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東大生が電車内で強制わいせつ センター試験前日に高校生を狙う犯行、3回目の逮捕

小川たまかライター
(写真:Rodrigo Reyes Marin/アフロ)

 センター試験当日の1月17日夕方に、東京大学農学部4年の男子学生が、電車内で女子高生を触ったとして強制わいせつの疑いで逮捕されたことが報じられている。報道によれば、この学生は昨年、一昨年に続き3回目の逮捕という。

調べに対し、(略)「痴漢する相手を探していた」と話す一方、「パンツの上から触った」などと容疑を一部否認しているという。

(略)去年と2018年も痴漢行為で逮捕されていたという。

出典:東大生 電車内で女子高生の下半身触ったか(日テレNEWS24/2020年1月19日)

 ネット上では以前から、「センター試験当日は(被害に遭った生徒が)遅刻できないから通報できず狙い目」などという内容の書き込みが目立ち、これをきっかけに、電車内をパトロールするなどして受験生を見守る「#withyellow」のアクションが呼びかけられていた。事件はセンター試験前日に起こった。【1月20日14時45分】記事公開時、誤って「センター試験当日」としていました。タイトルと本文を修正しました。

 報道を見て感じたことは、性犯罪の加害者が加害者臨床や再犯防止プログラムにつながることの難しさだ。逮捕歴があったという報道が事実であるならば、男子学生は逮捕されたあとも被害者を出し続けていたことになる。

 性犯罪者に対する処遇プログラムは設けられているが、受けられるのは現状では受刑者のみ。この学生の場合、1回目・2回目の逮捕時は示談、不起訴となっていたと予想される。今回も、起訴されるかはまだわからない。本人のSNSでは、他愛ない日常生活が綴られ、大手企業に就職が内定したことも書き込まれていた。

 自分から民間の加害者臨床を訪れる人もいるが、まだその存在が広く周知されているとは言いづらい。初回の逮捕時には家族や周囲に「冤罪だけど仕方なくお金を渡して示談した」などと説明し、逮捕回数が重なってようやく家族が「本当にやっているのでは」と気づき受診するケースも少なくないという。

 「痴漢」で検索すると、加害者のために法的サポートをする弁護士事務所のウェブサイトがいくつもヒットする。示談の方法、前科がつかないようにするためにはどうすれば良いか、などが詳細に説明されている。こういったウェブサイトでは、痴漢と呼ばれる犯罪のうち、「迷惑防止条例違反」になるか「強制わいせつ罪」になるかの違いが説明されていることもある。

 違いは、大雑把に説明すれば下着の中に手を入れたかどうかなど。男子学生の「パンツの上から触った」という一部容疑否認は、この知識からではないだろうか。痴漢行為は「性欲にかられた衝動的な犯行」ではなく、「繰り返される計画的な犯行」であることが多いと専門家は指摘している。

【関連】「性犯罪者は“マジック”で自己正当化する」 加害者臨床から見た“男が痴漢になる理由”(2017年9月19日)

 加害者のための法的支援サイトがいくつも存在するのはそれだけ需要があるからなのだろう。将来のために前科をつけないことも必要だろうが、それ以上に、性依存のためのクリニックや、性犯罪者のための加害者臨床の存在も知られてほしい。もし家族や知人が性犯罪で逮捕された場合には、クリニックの受診をすすめる選択肢があることを知ってほしい

 裁判は被害者にとっても負担があるため示談を選ぶ被害者も多いが、被害者が望むのであれば、示談の内容に「加害者臨床のためのクリニックを受診してほしい」という希望を含めても良いのではないか。

【関連】性暴力の被害者のための法的支援もある→知られてほしいけど知られていない 性暴力被害に遭ったときの法的支援

 現状では、臨床につながるのはすでに何年にもわたって加害を繰り返し、何人もの被害者を出してから、であることが多い。加害者臨床が必ずしも効果を発揮するとは限らないが、それでも臨床につながるまでの時間を少しでも短くできたら良いと思う。

 性犯罪を繰り返す人は、「相手も喜んでいる」「優しく触っているから痴漢ではない」という間違った認識を持ち、「成功」するたびにその認識を深める傾向がある。逮捕という更生につながるためのきっかけを無駄にしないでほしい。

大学の処分は

 ネット上では、東大の処分がどう行われるかについても話題となっている。大学ジャーナリストの石渡嶺司さんに学生が逮捕された場合の大学の処分について聞いたところ、次のような回答だった。

 東大の処分(懲戒処分)については、以下が該当します。

東京大学学生懲戒処分規程

 これをもう少し、分かりやすく出しているのが北海道大学。

学生の懲戒

 こちらでは、痴漢犯罪について「退学、停学または譴責(けんせき)」としています。東大もこれとほぼ同じと思われます。

 複数回、痴漢で逮捕されている、とあるので、おそらく今回は退学ないし無期停学という重い処分になることが予想されます。

 処分の時期ですが、逮捕されたら即懲戒というわけではありません。

 「学生懲戒委員会」というものを設置して、そこで懲戒の是非などを検討します。

 仮にですが、学生が不服申し立てをした場合はその言い分なども聞くことになります。

 本人が非を認めていれば、処分の確定は早く、大学によって差があります。(石渡嶺司さん)

 ただ、大学が学生の処分を公表するかについては非常に慎重な場合が多い。「大学は教育機関であり、処分は教育的指導だから」(大学関係者)というのがその理由だ。

 ちなみに石渡さんによれば、2008年に起きた甲南大学の男子学生による痴漢でっち上げ事件(虚偽告訴容疑)では、逮捕から6日後というスピードで、無期停学処分/その後、学生と接見した上で退学処分としたことを発表している。

 東大生が逮捕されたからといって東大に問題があるなどと言う気はもちろんないが、教育機関であるならば、どの大学も性に関する講義やオリエンテーションにも前向きに取り組んでほしいと思う。車の運転やアルコールの危険について教えられることはあっても、性暴力の加害者にならないためにどうしたら良いかや、被害に遭ったときにどのように対処したら良いかを教えられる機会は少ない。

 犯罪を犯す前に自分の認知の歪みに気づく。そういった機会が増えることを願っている。

ライター

ライター/主に性暴力の取材・執筆をしているフェミニストです/1980年東京都品川区生まれ/Yahoo!ニュース個人10周年オーサースピリット大賞をいただきました⭐︎ 著書『たまたま生まれてフィメール』(平凡社)、『告発と呼ばれるものの周辺で』(亜紀書房)『「ほとんどない」ことにされている側から見た社会の話を』(タバブックス)/共著『災害と性暴力』(日本看護協会出版会)『わたしは黙らない 性暴力をなくす30の視点』(合同出版)/2024年5月発売の『エトセトラ VOL.11 特集:ジェンダーと刑法のささやかな七年』(エトセトラブックス)で特集編集を務める

トナカイさんへ伝える話

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これまで、性犯罪の無罪判決、伊藤詩織さんの民事裁判、その他の性暴力事件、ジェンダー問題での炎上案件などを取材してきました。性暴力の被害者視点での問題提起や、最新の裁判傍聴情報など、無料公開では発信しづらい内容も更新していきます。

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