実際は減っている、けど8割近くは「5年前と比べて少年重大事件は増えている」と思っている
年上ほど「少年重大事件は増加」と強く認識している
少年(14歳から19歳までの少年・少女)による犯罪行為は、軽微な物、重大なもの、いずれも数、対人口比で大よそ減少傾向にある。例えば警察庁が発表している年次ベースでの最新データとなる「平成26年中の少年非行情勢について」によると、この10年で刑法犯少年の検挙人員は半数以下、該当年齢階層の人口比でも4割強にまで減少している。凶悪犯に限定しても人員はほぼ半減、窃盗犯なら4割足らず。増加している区分はごく少数の検挙人員数のものや、新しいタイプの犯罪でしかなく、そちらも人員数は少数でしかない。
一方で世間ではむしろ「少年による(重大)事件は増えている」との認識が一般的。その実情を内閣府が2015年9月に発表した世論調査「少年非行に関する世論調査(平成27年7月調査)」から確認する。
調査調査対象母集団に対し「少年」の定義、さらに「少年非行」に関して「少年が行った犯罪と、喫煙や飲酒、深夜はいかいなどの不良行為を含めたもの」と説明した上で、「少年非行に関するご意見をうかがいます」との前提で、回答者の実感として5年前と比べて少年による重大な事件が増えていると思うか否かを尋ねたところ、78.6%もの人が増えているとの回答を示した。「かなり増えている」とした人だけでも4割を超えている。減っているとの認識を示した人は2.6%でしかない。なお今件では「重大」の具体的仕切り分け、定義は説明していないので、回答者のイメージ・認識によるものとなる。
どの世代でも「少年重大事件は増加している」との認識は圧倒的多数派。事実通りの「減少している」と理解している人はごく少数に留まり、20代でも4.7%でしかない。
男女別では男性よりも女性、年齢階層別では若年層よりも高齢層の方が「かなり増加」の値が大きく、「分からない」「減少している(強度を問わず)」の値が小さく、年上の人ほど少年による重大犯罪の増加を(誤)認識している実態が確認できる。この状況はかねてから語られていた話ではあるが、今回統計値として確認できたことになる。
子供のあるなし、歳別に見ると
男性より女性、若年層より高齢層が多い「少年重大事件は増加している」の誤認識状況だが、回答者の子供の状況別に仕切り分けをすると、別の動きが見えてくる。
回答者に子供がいるか、居る場合はその年齢による違いでは、中学生でややイレギュラーな動きを示しているが、それ以外は大よそ子供の年齢が上になるほど増加派の回答率が増え、変わらないとの意見が減っている。子供がいない回答者では増加派は7割までに減ってしまうのが印象的ではある。
今回抽出した各属性における、「少年による重大事件は増加している」との認識を示した人の割合をまとめると次の通りとなる。
実態と異なる「少年による重大事件は増加している」との理解を持つ人がいずれの属性でも2/3を超えていること、男性より女性、年上や子供が居る、しかもその子供が年上になるほどその認識が強くなっている。
「なぜそのような認識に至ったのか」に関する設問は無いため、原因は今調査からは確認できない。しかし「重大」の回答者における認識の違い、事実啓蒙の不足、情報伝達量の変化、さらに歳を重ねるに連れて過去の事案は忘却してしまい、近しい時期の事案のみ記憶に残ることなど、理由は多数推測できる。また、詳細は別の機会に譲るが、回答者自身が身近に見聞き、体感した少年非行の事案も減少傾向にあり、「統計的には減少しているかもしれないが、それぞれ個人が身の回りで起きている事案が増えているので、少年の非行事案、重大事件が増加していると思ってしまう」との仮説も成り立たない。
昨今では過去には生じ得なかった、生じにくい事件、例えばスマートフォンやインターネット関連の事案が生じる、報じられることが多々あるため、「過去には無く、今ではある」との認識が「増えている」の結論に結びついているのかもしれない。過去には原因事象そのものが無かったのだから、該当事案のみに限定すれば確かに増えているが、少年事件としてのくくりでは減少していることに違いは無いことは、上記の資料にある通り。
事件のさらなる減少を目指して多方面の施策を打ち出すこと自体は望ましい話に違いないが、一方で事実と異なる認識のもとに判断が下されることは、極力避けねばなるまい。
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