイプを刻むなど、走りのポテンシャルも素晴らしかった。
存続の危機を乗り越えて
話を戻すが、歴史に残る長寿モデルであるSRにもこれまで何回も存続の危機はあった。中でも2008年は大きな転換期で、排ガス規制強化によって一旦は生産終了を余儀なくされたものの、2009年にFI(電子燃料噴射装置)を搭載して復活したことは記憶に新しい。
度重なる排ガス規制についてはユーザー、メーカーともに不満もあることだろう。ただ、排出ガスが地球環境に与える甚大な影響を考えると、今や世界共通の問題として取り組むべきテーマであることは明白だ。
折しも欧州各国では2040年までにガソリン車の販売を停止しEV化へ舵を切る政策を表明しているし、アジアでも同様の動きがあるなど、二輪においても電動化の動きに一気に拍車がかかる可能性は十分にあり得る。
こうした逆風の中でもSRが生き長らえていけるのは、そこにSRを求めるファンが大勢いるからだ。厳しい規制に耐えてこれに適応し、さらに進化・深化していく姿は大量絶滅を生き残った種の逞しさを思わせる。
きっとこれからも様々な試練を乗り超えてバイクは進化していくことだろう。そして、その繰り返しがテクノロジーを加速させる。そう思えば今回のSR400の生産終了も納得できるのでは。そして、次期SRの登場を楽しみに待ちたい!