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「採用戦闘力」のない会社が勝つための唯一の戦略とは

曽和利光人事コンサルティング会社 株式会社人材研究所 代表取締役社長
こんな人たちとは戦いたくないですよね?(写真:PantherMedia/イメージマート)

■採用における「戦略」「戦術」「戦闘」

本稿では、採用における戦略・戦術・戦闘に関してお話ししていきますが、まずはそれらの言葉の意味を明らかにしておきます。

採用戦略:何のためにどんな人をどういうチャネル(新卒とか中途とか)で採るのかを決めるようなレイヤーの話を指す

採用戦術:その戦略を実現するために、採用活動のプロセス、候補者集団形成や選考、動機づけの手法などの計画を指す

採用戦闘力:(私ぐらいしか使わない造語ですが)採用担当者が面接や面談や説明会など、実際に候補者と対峙してコミュニケーションを取り、良い人を発見したり動機づけたりして入社にまでこぎつける力を指す

■対人能力の弱い人が多い会社は採用戦闘力に欠ける

不動産や人材などの営業系会社などは、対人コミュニケーション能力が高い人が多いため、そういう人を採用現場に駆り出すことができれば、強い採用戦闘力を得ることでしょう。そういう会社は、どんな手段を使っても、候補者と会うことができさえすれば後は口説ける、「会えば勝つ」と言っていたりします。

一方で、知性で勝負のIT会社などでは、人を見ぬいたり口説いたりするのは苦手な人が多いのではないでしょうか。結果、採用戦闘力勝負をしてしまうと、他社に負けてしまうことになります。

■「戦闘を略する」しかない

直接対決になると負けてしまうということであれば、ある意味話は簡単で「戦わなければよい」のです。戦うから負ける。そうであれば、できる限り、他社と競合しないような戦略=「戦闘を略する」作戦を取るしかありません。

しかし、他社と競合しないで優秀な人を採用することなどできるのでしょうか。優秀な人であれば、いろいろな会社からアプローチが来て、自然と獲得競争が激しくなるはずです。もちろん、自社にとって優秀でない(フィットしない)人は競争が少ないでしょうが、そういう人を採れというのは本末転倒です。

■就職活動量の少ない人に狙いを定める

では、どうすればよいのか。ほぼ唯一といってよい、しかもかなり効果のある方法があります。それは「できる限り就職(および転職。以下同様)活動量が少ない人、『就職活動意識低い系』をターゲティングする」ことです。

誤解ないように言うと、「意識低い系」ではなく、あくまで就職活動の意識が低い人のことです。世の中には想像以上に就職活動に関心のない人はたくさんいます。そういう人にもし出会うことができれば、彼らは他社をあまり受けませんから、結果として無競争で採用ができたりするのです。

■「就職活動意識低い系」とはどんな人か

すぐ想定できる疑問は「そんな人は優秀なのか?」ということですが、もちろん、優秀な人もそうでない人もいます。全体的に無気力で、就職活動も無気力という人は、採りたくないでしょう。しかし、未来を決める就職活動は大事ではあるけれども、それよりも二度と来ない「今」を大事に生きている人ならどうでしょうか。学問やクラブやサークル、ゼミ活動などを頑張っていたり、目の前のプロジェクトに心血を注いでいたり。そういう人は就職活動のことばかり考えたりしてなどいません。こういう人なら採用したくないですか?

■そういう人は「お見合いパーティー」には来ない

そして、こういう「今を生きる」タイプの「就職活動意識低い系」の人たちは、非日常な就職活動の場にはなかなか出てきません。結婚や恋愛に例えるなら、「婚活パーティー」のような非日常なイベントには来ないのです。

そもそも、婚活パーティーは短期決戦のバチバチの戦いです。お互いに条件を突きつけて、競争しあっている戦場です。そういうところに来ている人は「就職活動意識高い系」です。人気企業や大企業に行きたいと考えていることが多い層です。どんなに頑張っても結局採用はしにくい層なのです。

■「日常」での出会いの場に出ていく

一方で、「就職活動意識低い系」の彼らは自分の大好きな日常に没頭しています。そうであれば、彼らの日常に踏み込んでいくしかありません。説明会を開いて情報提供し、面接などの選考をするという普通の採用ばかりせず、候補者となりうる人と自然に会える生活の場にこちらから出向くのです。特に効果があるのは、新卒でいえば郊外の学校などです。同じ東京でも23区と八王子ではいろいろ違います。23区内なら企業説明会は多いでしょうが、八王子だと少ない。しかし、そこに学生はたくさんいます。だから出向くのです(もちろん最近のコロナ禍では難しいものですが)。

■「面倒くさい」を省く

「就職活動意識低い系」とは、要は面倒くさがり屋なのです。遠いところへは行きたくない。重い提出書類は出したくない。長い時間は拘束されたくない。面接という角張った場には出たくない。スーツは着たくない。会う前に事前準備はしたくない。だから、その反対を行えばよいのです。こちらから近づいて会いにいく、提出書類は極力なくす、長い説明会などやめて細切れの動画で情報提供する。面接もリモートか動画面接を入れる。そもそも面接と呼ばずに、単純に「面会」「面談」をする。事前準備はなしにする。そうすればよいのです。

■志望度で評価しないこと

このようにすれば、きっと面倒くさがり屋の優秀な人材に会いやすくなります。そして、そういう人はあまり就職・転職活動をしていないはずですから、発見さえできれば、他社と競合せずに採用できる可能性が高まります。

最後に1つだけ注意ですが、経営者や人事責任者などその後に選考をする人がこの方針を理解していないと、「この人はうちに志望度が低い」「やる気がない」などと評価されて落とされてしまいます。「就職意識低い系」を狙うなら、採用に関わる人全員がその方針を理解して、「志望度は評価するものではなく、こちらが高めるもの」と肝に銘じておくことが重要でしょう。

HRZineより転載・改訂

人事コンサルティング会社 株式会社人材研究所 代表取締役社長

愛知県豊田市生まれ、関西育ち。灘高等学校、京都大学教育学部教育心理学科。在学中は関西の大手進学塾にて数学講師。卒業後、リクルート、ライフネット生命などで採用や人事の責任者を務める。その後、人事コンサルティング会社人材研究所を設立。日系大手企業から外資系企業、メガベンチャー、老舗企業、中小・スタートアップ、官公庁等、多くの組織に向けて人事や採用についてのコンサルティングや研修、講演、執筆活動を行っている。著書に「人事と採用のセオリー」「人と組織のマネジメントバイアス」「できる人事とダメ人事の習慣」「コミュ障のための面接マニュアル」「悪人の作った会社はなぜ伸びるのか?」他。

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