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花粉症の救世主?”鼻にワセリン”は本当に効くのか

市川衛医療の「翻訳家」
スギ花粉イメージ(写真:アフロ)

シーズンを迎えている花粉症。くしゃみやセキにお悩みの人も多いですよね。最近、ツイッターなどで「鼻の中に、ワセリンを塗ると症状が軽くなる」とにわかに話題になっています。

ワセリンは、原油を精製するときに出来る成分を原料に作られるゼリーで、保湿剤などに使われています。確かに花粉症は、鼻の粘膜などに花粉が付着して起きるわけですから、ゼリーを塗って花粉をシャットアウトしてしまえば効果がありそう。とはいえ、科学的な根拠はあるのでしょうか?そして本当に、効くのでしょうか?

一般に推奨される「花粉症対策」とは

まず、国内で一般的に推奨されている、自分でできる対策法(セルフケア)を探してみました。少し古い資料ですが、厚生労働省による花粉症のパンフレット(平成19年発行)患者さんに推奨したいセルフケアの項には次のような記載があります。

【外出時】

・防御具を装着し、眼・鼻をガードする

・ウールの服は避ける

【帰宅後は次のことを励行】

・手洗い、うがい、洗顔、上着を玄関ではたく

【家では】

・花粉の大量飛散時には窓を開けない、洗濯ものや布団を干さない

・洗濯ものはよくはたく

・その他(タバコは避ける、ストレスをためない)

ここには、ゼリーについての記載は見つかりませんでした。一方でパンフレットには「水や市販の洗浄液で眼や鼻を洗浄すると症状が緩和されることがありますが、花粉が逆流して戻り、かえって症状悪化につながる場合もあるため、医師に相談が必要です」との注意書きがありました。うーん、ゼリーを鼻に塗って、大丈夫なの?

本当に推奨されていた!

では続いて、海外の情報を。様々な病気の患者が「自分で出来る」対策を紹介している有名なサービスに、NHS Choicesがあります。イギリスの医療サービスを運営するNHS(国民保健サービス)が提供しているもので、科学的根拠に基づいた信頼できる情報が紹介されています。

では、NHS Choicesで、花粉症(Hay fever)の「予防」の項を調べてみます。すると・・・

NHS Choices「Hay fever」より。赤線は筆者
NHS Choices「Hay fever」より。赤線は筆者

ちょっと見にくいですが、スクリーンショットの赤線の部分をご覧ください。

和訳すると、「鼻の穴の内側(穴の入り口に近い部分)に少量のワセリン(ペトロレウムゼリー)を塗り付けることで、花粉が入るのを防ぐことができます」と書いてあります。

なんと!本当に推奨されていました。

では、効果はどの程度確かめられているのでしょうか?過去に世界中で行われた臨床研究を検索できるPubMed(パブメド)を使って調べてみます。「Pollen cream」(花粉 クリーム)などの語句で検索してみると、いくつかの研究が過去に行われていることが分かりました。

2013年に発表された中国の研究グループによる論文では、「プラセボ対照二重盲検下比較試験」という、非常に信頼性が高いといわれる方法によって効果を調べました。

研究グループは、慢性アレルギー性鼻炎と診断された患者さん30人を2つのグループに分け、ひとつのグループには、治療用のクリーム(ワセリンと同じ、原油を精製してできる成分を含む)を渡します。そしてもうひとつのグループには、偽クリーム(見た目は似ているが、別の成分が入っている)を渡しました。そして、どちらのグループにも、1日3回、鼻の内側にクリームを塗ってもらいました。

30日後、研究グループは患者さんたちを検査。鼻炎の症状を示す指標(NSSs)を調べました。すると・・・。

治療用のクリームを使ったグループは、開始前が23.4だったのに比べ、開始後は10.7と大幅な改善を示していました。しかし、偽のクリームを渡されたグループはあまり改善しておらず(開始前後で3.6の改善)、その差は統計的に有意であるとされました。(なおクリームを塗ることにより、悪い影響が出た人はいませんでした)

この結果から推測されるのは、ワセリンに含まれる成分は花粉をひきつけやすい性質があり、鼻の内部への侵入を防ぐことで、症状を軽くしてくれるのではないか?ということです。外出前などに、鼻の内側(穴の入り口に近い部分)に「少量」塗り付けるというのは、あくまで数ある対策のひとつとしてですが、「試してみても良さそう」と言えそうです。

もちろん、お薬とは違いますから「劇的な効果」があるかどうかはわかりません。また、試してもよいかどうかなど不安に思われた方は、ぜひ一度、かかりつけのお医者さんにご相談してくださいね。

医療の「翻訳家」

(いちかわ・まもる)医療の「翻訳家」/READYFOR(株)基金開発・公共政策責任者/(社)メディカルジャーナリズム勉強会代表/広島大学医学部客員准教授。00年東京大学医学部卒業後、NHK入局。医療・福祉・健康分野をメインに世界各地で取材を行う。16年スタンフォード大学客員研究員。19年Yahoo!ニュース個人オーサーアワード特別賞。21年よりREADYFOR(株)で新型コロナ対策・社会貢献活動の支援などに関わる。主な作品としてNHKスペシャル「睡眠負債が危ない」「医療ビッグデータ」(テレビ番組)、「教養としての健康情報」(書籍)など。

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