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中露の策略的連携はアメリカに脅威 米FOXニュース

遠藤誉中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士
ウズベキスタンにおける中露首脳会談で、わざと笑顔を押し殺す習近平(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

 日本ではウズベキスタンにおける中露首脳会談に関して、プーチンが習近平に見捨てられたという皮相的分析が多い中、アメリカでは中露首脳が策略的連携で動いており、それがアメリカに脅威を与えていると分析している。

◆「中露の策略」を見抜いた米FOXニュース

 9月15日の米FOX(フォックス)ニュースは<拡大する中露の戦略的連携がアメリカに実存的脅威をもたらす5つの理由>という見出しのニュースを報道した。サブタイトルには「中露はアメリカ社会を不安定化させる黒幕的戦略を持っている」とある。

 筆者は9月17日のコラム<中露首脳会談 習近平の存在感を強調して欧米の介入を排除>で、「習近平とプーチンは水面下で打ち合わせ、ウクライナ侵略に批判的な中央アジア諸国を取り込み上海協力機構(SCO)の団結を強化するために、公式会談の席ではわざと笑顔を見せず、公式会談後に二人でこっそり密会して(成功を祝った)」という趣旨のことを書いた。

 当該コラムで、「決定打となる証拠」と位置付けた、「公式会談後の習近平とプーチンの密会」に関する駐中国ロシア大使館のウェイボーを再び貼り付けたい。

原典:駐中国ロシア大使館のウェイボー
原典:駐中国ロシア大使館のウェイボー

 こういった歴然たる証拠を示したにもかかわらず、日本はまるで「情報統制」がなされているかのように、ほぼあらゆるメディアが「プーチンが習近平にまで冷たくされて孤立した」と報道し、「習近平とプーチンの演技」とも言える「悪だくみ」を見抜くメディアはなかった。

 そのような中、元長野県知事で元国会議員であり、『なんとなくクリスタル』で一世を風靡したこともある作家の田中康夫氏が、筆者のコラムを「記者クラブ媒体の浅薄な記事とは雲泥の差」とツイートして下さっているのを発見した。

 また日本放送の「辛坊治郎ズーム」の辛坊氏は筆者のコラムに注目して下さり、9月19日に当該ラジオ番組で、「中露と中央アジアの国々の本音 SCOとは?」を組み、軽妙なトークで筆者の見解に焦点を当ててくださった(約26分辺りから)。

 それ以外は日本のメディアは押し並(な)べて「習近平にさえ見捨てられ、孤立したプーチン」というトーンで統一されていた。

 したがってアメリカのFOXニュースが「習近平とプーチンの悪だくみ」という位置づけをしていることは、驚異的な話で、このニュースに強く惹きつけられたのである。

◆「中露の悪だくみがアメリカに脅威をもたらす5つの理由」とは?

 冒頭のFOXニュースは、「中露の悪だくみがアメリカに脅威をもたらす5つの理由」を以下のように列挙している(概略)。

 1.中露両政権は、スパイ活動、秘密の影響力作戦、転覆、選挙干渉などを通してアメリカ社会を不安定化させる長期戦略を操ってきた。

 2.中露両国は、ウクライナ戦争や台湾に対する攻撃にワシントンが介入した場合、戦場でアメリカを打ち負かそうとするドクトリンを開発している。モスクワと北京が戦闘作戦のタイミングを合わせれば、ペンタゴンの「二大戦争シナリオ」に重大なリスクをもたらす可能性がある。ウクライナへの輸送拡大の結果としてのアメリカ兵器供給の枯渇に対する懸念は、アフガニスタンからのワシントンの混沌とした撤退と相まって、二つの戦域で同時に戦うアメリカ軍の戦闘準備に疑問を投げかけている。

 中露は、どちらかがNATOに敗北した場合、紛争で互いに助け合うために介入することさえあるかもしれない。核戦争は、モスクワと北京の戦闘計画の潜在的な構成要素だ。ロシアは核兵器を壊滅的な紛争を回避するための心理的抑止力と見なしておらず、アメリカの介入やNATO軍による敗北を食い止めるための戦場能力と見なしている。ロシアはすでに戦術核兵器で米国より優位に立っている。ミサイルに関しては、アメリカの ICBM 戦力を近代化させないと、中国の新しいミサイル防衛技術に対抗することができない。

 3.中露は、アメリカのテクノロジーへの依存を「重大な脆弱性である」と特定し、その脆弱性を狙っている。たとえば、サイバー攻撃と宇宙戦争の武器を開発して、米軍および民間ネットワークを劣化または破壊し、銀行や交通機関から病院や原子力発電所に至るまで、アメリカの重要なインフラストラクチャの脆弱性に的を絞って攻撃しようとしている。問題を認識したペンタゴン(国防総省)は、中露の宇宙兵器の脅威に関する機密審議を行っているところだ。

 4.中露の加速する経済協力は、国際通商と投資の中心がアジアに移っているという彼らの予測によって後押しされている。両国はすでに、西側の SWIFT システムを迂回して、ユーロやドルの代わりにルーブルや人民元で二国間取引を行う方法を確立している。中国の一帯一路構想をロシアのユーラシア経済連合と統合する計画が進行しており、国際準備通貨としてドルを中国人民元に置き換えるという中国の長期目標に影響を与えている。

 中国は西側の厳しい制裁に見舞われているロシアに重要な経済生命線を提供している。550 億ドル規模の大規模共同パイプラインであるシベリアの力は、すでにロシアのガスを中国の一部に送っており、2025 年に完全に稼働する予定だ。これらの新しい収益源により、ロシアは、主要な天然ガスパイプラインであるノルド・ストリームを再開しない可能性がある。

 5.中露は共通の大義によって団結しており、世界におけるアメリカの役割を縮小し、権威主義的な統治システムを促進するために彼らの積極的な政策を調整し、「プーチンと習近平は快適な関係を享受している」。さらに重要で危険なのは、結局のところ、この「戦略的野心を持った二人の男が、反米を明確に表明した」ということだ(筆者注:ウズベキスタンにおける上海協力機構会議の「サマルカンド宣言」において表明)。

 習近平は、経済的繁栄と軍事力という100年来の「中国の夢」実現を実践し、「復活への道」(中華民族の偉大なる復興)に沿って中国を世界で最も有力な大国に変え、中国建国100周年である2049年までにアメリカに取って代わろうとしている。

 しかし、プーチンがウクライナで敗北に直面する可能性がある今、軍事的手段を採用することに消極的だった習近平は、ワシントンが二つの戦争を同時に処理する準備ができていないという認識を持っているため、自国の長期的夢の実現という目的を達成するため、危険な選択をする可能性がある。

 アメリカの敵である中露という二つの核武装した同盟国は、その関係を拡大させ、両国の将来に野心的であることは、わが祖国アメリカにとって大きな危険をもたらすのである。(概要は以上)

 以上、FOXニュースの英文を、より正確に和訳しようとすると、逆に訳が分からなくなってしまうので、一定程度意訳し、概要のみを示した。

◆国際問題に関する日本のジャーナリズムは死んでいる

 上掲の「5つの理由」はFOXニュースの主張であって、筆者としては「そこは違うのではないですか」といった、筆者なりの解釈を言いたい部分もあるが、本稿はそのことが目的ではなく、長くもなるので省略する。

 ここで言いたいのは、このようにアメリカでは多極的視点から真実を追求しようという姿勢が各メディアにあって、日本のような言論統制的な画一的方向報道という、「ジャーナリズムが死んでしまった状況ではない」ということである。

 日本では何というか、「官僚的民主主義」あるいは「忖度報道」というのか、国際問題に対するジャーナリズム精神が喪失してしまっている状況があり、筆者はコラムを書くことによって「孤軍奮闘」している感をぬぐえないが、アメリカではこうして多角的視点から自由な言論活動が行われていることに感動してしまったのだ。

 辛坊氏とのトークで筆者は、上海協力機構を「NATOに相(あい)対する存在」という趣旨のことを言ったが、放送後に見つけたFOXニュースの冒頭では、やはり「NATOのアジア版の一種である上海協力機構」と位置付けていることも共鳴できる。

 中露首脳会談に関しては、「あの習近平にまで見捨てられた哀れなプーチン」と大合唱するのではなく、「習近平とプーチンが演技して見せた悪だくみ」を見抜かないと、日本としては国家戦略を完全に見誤り、日本国民の利益を損ねる。

 日本のジャーナリズムのこの傾向は、このたびの旧統一教会と自民党との癒着関係をないがしろにしてきた背景にもつながり、いま現在は安倍元総理銃撃事件によって、その傾向が打ち砕かれ、活発な報道が呼び覚まされているのは歓迎したい。その覚醒はなぜか、国際問題に関しては影響をもたらしておらず、画一的で表面的な報道に甘んじている状況が続いている。これがやがて、国家の大きな損失につながることに気付いてほしいと強く望む。

 その点、鋭い感覚を持った田中康夫氏や、自由自在な独自の発想に基づくトークを展開する辛坊氏などが活躍しておられることに救いを見い出すのである。

中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士

1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。中国問題グローバル研究所所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。日本文藝家協会会員。著書に『中国「反日の闇」 浮かび上がる日本の闇』(11月1日出版、ビジネス社)、『嗤(わら)う習近平の白い牙』、『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』、『習近平三期目の狙いと新チャイナ・セブン』、『もうひとつのジェノサイド 長春の惨劇「チャーズ」』、『 習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』など多数。

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