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日銀の点検にはなかった債券市場参加者の経験知への影響

久保田博幸金融アナリスト
(写真:つのだよしお/アフロ)

 日銀は3月19日の金融政策決定会合で、点検の結果を受けて金融政策の一部修正を行った。その点検の結果も同時に発表された。

 日銀のサイトにアップされた「より効果的で持続的な金融緩和を実施していくための点検」において、特に債券の市場機能への影響の部分を確認してみたい。

 日銀は「長期金利は、経済・物価に対する見通しのほか、海外の長期金利などの影響を受けて形成される」としている。

 しかし、これは現実と異なろう。長期金利は、経済・物価に対する見通しのほか、海外の長期金利などの影響を受けて形成されるはずだが、日銀によって動きが抑制されている。

 「イールドカーブ・コントロールの持続的な運営の観点からは、市場機能の維持と金利コントロールの適切なバランスを取ることが重要である。この点、金利の大幅な変動は、経済・物価に悪影響を及ぼす可能性があるが、金利の変動が一定の範囲内であれば、金融緩和の効果を損なわず、市場の機能度にプラスに作用すると考えられる」

 国債のイールドカーブは日銀というか、お釈迦様の手のひらのなかだけで動いていればよろしいと読めなくもない。

 10年債の0.2%程度の変動では、景気動向や海外市場動向を受けて市場参加者が読みを働かせて、自由な相場勘を形成し、それによって価格変動が起きること自体を日銀は抑制しているといえる。

 自由に動けない市場で何が起きているのか。その点についての点検はどうやら行われてはいなかったように思われる。

 債券市場は金融市場において株式市場や外為市場と並ぶ重要な市場である。そこでの動きが人為的に抑制されてしまうと何が起きるのか。

 そこでは市場参加者に必要な経験が積めなくなってしまうのである。相場勘と呼ばれるものは経験の積み重ねによって鍛えられる。しかし、ここまで相場が抑え込まれてしまうと、相場が動くという経験の積み重ねができなくなってしまう。

 私のように債券のディーリング時代を経験した参加者はすでに市場の一線を退いていよう。長期金利の2%超を経験した参加者も次第に少なくなっているのではなかろうか。それ以前に、日銀が相場水準を決めることになり、経験ある市場参加者そのものが退出してしまっている可能性もある。

 このまま長期金利が低位に抑え続けられることも考えづらい。日銀の出口戦略が思わぬ形で必要になることもないとはいえない。そのようなとき、これほど巨大化してしまった日本の国債市場で、市場参加者がうまく立ち回ることができるのか。そのような点検は必要ないのであろうか。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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