立民・石川氏憤り「人の心はあるのか」大腿骨壊死を2年半放置で寝たきり、排便はベッドの穴へ―入管の非道
名古屋入管に収容されていたスリランカ人女性、ウィシュマ・サンダマリさんが昨年3月に亡くなってから1年近くが経つ。ウィシュマさんの著しい健康状態の悪化にもかかわらず、適切な医療を受けさせず死なせてしまったことで批判を浴びた法務省及び出入国在留管理庁(入管)は、再発防止をアピールするものの、やはり人の命や健康を軽んじる体制は変わらないようだ。大村入管管理センター(長崎県大村市)では、収容時には健康であったネパール人男性を、寝たきりの状態にしてしまったことが発覚。症状が悪化する一方、入管側は治療を行なわず、このままだと生命すら危ういと、弁護士や支援者らは懸念している。しかも、入管本庁は、本件について問い合わせしている筆者や国会議員らにも、ことごとく説明を拒否。有志の議員の一人、石川大我参議院議員は「人の心はあるのか?」と憤る。
◯健康だった39歳男性がボロボロに
ネパール国籍の男性Aさん(39歳)は、2009年に来日。インド料理のコックとして働いてきたが、その後、在留資格の更新が認められず、2018年11月に東京入管に収容され、2019年1月に大村入管管理センター(以下、大村入管)に移送されたのだった。その大村入管内でAさんが負傷したのは同年4月4日。左股関節を強く打ったAさんは医師の診察を求めたものの、診察を受けられたのは1週間後で、しかもレントゲンによる検査はなく、痛み止めを与えられただけであった。同年5月8日に大村入管内の医務室でのレントゲン検査が行なわれ「異常なし」とされたものの、痛みは激しくなるばかりで、同年7月にはAさんは自力での歩行が困難となり車イスを使うように。同年8月、大村入管はやっとAさんを外部の医療機関に受診させ、MRI検査で「大腿骨頭壊死」と診断されたのだった。ところが、その後も大村入管はAさんに対する具体的な治療を行なわないばかりか、定期的な検査すら行なわず、痛み止めを与えるだけであった。Aさんの症状はさらに悪化、昨年6月には自力で排尿することができなくなった。腎内カテーテルを挿入し、カテーテルの先に接続されたビニールバッグに排尿するようになったが、こうした排尿障害の原因も「寝たきりで筋力が低下していることが考えられる」のだという(外部医療機関の医師によるAさんへの説明)。
◯寝たきりになったAさん、入管には治療の責務
Aさんの弁護士らによれば、昨年12月には、股関節周辺の強い痛みから、Aさんはついに座ることもできなくなり、完全に寝たきり状態になってしまった。痛み止めも十分に効かず、痛みによる不眠も深刻だという。身体に広がった痛みで寝返りも打てない状態で、排便も寝たきりのままベッドの穴からベッドの下に置かれた簡易トイレにしており、間に合わない場合は、オムツに排便するようになった。左足は動かなくなり、右足も上方向に5センチ程度しか動かない状況なのだという。今年に入ってからは、Aさんは食事も十分取れないようになり、弁護士や支援者らは「このままでは衰弱死してしまうのでは」と懸念している。
収容している側が、被収容者の健康を維持する責任があることは、いわゆる「マンデラルール」(国連被拘禁者処遇最低基準規則)に定められていることだ。日本においても法務省令である「被拘束者処遇規則」の第30条に
とある。つまり、大村入管はAさんの治療を行なう責任があるのだ。そもそも、Aさんの病状がここまで悪化したことについて、2019年8月に大腿骨頭壊死と診断されたのにもかかわらず、約2年半も放置していた大村入管の責任は重いと言えるだろう。
◯野党議員らが申し入れ
Aさんの症状については、2019年の8月14日付で、大村市民病院が「手術適応を含め専門員への紹介をご検討下さい」との紹介状を作成している。筆者は、大村入管及び入管庁に対し「Aさんの治療のため手術は行なうのか?行なわないとすればどのような治療を行うのか?」と問い合わせたが、共に「個別のケースには回答できない」と説明を拒否。
先月24日に大村入管を訪れ、状況を確認した石川大我参議院議員(立憲民主党)は「大村入管内の医師が外部病院への紹介状に『入管では根治治療は行なわない』と書いてあり、入管での手術は行なわないのではないか」と指摘する。また、大村入管の所長は、石川議員に「今週中にもリハビリ施設に男性を移す」と話すなど、それなりに説明をしようとしていたが、同26日、入管の本庁は石川議員ら有志の議員らに「リハビリ施設への移送も決まったわけではない」と言ってきたのだ。しかも、Aさん本人が自身の状況を石川議員や支援者に伝えたがっているのに、本庁は「個人情報」を盾に説明を拒否。同28日には、石川議員と、鎌田さゆり衆議院議員、山田勝彦衆議院議員(いずれも立憲民主党)が、大村入管を訪れ事態の改善を申し入れたが、24日の対応とはうって変わり、入管の本庁の主張をロボットのように繰り返し「手術は必要ない」と主張した挙げ句、その根拠や手術を行なわないのなら、どのような治療を行なうかは、答えなかったのだという。これには、石川議員も「人としての心はあるのか」と憤る一方で、「Aさんへ適切な対応が行なわれていないのは、大村入管だけの責任ではなく、むしろ、本庁が阻害しているからなのではないか―そんな印象を持たざるを得ない」とも言う。
◯改まらない隠蔽体質、弁護を受ける権利も侵害
許しがたいのは、この期に及んで、まだ入管庁は「個別のケースにはお答えできない」「個人情報なのでお答えできない」等といった詭弁を弄し、記者や議員からの問い合わせへの回答を拒否していることだ。その様な、都合の悪いことは隠蔽する入管庁及び各地方入管に共通する姿勢こそが、記録されている限りウィシュマさん含め24人の被収容者が入管施設内で自殺或いは変死したり、適切な医療を受けられないことにより亡くなったりする事態を招いてきたのではないか。
石川議員や弁護士らが確認したところ、Aさんは、今、入管の収容施設ではなく大村市内の老人介護施設に移されたとのことだが、入管側が本件を世間の目から隠そうとする姿勢があからさまで、他の施設利用者と異なり、Aさんだけ支援者は面会できず、弁護士ですら短時間のみ。Aさんは孤立し、昨年1月に提訴した国賠訴訟への弁護士の協力を得ることも困難な状況だ。そもそも、Aさん健康状態悪化の根本的な原因である大腿骨壊死への治療を行なわないまま、リハビリを行なうことなど果たして可能なのか。議員らや弁護士、支援者らは入管側の対応に一層、不信感をつのらせている。
今回、大村入管に申し入れした鎌田議員は「日本の今の入管は、医師法に抵触しようが入管が上に位置付けられている」「日本の入管制度では怪我や病が悪化しても当然」等と指摘。ウィシュマさんを死なせてしまったことに対し、入管庁は改善策を行うとしているが、口先だけだ。収容をしてきた側の責任として、Aさんに誠意ある対応を入管はすべきだろう。
(了)