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2021年の中国の流行語 最も世相を表したものは何だったか?

中島恵ジャーナリスト
流行語をよく使う中国の若者たち(写真:ロイター/アフロ)

中国でも毎年12月になると「今年の流行語」が発表される。国内の大手紙やテレビ・ラジオ局などの情報をもとに選ばれた流行語と、文学雑誌が発表する流行語の2種類あり、一部は重複している。

政治的な言葉や、日本同様、「これ、本当に流行したの?」と思われる言葉も含まれているが、この中からネットを中心に若者や子育て世代の間で「本当に流行した」と筆者が感じたものをいくつかピックアップして紹介する。

双減(シュワンジエン)

今夏以降、日本のメディアでもたびたび紹介されたので覚えている人も多いだろうが、中国で発表された「双減政策」で使われたことがきっかけだ。「2つの減少」という意味で、1つは宿題を減らすこと、もう1つは塾などを減らすことをいう。

受験競争があまりにも激化したことによる教育格差の是正や、家庭の教育費の負担を減らすというのが目的だ。

父母たちの間では宿題が減ったことよりも学習塾が突然閉鎖されたことに対する戸惑いが大きく、ネット上で「双減のせいで…」「双減になって、うちの子は…」というように、この言葉が頻繁に飛び交った。

学校の宿題に関しては、「これまで小学生には多すぎる宿題に親子ともども疲れ果てていた」家庭が多かったことから、内心では喜んでいる保護者も多かったが、学習塾に関しては教師たちが路頭に迷ったり、業種転換を迫られたりした企業も多く、社会全体に与える影響も大きかった。

躺平(タンピン)

今年5月下旬頃から突如として中国のネット上に登場した、まさに「流行語」がこれだ。夏ごろまではSNSで頻繁に見かけた。もともとは「横たわる」「寝そべる」という意味だが、「がんばらない」「最低限しか働かない」「質素な生活を送る」という低意欲、低欲望のライフスタイルを表す言葉として、多くの若者がネット上で使った。

もともとはある中国人が中国のコミュニティサイトに「躺平(タンピン)主義は正義だ」と書き込んだことがきっかけ。SNSでは「今日もタンピンしよう」という表現も見かけ、「タンピン主義」「タンピン族」などと呼び、議論が沸騰した。

若者たちがタンピンという言葉に共感した背景には、今の超競争社会の中国で暮らすのはあまりにも過酷で、プレッシャーが大きすぎることがある。

内巻(ネイチュアン)

これは2020年の後半によく見かけた流行語だが、今年も引き続き流行った。おそらく今後も定着する単語になる可能性が高い。躺平(タンピン)が流行ったことに関連する。内巻とは「不条理な内部競争」や「内部消耗」のことをいう。

たとえば、先生が5000文字の論文を提出するように学生たちに通達すると、学生たちはいい成績をもらうために、先生に何もいわれないのに自ら1万字の論文を書く、といったような風潮のこと。

中国のネット上では「内巻」で勝ち抜くためには自転車に乗っている時間すら無駄にしてはいけない。車輪を漕ぎながら勉強するくらいがんばらなければ、といった話もよく載っている。

YYDS(永遠的神=ヨンユエンダシェン)

今夏、東京五輪の際によくネット上に書いている人を見かけた、これもまさに流行語。「永遠的神(ヨンユエンダシェン yong yuan de shen)」の中国語の読み方の頭文字を取ったもの。「すごい」「神ってる」などの意味で、東京五輪で活躍した中国選手を褒めるときなどにSNSに頻繁に書き込まれた。

同じく「すごい」などの意味では「絶絶子」(ジュエジュエズ)、「給力」(ゲイリー)などの言葉もあるが、最近ではすでにあまり使われなくなっている。

日本同様、中国でも、流行語の中で、その後もずっと残るもの、数か月で完全に消え去るものがある。

政治用語も流行語にランクイン

このほか、「野性消費(イエシンシャオフェイ)」(非理性的でワイルドな消費)、「鶏娃(ジーワー)」(熱狂的に子どもに詰め込み教育をすること)、「飯圏(ファンチュエン)」(アイドルや著名人のファングループ)などの言葉もランクインし、実際に筆者もこれらがSNS上で使われているのを見かけた。

「飯圏」は数年前から定着している言葉で、すでに流行語とはいえないが、今夏、政府の芸能人への締めつけが強化されたことに関連して、今年はとくに使用される頻度が高かったようだ。

以下は巷で流行したとはいい難いが、政府の重要演説などで使われた「百年未有之大変局(100年間なかった大変動)」、「小康」(ややゆとりのある社会)、「建党百年」(中国共産党ができて100年)などの政治用語。

これらも「流行語」としてランクインした。今年、中国共産党の創設期を描いて大ヒットしたドラマ『覚醒年代』の名前もあった。

コロナ関連の言葉も

また、流行語にはカウントされなかったが、日本同様、「疫苗接種」(ワクチン接種)、「新型冠状病毒肺炎」または「疫情」(新型コロナウイルス)、「隔離」(隔離)という言葉は、昨年に引き続き、今年も日常会話やネット上で多く使用された。

1年間を通して、中国の人々によく使われた言葉の共通点を見てみると、政府の「共同富裕」(ともに豊かになる)政策に関連していることがわかる。

「共同富裕」という言葉自体はランクインしなかったが、コロナ禍の中、人々が政府の政策のもとで右往左往したり、政策の影響を受けて生活していることが、今年の流行語からも垣間見ることができる。

ジャーナリスト

なかじま・けい ジャーナリスト。著書は最新刊から順に「日本のなかの中国」「中国人が日本を買う理由」「いま中国人は中国をこう見る」(日経プレミア)、「中国人のお金の使い道」(PHP新書)、「中国人は見ている。」「日本の『中国人』社会」「なぜ中国人は財布を持たないのか」「中国人の誤解 日本人の誤解」「中国人エリートは日本人をこう見る」(以上、日経プレミア)、「なぜ中国人は日本のトイレの虜になるのか?」「中国人エリートは日本をめざす」(以上、中央公論新社)、「『爆買い』後、彼らはどこに向かうのか」「中国人富裕層はなぜ『日本の老舗』が好きなのか」(以上、プレジデント社)など多数。主に中国を取材。

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