SNSでバズりまくる「鯱もなか」。廃業寸前だった和菓子屋はなぜ愛される?
ツイートに270万人が反応。“勝手に”テーマソングやマンガまで
名古屋の和菓子店「元祖鯱もなか本店」がSNSでバズりまくっています。「#和菓子離れ」をつけたツイートに270万インプレッションがつき、さらにテーマソングやダンス、マンガを“勝手につくる”フォロワーが後を絶ちません。クラウドファンディングには支援が殺到し、さらにはアイドルとのコラボ商品が爆売れ。「鯱もなか」をネタにした投稿が連鎖・拡散し、さながらネットミーム化している状態です。
廃業寸前のピンチを救ったSNS発のネット通販
「元祖鯱もなか本店」は1907(明治40)年創業で115年の歴史を誇る老舗。1921(大正10)年に、名古屋のシンボル・金のしゃちほこをかたどった最中を売り出すと、観光地には欠かせない定番土産商品となりました。
しかし、名古屋駅や名古屋城など観光客向けスポットでの販売が大半を占めていたため、意外や地元ではあまり知られていない存在でした。そして、和菓子づくりの大変さを身をもって経験してきた3代目の関山寛さんは、自分の代限りで店をたたむつもりで、少しずつ店の“終活”に取りかかっていました。
そんな矢先に降ってわいたのがコロナショックです。観光需要がほぼ消えてなくなってしまったため、鯱もなかの販売数も激減。売上は従来の3割程度に落ち込んでしまいました。
まさに廃業寸前だったこのピンチを救ったのがSNSでした。コロナ禍で売るあてがなくなってしまった特産品をネット通販し、生産者を助けるとともにフードロスを削減しよう。そんな特別販売サイトをフェイスブックで見つけた長女の古田花恵さんが鯱もなかを出品。するとおよそ200件もの注文が入ったのです。
そして、この時寄せられた購入者の声が古田さんの心を動かします。
「“おいしい!”“頑張ってください”“ずっと残してください”という声をたくさんいただいたんです。それまで卸中心でお客様の声を直接聞く機会がほとんどなかったので感動しました。それで“こんなに愛されているものをこのままなくしていいのか!?”という思いが強くなったんです」(古田さん)
最初のバズりのきっかけはYahoo!記事
以来、HPとオンラインショップのリニューアルやSNSの活用などに取り組み、古田さんが正式に4代目に就任したのが2021年8月のことでした。
実はこの話題をいち早く取り上げたのは、当サイトの昨年9月のこの記事。
「専業主婦が老舗和菓子店の4代目に 廃業寸前から奇跡の復活!」
4代目の取り組みの成果が徐々に出てきていることを紹介したのですが、これが大きくバズる最初のきっかけになったといいます。
「記事が掲載された瞬間に100件を超える注文があり、SNSのフォロワーが急激に増え始めました。この日を境に様々なメディアに取り上げられるようになり、この10カ月間に30件以上の取材がありました。お店に足を運んでくれるお客さんも増え、以前は1日数人程度だったのが、今では多い日には50組くらいの方が買い物に来てくれます。Twitterのフォロワー数も、Yahoo!の記事が出た時点では50人ほどだったところ1年足らずで2・4万人を突破しました」と花恵さんの夫で、広報などを担当する憲司さん。
クラファンで起こった奇跡はアイドルとのコラボに発展
注目度が加速度的に高まる中で、次のステップとしてチャレンジしたのがクラウドファンディングです。築50年以上の店舗ビルの改装にあたって、お客とのコミュニケ―ションの場となるイートインスペースの併設を計画。そのリノベーション費用を支援してもらうために、2022年1月15日にプロジェクトをスタートしました。しかし、反応は決して悪くなかったものの、金額は思い通りには伸びません。最終日まで残り4日に迫った2月24日の時点で、目標金額300万円にはおよそ100万円足りない状況でした。
あきらめかけていた時、ひとつのツイートが思いもよらなかった展開を引き起こします。
「SHACHIの出番だとおもうんだ」というこのツイートの“SHACHI”とは、名古屋のご当地アイドル、TEAM SHACHI(チームシャチ)のこと。鯱つながりでTEAM SHACHIからの応援を願うファンのこのひと言をきっかけに一気に支援の輪が拡散。あっという間にクラファンの支援額は目標に達しました。そればかりかこのツイートは公式の目にも留まり、とんとん拍子でTEAM SHACHIの10周年記念公演のコラボ商品まで発売することに。鯱もなかのコラボパッケージ版が急きょ商品化され、一週間で350箱が完売御礼となりました。
「和菓子離れ」に対するツイートに270万超の反応が!
そして、SNSバズりの第三波ともいうべきが今回の一連のムーブメントです。
きっかけとなったのは、同社の5月20日のこんな投稿でした。
廃業寸前の苦境。最中=古臭いというイメージに対する苦悩。そんなことはないという反骨心。うちの商品はすごいんだという誇り。SNSに取り組む頑張り。予想外の反響への驚き。お客の支持に対する喜び。これからも頑張ろうという決意…。
14ツリー連投の長文となったこのツイートはまたたく間に拡散され、2・5万の「いいね!」と実に270万を超すインプレッションを集めました。この爆発的な拡散の効果で、オンラインストアの注文は週末だけで300件以上が殺到したといいます。
テーマソングにダンス、マンガを“勝手につくる”鯱もなかまつり
「鯱もなか」の名前と、金シャチの形が印象的な最中の写真がネット上に出回ると、今度はそれがネタ化していきます。一連の動きは下記の通り。
北海道のラジオDJ兼カラオケ店主・CAPTAINさんが「食ったこともない店の歌を非公式で勝手につくる遊び」として非公式ソングを作詞してTwitterに投稿(5月7日)
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上の投稿の「作曲:勝手に歌え」に応えて、アニメものまねシンガー・木水三郎さんがわずか1時間後に曲をつけて動画投稿(5月7日)
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北海道文教大学の食育アイドルプロジェクト・えにわっ娘.×たまごちゃんがすぐさま伴奏をつけて投稿(5月7日)
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えにわっ娘.×たまごちゃんが振付動画を投稿(※先生の伝統芸能付き(笑))(5月9日)
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北海道でのブームが名古屋へ逆輸入され、愛知県のサラリーマンパンクス、山田パンクロックさんが鯱もなか本店テーマソングパンクロックバージョンを作詞作曲演奏しYouTubeで公開(5月16日)
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木水三郎さんがさっぽろライラックまつりのステージで鯱もなかテーマソングを振付付きで熱唱(5月28日)
さらにさらに非公式テーマソングの次は、鯱もなかをモデルにしたマンガをこれまた“勝手に”創作するフォロワーが登場。少女マンガ風、ゴルゴ13風、かりあげ君風、ドラクエ風…とパロディマンガを描いては投稿する、新たな遊びも生まれました。このように、SNSでは“鯱もなかまつり”ともいうべき様相を呈しているのです。
“美談を応援”から“みんなで楽しむ参加型”に
このムーブメントを当の元祖鯱もなか本店はどのように感じているのでしょうか?
「すごくうれしいです! 皆さんお会いしたこともない人なのに、鯱もなかに対する愛を感じます。投稿する人もそれを見てくれる人も一緒に楽しんでくれている。たくさん和菓子屋や他のいろんなお店がある中で、創作したり楽しむ対象にうちを選んでくれているのは誇らしい気持ちです」と憲司さん。
SNSで次から次へとつながり広がっていく“鯱もなか推し”の輪。多くの人が“応援したい!”と思うのはなぜなのでしょうか?
「最初の段階では、つぶれそうな老舗を娘が継いで立ち向かう、そんなストーリーを一種の美談としてとらえて、応援したいと思ってくれる方が多かった気がします。私たちもその思いを受けて“成長する姿を見せなきゃ!”と考え、再生に取り組む過程をクラウドファンディングやブログなどで発信していきました。すると今度は皆さんがいろんな形で楽しみながら鯱もなかにかかわってくれる、最近はそんな“参加型”に変化してきたと感じています」(憲司さん)
このようなネット上の盛り上がりは、業績の向上にもリアルに結びついています。ネット通販の売上がアップしたのに加えて、来店動機にもつながり、Twitterには「鯱もなかへ行ったよ!」というツイートが毎日いくつも投稿されています。
「おかげで、コロナで7割減になってしまった売上が以前の水準に戻りました。観光地の販路は縮小されたり打ち切りになったりしていますから、個人のお客様が鯱もなかを求めて買ってくださっているのも大きな変化です」(憲司さん)
まさしく見事なV字回復! SNSを活用して新たなファンの開拓に成功し、お客と一緒になって「和菓子離れ」と呼ばれる逆風を吹き飛ばしてくれているのです。
SNSやネットも“お店で笑顔で接客するのと同じ”!
老舗和菓子店に限らず個人商店では、ネットによる販促に着手できているところはまだまだ少数派。SNS のアカウントすら開設していないところの方が圧倒的に多いでしょう。廃業寸前から復活を果たし、SNSを通して全国で知名度を高めている元祖鯱もなか本店は、ネット戦略の大切さを今さらながら知らしめると同時に、よきお手本となるはずです。そこで、あと一歩踏み出せない、SNSを始めてみたもののうまく成果が現れない、とお悩みの個人店や中小企業に向けてアドバイスをいただきました。
「まずは同業者の人気SNSアカウントの研究から始めてみてはどうでしょう。投稿の内容や頻度をチェックして、それをお手本にして自分のアカウントでも運用してみるんです。うちはTwitterとインスタグラムを併用して使い分けていて、インスタは見栄え重視でつくり込んだ写真を週に数本投稿。Twitterは1日10回以上投稿し、商品やお店のことに限らずその日の出来事も話題にしています。“中の人”の存在感をちょっとずつ見せることで、親近感を持ってもらうんです」(憲司さん)
もうひとつ重要なのは言葉の選び方、そして何より心持ちだといいます。
「言葉づかいにはとにかく気をつけています。ネットではネガティブな反応もどうしてもあるものですが、それに対しても否定的、感情的な対応はしないよう心がけています。ネット上のやりとりも“お店で笑顔で接客するのと同じ”と考えればいいんです。そして、とにかく楽しい気持ちで取り組むこと。楽しんでいるところへ人は集まってくるものです」(同)
「SNS上のやりとりも店での接客と同じ」。このアドバイスは、客商売をしている人ならすっとお腹に落ちるのではないでしょうか。そして、「楽しんでいるところへ人は集まる」。これはまさに今の鯱もなかを取り巻く状況が証明しています。
このふたつなら、そんなに難しいことと構えずに実践できそうです。「SNSってめんどくさそう」「ネットは炎上しそうで怖い」。そんなふうに尻込みしている事業主の皆さんも、先のアドバイスを参考にSNSを始めてみてはいかがでしょうか。「〇〇離れ」を吹き飛ばす“二匹目の鯱”はきっといるはずです。
(写真撮影/筆者)