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学力テスト上位常連の福井県での言葉から「世界教師デー」を考える

平岩国泰新渡戸文化学園理事長/放課後NPOアフタースクール代表理事
(写真:アフロ)

今年の学テが発表

2016年度の全国学力テスト(学テ)の結果が文部科学省より発表されました。

集計の漏れにより1ヶ月ほど遅れましたが、無事に発表され一喜一憂している都道府県も多いかと思います。

今回の結果では石川県の躍進が目立ちました。

小中学校の国語・算数(数学)におけるAB問題全てで上位4位に入る安定度で、総合正答率の1位を福井県と分け合い、「石川県が大躍進、福井・秋田の2強と肩を並べる!」という記事がでました。

「福井・秋田・石川は学テのトップ3県」と言って良いと思います。

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福井県が強い本当の秘訣

かねてから学テの王者と言っても良い福井県・秋田県の秘訣については今まで色々なことが分析されてきました。

・探求型の授業

・少人数クラス

・家庭での学習習慣

・睡眠時間の安定

・朝ご飯習慣

このあたりがよく言われていたことでしょうか。

これらの秘訣を視察する、全国都道府県の自治体からの「秋田詣で」「福井詣で」も相次いで行われました。

視察の成果を活かして、授業改善や学テ対策に取り組んだ都道府県も多くあります。

私も1つの県で学力向上の委員を担わせていただいております。

各県が対策に取り組んだ結果、10年前は最も正答率の高い県と低い県の差は算数Aで12.4ポイント、国語Bで16.6ポイントでしたが、今回は算数Aで7.4ポイント、国語Bで8.6ポイントにまで縮まり、文部科学省は「学力の全国的な底上げが進んでいる」と胸をはりました。

確かにその通りかと思いますが、一方で学力テストの結果を上げるために先生が過去問対策を徹底するような「学テ対策」にも批判もあります。

また「学テと将来の幸せや地域力が一致していない。そんなテストに意味があるのか」という批判もあります。

学力テストが全てではないことはみんなの共通認識でしょうが、それでも何か普遍的な良い発見はないでしょうか。

そこで、私は福井県の方々に聞き込み、重要なキーワードを見つけました。

「先生はよくやっている」

それがそのキーワードです。

福井県の方々は「先生はよくやっとる」と言うそうなのです。

言い換えると、「先生への信頼度が高い」のです。

思えば昔の家庭は概ねそうではなかったでしょうか。

先生への尊敬が基本にあり、先生に怒られると家では「先生に怒られるようなことをして!」とさらに倍ぐらいの勢いで両親に怒られたものでした。

しかし、現代は先生に怒られようものなら「ウチの子は悪くないって言ってます!!!」と先生の何倍もの勢いで学校に乗り込む親がいます。

世の中全体で先生への信頼度が下がっていて、でも福井県は昔のように先生への信頼度が高いため、学校での授業も集中するし、家庭での学習もしっかり行われるのだというのです。

福井県は共働き率は全国で1・2位になるような共働きの盛んな県ですから、決して家庭での学習に親が時間をかけられるわけではありません。

しかしながら基本的信頼が学校と家庭にあり、家庭ではしっかりと先生の指導に従って学習がされます。

また三世代同居も多い福井県ですから、祖父や祖母が子どもたちを見ている状況も想像されます。

現地の人はこうも仰っていました。

「福井は昔の日本が残っているだけなんですよ」

先生と家庭の信頼が大きいことは人材供給の面でも非常に重要です。

先生が尊敬される仕事になればこそ、良い人材が先生を目指すようになるからです。

PISAの国際学力調査で上位国になる北欧の国々でも、「先生が憧れの仕事」になっているケースを多々見かけます。

日本もぜひそうなってほしいものです。

福井県からのもう一つのご指摘

もう一つ福井県の方に大切なご指摘を聞きました。

「福井県の規模くらいが施策が県全体に徹底されやすいんですよ」

福井県の小学校数は202校です(2016年度)。

秋田県は201校、石川県は212校です。

200校くらいの規模までだと都道府県の施策も一丸となって実施され成果があがるというわけです。

ちなみに横浜市の小学校数は約340校、名古屋市では260校、千葉市で115校、

政令指定都市になるとこのくらいの規模になりますので都道府県をあげて徹底するのもなかなか大変です。

さらに教員の世界には「都道府県と市町村」の問題があります。

学校は市区町村立であるが、教員は都道府県に任命権があるという問題です。

東京の23区などを見ていても、先生方に地域性を感じることは少ないです。

先生方も保護者や地域と距離をとる方も増えていると感じます。

なので、「地域一丸となって教育!」というのは難しいのです。

福井や石川、富山など北陸で全般的に学力が高いのは、家庭から先生が尊敬・信頼され、先生も地元の後輩たちに教育を施す。

また地域の規模も適当で教育施策が通りやすいというのが地元の方の分析でした。

10月5日は「世界教師デー」

10月5日はユネスコが定めた「世界教師デー」です。

多くの国が何かしらの時期に「先生への感謝」を表現するイベントをやったり、祝日を作ったりしていますが、日本では昨年あたりから少し動きが出てきたもののほとんど実施されていません。

たくさんの学校現場で仕事をする私達は、多くの先生方と出会いますが、先生方のほとんどは本当に一生懸命子ども達のために頑張っています。一部の困った先生が報道され、先生全体がおかしいように捉える風潮は大変もったいないと感じます。

「先生を敬い感謝する」

その重要性を改めて感じた、全国学力テストでありました。

日本でも「教師の日」が盛り上がるといいなと思います。

頑張れ先生、頑張れ子どもたち!

新渡戸文化学園理事長/放課後NPOアフタースクール代表理事

1974年東京都生まれ。1996年慶應義塾大学経済学部卒業。株式会社丸井入社、人事、経営企画、海外事業など担当。2004年長女の誕生をきっかけに、“放課後NPOアフタースクール”の活動開始。グッドデザイン賞4回、他各種受賞。2011年会社を退職、教育の道に専念。子どもたちの「自己肯定感」を育み、保護者の「小1の壁」の解決を目指す。2013年~文部科学省中央教育審議会専門委員。2017年~渋谷区教育委員、2023年~教育長職務代理。2019年~新渡戸文化学園理事長。著書:子どもの「やってみたい」をぐいぐい引き出す! 「自己肯定感」育成入門(2019年発刊)

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