存在意義が問われる立憲民主党―有権者への裏切りと党崩壊、再び?
各メディアの報道によると、立憲民主党の代表選で最有力な候補は、野田佳彦元首相であるらしい。遠慮なく言わせていただこう。なんと馬鹿げたことなのか。立憲民主党は、有権者の期待を裏切り、総選で壊滅的敗北を喫し、最終的には党が崩壊した民主党時代の過ちをまたも繰り返そうとするのか?野田元首相については、いろいろ批判されるべきところがあるだろうが、本稿では主に脱原発の視点から、野田元首相が代表選に出馬したこと自体がおかしいことを論じていく。
〇野田元首相が代表選に出馬すること自体に疑問
野田元首相への違和感を持っているのが筆者だけではないことは、例えば、X(旧ツイッター)での鈴木耕氏(フリーランス編集者&ライター)の投稿に対する反応に表れていると言えるのではないか。
鈴木氏の投稿は41万回表示され、1万の「いいね」がされている。鈴木氏はウェブ媒体「マガジン9条」で、何故、野田氏に批判的であるかの詳細を書いており、その主張には、筆者も全く同感だ。とりわけ、原発の再稼働の容認に関しては、筆者も野田政権時に首相官邸周辺での大規模デモ(主催者発表では「20万人」、筆者が見たところ少なくとも数万人はいた)を取材したので、強く印象に残っている。あの場にいた人々は、本当に野田政権に対し憤っていた。
〇現在も原発再稼働容認、立憲の党是はどこに?
そして、呆れたことに、野田元首相は今なお、原発の再稼働を「条件付き」で容認するとしている。時事通信の記事によれば、その「条件」とは、実効性のある避難計画と地元の合意だとのことだが、能登半島地震では、道路があちこちで寸断され、避難所も被害を被るなど、原発事故と地震の複合的な災害が発生した場合、避難計画など絵に描いた餅になることを、まざまざと見せつけたばかりだ。
筆者は立憲民主党の立ち上げも取材したが、立憲民主党が結党時に掲げ、今も党綱領の明記しているのが「原発ゼロ」だ。その党是とも言える政策を、野田元首相は今月7日の討論会で「原発ゼロ」は掲げないと発言するなど、否定しているのである。その野田元首相が代表になるならば、立憲民主党の存在意義すら問われかねない。
〇硬直したエネルギー政策が日本を衰退させる
野田元首相は、今回の代表選で政権交代への強い意欲をアピールしているが、仮に野田元首相が立憲民主党の代表となり、(その可能性は低いが)政権交代を実現させたところで、自公政権と政策が変わらないのであれば、政権交代の意味自体が希薄になる。野田元首相は、一応、エネルギー政策について、「足元での安定供給の確保を大前提に、中長期的には再生可能エネルギーを可能な限り大量に導入し、原発に依存しない社会を実現」するともしているが、その程度のことは、自民党でさえ、言葉だけにせよ掲げている政策である。
自公政権の問題点の一つとして、自民党との関係の深い電力大手に配慮し、遅々としてエネルギーをめぐる状況の大転換が行われないことがある。そして、大きな変革が行われないまま、ロシアによるウクライナ侵攻等による石油や天然ガス、石炭等の価格上昇などのエネルギー価格高騰が、ただでさえ停滞している日本経済を更に圧迫し、庶民の生活をより厳しいものとしている。一方、世界に目を向ければ、IRENA(国際再生可能エネルギー機関)の報告によると、2023年に新たに導入された太陽光や風力等の再生可能エネルギーの発電設備導入量は、なんと473ギガワットにものぼるという(関連情報)。実際の稼働率*を別にして大雑把に言うならば、1ギガワットの発電設備容量は原発1基分に匹敵するから、昨年だけで世界全体で原発473基分の再生可能エネルギーが導入されたとも言える。
*一般に太陽光発電の稼働率は原発より低いとされるが、原発も長期の点検等で実際の稼働率はまちまちである。2023年度の国内の原発稼働率は28・9%だった。
再生可能エネルギーの強味は、導入の速度が圧倒的に早いということである。たった1年で世界で473基の原発を新たに導入・稼働させることは不可能だが、再生可能エネルギーはそれが可能なのであることは上述の統計が示している。かつて再生可能エネルギーの弱点とされた「天候まかせの不安定さ」も、大型の蓄電施設の設置や広域での電力融通等でクリアできる。電気自動車が普及すれば、そのバッテリーが無数の蓄電施設として、需要と供給の調整に寄与することが可能だ。発電効率や価格でも、今や多くの国々で、太陽光発電が最も優れた発電方式となりつつある。
再生可能エネルギーをめぐる状況は大きく変わったのにもかかわらず、自公政権は、火力発電と原発に依存する前世紀的なエネルギー政策にとどまってきた。化石燃料の輸入のために、日本は年間35兆円を費やし、国富を海外に流出させてきた(2022年統計)。その莫大なお金を国内で循環させる機会を、日本は失い続けてきたのである。そうした、前世紀的な自公政権のエネルギー政策と、野田元首相のエネルギー政策がどれほど違うのか。少なくとも、現在までに公にされている野田元首相の数々の言動から言えば、自公政権のそれと大差はないのではないか。
〇野田代表の立憲で政権交代の意味はあるのか?
筆者は、政権交代は必要だとの立場ではある。自公政権は十分な時間があったのに、その変革はあまりに遅く、むしろ脱原発・脱炭素の流れに強く抵抗している。こうした政権は日本の人々にとっても世界全体にとっても、有益とは言えない。
昨年や今年の夏の異常な猛暑や相次ぐ豪雨などの災害は、地球温暖化の進行が大きく影響していることは気象庁も認めるところだ(関連情報)。破局的な地球温暖化の影響を避けるには、2030年までに世界のCO2排出を半減させる必要があるが、現状、日本がその足を引っ張る国の一つとなってしまっている。上述した様に、新たな導入が難しい原発に依存するということは、結局、火力発電に頼るということになるし、事実、日本のこれまでのエネルギーの実態がそうしたものだった。だが、仮に政権交代したとて、野田元首相が立憲民主党を代表として率いるのでは、ダイナミックな変革は期待できず、それならば、何のための政権交代か、何のための野党第一党か、ということが問われる。
野田元首相はその面倒見の良さやバランス感覚から、立憲民主党内で評価は高いようであるが、そうした狭い内輪の視点ではなく、大局を見ての代表選になることを、一有権者として切に願う。
(了)