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金正恩「肝いり政策」に乗じて広がる北朝鮮の薬物汚染

高英起デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト
金正恩氏(朝鮮中央通信)

北朝鮮の「薬物との戦争」は、一向に出口が見えない。

北朝鮮は2021年7月、麻薬犯罪防止法を制定した。次いで2022年5月には刑法を改訂し、薬物密売の最高刑を死刑にするなど、対策に乗り出したが、麻薬問題は依然として深刻だ。その現状を江原道(カンウォンド)のデイリーNK内部情報筋が伝えた。

現地では朝鮮労働党委員会、安全部(警察署)、保衛部(秘密警察)などの幹部が覚せい剤やアヘンなどを密売する事例が増えている。

(参考記事:コンドーム着用はゼロ…「売春」と「薬物」で破滅する北朝鮮の女性たち

売人たちも幹部に近寄れば、取り締まりを避けることができるため、積極的に組織的にアプローチしているようだ。そのせいで幹部たちはいとも簡単に麻薬漬けにされてしまう。

デイリーNKの取材によると、中国語由来の単語「ピンドゥ(冰毒)」、または「オルム(氷)」と呼ばれる覚せい剤は、1グラム150元(約3140円)で売られている。コメ42キロ分に相当する額だ。

幹部とは言えども、常用するにはかなりの経済的負担がある。そこで、自らが売人になるケースがあるというのが情報筋の説明だ。密輸に加担すればかなりの儲けがあるため、経済的にも潤う。

「ここ(北朝鮮)で生産されたピンドゥが、中国では2000元(約4万1800円)から3000元(約6万2700円)で取り引きされる。密輸出すれば少なくとも10倍以上の価格になるため、中国に駐在している貿易イルクン(貿易機関の関係者)を通じて、ピンドゥを密輸出しようとする試みが多く見られる」(情報筋)

金正恩総書記は地方経済活性化策の「地方発展20×10政策」を打ち出したが、これにより地方の貿易会社や様々な機関の貿易担当部署が、資材の輸入など貿易を活発に行なっている。これに乗じて、北朝鮮製の覚せい剤を中国に密輸しようとしているのだ。

法律が強化されたとは言え、幹部が絡んでいるため、取り締まりの効果が全く出ていない。それどころか、より深刻になっている。

「薬物問題が解決せずにむしろさらに深刻になっているのは、主なユーザーが幹部だからだ。幹部たちの中毒問題が深刻になりつつあることは、中央も認識しているが、簡単に手を付けられないようだ」(情報筋)

(参考記事:一家全員、女子中学校までが…北朝鮮の薬物汚染「町内会の前にキメる主婦」

薬物に手を出すのは幹部だけでない。中高生の乱用も深刻だ。

そもそも、北朝鮮の薬物汚染は、自ら蒔いた種だ。

故金正日総書記の指示で、1992年から「白桔梗(ペクトラジ)事業」と称してアヘン栽培が始まり、続いて覚せい剤の製造にも手を付けた。ところが、その後に北朝鮮を襲った大飢饉「苦難の行軍」で、社会システムが崩壊し、生活に困窮した研究者や製薬工場の関係者が、アヘンや覚せい剤を市中に横流しするようになった。

庶民は、不足する医薬品の代用としてこれらを使うようになり、中毒者が激増した。当局は取り締まりに乗り出したが、もはや手が付けられない状況となってしまった。

デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト

北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。関西大学経済学部卒業。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記―』(新潮社)『金正恩核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』(宝島社)『北朝鮮ポップスの世界』(共著)(花伝社)など。YouTube「高英起チャンネル」でも独自情報を発信中。

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