芥川賞・直木賞の賞金に課税される?宝くじは非課税でお得ってホント?-臨時収入について弁護士が解説
先日、第156回芥川賞、直木賞が発表され、芥川賞には山下澄人さん、直木賞には恩田陸さんが選ばれ、それぞれ正賞の懐中時計と副賞の賞金100万円が贈られることとなりました。
贈られた懐中時計や賞金100万円には課税されるのか??
とてもおめでたい受賞発表の中、野暮ったい質問になってしまいますが、懐中時計や100万円には課税されるのかなんて気になる人もいますよね。
結論としては、こういった賞品・賞金は、一時所得に当たり、課税対象となります。
一時所得とは、営利を目的とする継続的行為から生じた所得「以外」の所得で、労務や役務の対価としての性質や資産の譲渡による対価としての性質を「有しない」一時の所得をいいます。
ざっくりと言えば、定期的ではない突発的な収入で、資産を処分して得るものではない収入ですね。
同じような一時所得に含まれる収入としては、懸賞や福引の賞品・賞金、競馬や競輪の払戻金、生命保険や損害保険の一時金、法人から贈与された金品(ふるさと納税の返礼品など)、遺失物拾得者が受ける報労金などがこれに含まれます。
いくら課税されるのか?
一時所得については、得た収入金額から、収入を得るために支出した費用を控除した金額(次項で解説)を基に、50万円までを非課税として、その所得金額の二分の一をその他の所得と合算して税額が計算されます。
例えば、直木賞の賞金100万円であれば、非課税枠50万円を控除した残りの50万円の二分の一である25万円をその他の所得と合算することになります。
実際の課税額は、その人の所得税の税率次第ですが(総所得により異なります)、例えば総所得が500万円であれば、税率は20%なので、賞金100万円分の税額は5万円(一時所得25万円×20%)となります。
なお、貰ったものがお金ではなく物だった場合については、基本的に小売価格の60%を収入として一時所得を算定することとなっています(ふるさと納税の返礼品のように法人から贈与された場合は100%)。
控除が認められる「一時所得を得るために支出した費用」とは?
一般的には、その収入を生じた行為をするため、または、その収入を生じた原因の発生に伴い、直接要した金額に限るとされています。
例えば、ハガキのために葉書100枚を出して、そのうちの1枚が当たった場合には、実際に当たったハガキ1枚の代金分は控除が認められますが、外れたハガキ分の代金については控除は認められません。
なぜなら、外れたハガキは実際に当たった懸賞との関係では直接関係がないからです。
競馬に関する面白い裁判例
以上のように、一時所得については、控除が認められる費用は極めて限られており、競馬についても、一般的には、当たり馬券の購入費用分は控除が認められるものの、外れ馬券の購入費用分については控除は認められません。
しかし、競馬について、裁判所も驚愕する強者が現れたことがあります。
その人は、単に運と勘任せで馬券を購入するのではなく、JRA(日本中央競馬会)に登録された全ての馬の特徴(潜在能力、距離適性、競馬場適性、器用さ、性格、癖など)、騎手の特徴(馬を動かす技術、馬を制御する技術、コース取りの技術、勝負強さ、冷静さ、集中力など)に関する情報を全て自力で集め続けて、分析し、レースごとに、馬の能力、騎手の技術、コース適性、枠順、馬場状態への適性、レース展開について評価して比較することにより、極めて高確率で勝てるように考え、結果、6年間で約5.5億円を稼ぎ出しました。
そして裁判所は、この人については、期待値が100%を超える馬券を有効に選別できる独自ノウハウを有しており、営利を目的とする継続的行為から生じた所得であるとして、一時所得ではないと判断し、特別に外れ馬券についても経費として認めるという判決を出したことがあります。
競馬をここまでシステム的に勝負して、実際に高確率で勝利できる人がいることに驚きです。
宝くじは非課税でお得??
以上、一時所得を中心に臨時収入についてお話しましたが、懸賞や競馬競輪だと課税されてしまうけど、宝くじは非課税でお得だと言う人がいますが、果たして本当でしょうか?
実は、宝くじは、昭和23年に制定された「当せん金付証票法」を根拠としていますが、この法律では、戦後復興において、宝くじを発売し、その収益を地方財政の資金に充てることが目的とされています。
そのため、宝くじによる当選金の総額は、最大でも発売総額の5割までと定められており、残りの5割から販売手数料などを控除した残りの利益を地方自治体の公共事業などに充てることとなっています(平成27年度実績では、当選金が約47%、販売手数料が約12%、公共事業が約40%)。
つまり、宝くじについては、実際に当たった人から税金をとって公共事業などに回しているわけではなくても、配当する前に公共事業などにお金を回した上で、余った残額を当選金として配当しており、実は先に税金分を引かれるか、後から引かれるかの違いなだけで、実質的には非課税と言えない仕組みになっています。
他方、競馬であれば、払戻率は70%以上、国庫負担金は10%と定められており、実際には馬券の種類により70~80%程度が払い戻されています。
このように、宝くじは当選者にとって非課税だからといって、単純にお得とはいえないのかもしれません。
議論の真っ最中のカジノについては、国庫納付金については具体的に定まっておらず、宝くじ、競馬、パチンコ(法的根拠はないが80%程度ではと言われているそう)と比べて、どのように扱われるかも注目されるところです(なんだか、後半はお得なギャンブルは何かみたいな流れになってしまいましたが・・)。
※本事は分かりやすさを優先しているため、法律的な厳密さを欠いている部分があります。また、法律家により多少の意見の相違はあり得ます。