図書館の貸し出し冊数や利用者動向の実情をさぐる(2023年公開版)
頼り甲斐のある資料の泉、心身のいやしの場、知の集約拠点とさまざまな意義を持つ図書館。その図書館の利用状況を、文部科学省の定点調査「社会教育調査」(※)の公開資料を基に貸し出し冊数や利用者動向の観点からさぐる。
次に示すのは日本国内の図書館における登録者数と帯出者数。登録者とは貸し出しなどの各種サービスを利用するために図書館に登録をしている人、帯出者とは図書館外への本の借り受けを行った人で、延べ人数で数えられている。例えば2020年度では1億4249万人とあるので、延べ1億4249万人が図書館から本を借りたことになる。もちろん延べ人数なので、一人が1年間に10回借り受ければ、10人としてカウントされる。
登録者数・帯出者数ともに高度経済成長期に大きな伸びを示している。直近の2020年度では登録者数は1億4249万人、帯出者数は2860万人。
帯出者数はバブル崩壊後も伸び続け、2010年度で天井の雰囲気。他方登録者数は1995年度をピークに翌調査年度の1998年度には大きな減少を示している。この大きな減少の動きについて平成17年度の社会教育調査では、減退前の調査分には(他の項目もあわせ)「自動車文庫、貸出文庫を含んでいる」との説明があり、カウント対象が変更されたことによる減少と見ることができる。
また直近2020年度では大きな減少が生じているが、これは新型コロナウイルスの流行で外出忌避の傾向が生じたことに加え、密室となる図書館を忌避する動き、さらに図書館そのものが臨時閉館することも少なからずあったがためだと考えられる(【No.19 公立図書館における新型コロナウイルス感染症(COVID-19)への対応】)。
登録者数と比べて帯出者数の動きが大きいことから、延べ貸出冊数が増加していることは容易に想像ができる。実際、調査結果ではその通りの値が出ている。
1回の帯出あたりの借り受け冊数は3.6冊前後で大きな変化が無い。一方貸出冊数は漸増を示しており、ほぼ一直線で増加の流れにある。他方、2010年度をピークとして貸し出し冊数が減少の動きに転じているように見えるのも気になるところ。また直近2020年度における貸し出し冊数が大きな減少を示しているのは、新型コロナウイルスの流行によるところが大きいと思われる。
登録者による年間平均帯出回数は次の通り。
最古の記録となる1954年度は17回近くとなり、非常に足しげく通っていた計算結果が出ている。解説が無いので憶測の範ちゅうを超えるものではないが、本そのものの価値が今と比べて高価で購入ハードルが高く、また情報の取得源も限られており、知を求める人は知識の宝庫的な意義を図書館に見出していたのだろう(今でも図書館のその意義に変わりはないが)。その後漸減の動きを見せていたが、1977年度に底を打ち、それ以降はバブル崩壊時にやや下げたものの、あとはおおよそ漸増。
戦後直後と比べればまだ少ないものの、本を借りるために図書館に登録をしている人は、より積極的に図書館に通い、借り受けをするようになりつつある。直近では図書館に登録をしている人は年4.98回本の借り受けを行い、その際に借りる本の冊数はおおよそ3.7冊との平均像が浮かび上がってくる。
昨今ではスマートフォンの普及浸透による読書スタイル、さらには情報収集の変化、そして実態としての書店の漸減という環境変化によって、図書館の立ち位置が大きく変化をしている。新型コロナウイルスの流行も小さからぬ影響を与えている。次回の調査の結果はどのようなものとなるだろうか。
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※社会教育調査
文部科学省がほぼ3年おきに実施している、「社会教育行政に必要な社会教育に関する基本的事項を明らかにすることを目的とする」調査。原則的に全数調査によるもの。調査開始は1955年。
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