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物価上昇の背景と金融政策の影響

久保田博幸金融アナリスト
(写真:つのだよしお/アフロ)

 9月29日に発表された8月の全国消費者物価指数は総合で前年同月比プラス0.7%、日銀の物価目標となっている生鮮食品を除く総合(コア)で同プラス0.7%、生鮮食品及びエネルギーを除く総合(コアコア)で同プラス0.2%となった。

 コア指数の最近の推移をみてみると5月と6月が前年比プラス0.4%、7月が同プラス0.5%、8月が同プラス0.7%とじりじりと上昇幅が拡大している。

 8月の前年比が拡大した要因として、原油や液化天然ガスの価格が上昇し、電気料金と都市ガス代が値上がりしたこと、さらに高額療養費制度の見直しで70歳以上の高齢者の自己負担額が引き上げられたことなどが主な理由としている(NHK)。

 原油価格の指標として使われているWTI先物は6月に42ドル近辺にあったのが、じりじりと回復し50ドルの大台を回復している。10月1日からヤマト運輸は宅急便を値上げするなど、今後はさらに物価上昇圧力が加わることも予想され、前年プラス1%あたりまでの上昇も十分ありうるか。

 ちなみにコアCPIの前年比がプラス0.7%となったのは2014年11月以来となる。2013年5月にコアCPIはプラスを回復し、2014年4月にプラス1.5%までプラス幅を拡大させた。日銀が量的・質的緩和を決定したのが2013年4月であり、1年後にプラス1.5%まで上昇し2%の物価目標ができるかに思えた。

 しかし、日銀の異次元緩和策がこのようにタイムリーに効果が出たとする考え方自体、おかしかった。日銀も緩和効果が出るまである程度タイムラグがあるとしていたはずである。つまりこのときの物価の上昇は日銀の緩和効果がダイレクトに効いたというよりも、円安や消費増税に向けた駆け込み効果等の影響が大きかった。

 その後の消費者物価指数は再びマイナスに転じたが、これを2014年4月からの消費増税による影響とすることもおかしい。もちろんそれまでの反動もあったろうが、円安効果が一巡した上、原油価格の下落などが影響を与えたとの見方の方が自然である。

 日銀の大胆な金融政策は実は物価に対してダイレクトな影響は与えていないことを、日銀はこの4年ちょっとで示すことになった。元々無理があったリフレ派の考え方を無理矢理日銀に押しつけ、その結果が出なかったことで日銀の無理矢理な政策だけが残されてしまっている。

 日銀は9月の金融政策決定会合における主な意見に、「2%の「物価安定の目標」に向けたモメンタムは維持されている。もっとも、その実現までにはなお距離があることから、現在の強力な金融緩和を粘り強く推進していくことが重要である。」とあった。これはたぶん黒田総裁など執行部の意見かとも思われるが、「現在の強力な金融緩和を粘り強く推進していくこと」をそろそろ再考する必要があると思われる。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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