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香川とはまた異なる南野の魅力。「連続性」と「関係性」で代表の力になれる可能性を示した

神谷正明ライター/編集者
(写真:森田直樹/アフロスポーツ)

南野の特徴はプレーの連続性

 森保一監督が率いる日本代表は、10月12日に新潟で行われたパナマ戦で3-0の勝利を収めた。そのなかで南野拓実は1ゴールを決め、伊東純也の得点も呼び込んだ。森保ジャパン初陣のコスタリカ戦に続き、2試合連続で得点に絡めたことは代表での立場を確立していく上で大きなアピールになったことだろう。

 ただ、南野を評価していく上で重要なのは、そういったゴールに直結するシーン以外でもチームのプレーに頻繁に関与していた点だ。

 南野の強みは、プレーにダイナミズムと連続性があることだ。南野は動くべき時に、動くべき場所にシームレスにアクションを起こし、プレーに絡める。その特徴が効果的に出た象徴的なシーンが前半12分の場面だ。

 南野は大迫勇也と原口元気がパナマのDFラインにプレッシャーをかけにいったのに連動し、まずはボランチのアニバル・ゴドイとの距離をつめてパスコースを切る。原口のプレスを受けたボールホルダーのフランシスコ・パラシオスは、南野の寄せによりゴドイにはパスを出せなくなったので、右サイドハーフのホセ・ロドリゲスにパスを送った。そして、そのロドリゲスには佐々木翔が体を寄せ、ドリブルのスピードをダウンさせた。

 南野はその流れを見逃さなかった。ゴドイへのパスコースを切りながら守備の標的をロドリゲスに切り替えてプレスバックを開始し、中に切り込んできたロドリゲスの死角からボールをつついて回収。プレーを途切れさせない「2度追い」で守備から攻撃に転じた。

 攻撃面の才能が高く評価されている南野だが、実は守備でチームに貢献する頻度も高い。パナマ戦の序盤は守備面での貢献の方が光っていたくらいだ。試合開始2分の場面でも、巧みなプレスバックを見せた。マイケル・ムリジョの背後から近づき、横からプレッシャーをかけていた原口が足にボールを当ててカットすると、南野は素早く反応してムリジョより先にボールを拾い、その勢いのままドリブルでアタッキングサードまでボールを運んだ。残念ながらドリブルは止められたが、ここでも守備から攻撃への切り替えでチャンスになりそうな場面を作った。

 その1分後にも、ムリジョとゴドイの間に入る絶妙なポジショニングを取ったところから、その両者間での不用意な横パスをカット。その流れから佐々木がDFラインの背後に飛び出した伊東にクロスを送る、前半最初の決定機が生まれた。

 前半34分の場面でも、プレスのかけ方が巧みだった。左センターバックのフィデル・エスコバルがボールを持った際、南野はセオリー通りにボランチ・ゴドイへのパスコースを切りながら寄せていく。エスコバルは右センターバックのアロルド・クミングスに横パス、そのボールの動きに合わせて南野はゴドイへのパスコースを切り続ける。そして、出しどころのないクミングスがエスコバルにリターンパスを送ると、ここで南野はやはりゴドイへのパスルートから外れることなくスプリントでプレッシャーをかけ、エスコバルが不用意にゴドイへパスを送ったところでインターセプト。いい体勢でのカットではなかったため、反転速攻とはいかなかったが、狙い通りの追い込みだったはずだ。

 試合前に「守備で味方とタイミングを合わせて、いいプレスをかけるとか、そういうところも絶対に必要になってくると思うので、そういうところも意識しつつ」と意気込んでいたが、そのイメージ通りの動きを試合開始から見せていた。原口のように激しくアップダウンを繰り返すタイプではないが、周囲の状況を見て、行くべき時は足を止めずにプレーに関わり続けられる。

周囲との関係性を高める南野の動き

 ポジションの取り方も南野の長所の1つである。周囲の味方の立ち位置を見て、バランスを取るようなポジショニングができる。パナマ戦ではトップ下を任され、1トップの大迫と縦の関係になったが、南野は大迫の位置を常に意識していた。

 大迫が中盤に落ちてきたら代わりに最前線に動く。ただ、単純にポジションを入れ替えるだけではなく、たとえば前半22分の場面では、下がった大迫と入れ替わって相手DFラインの中に入ると、その背後を指さして裏にボールを出すように味方に指示。裏抜けの意識を見せることで味方にも、敵にも影響力を行使していた。

 また、ポジショニングの意識は大迫との関係性にとどまらない。原口にも常に注意を払っていた。原口が中盤に下がってプレーに関与しようとした時、南野がスルリと原口の空けた左サイドのスペースに入るシーンが何度も見られた。前半30分には、その動きの流れで左サイドに入り、背後のスペースを狙って青山敏弘からボールを引き出している。

 そういったポジション取りが意図的だったことは「前の選手4人は特に、距離感を意識してプレーしようと僕は考えていた。元気くんが中に入ってきた時は僕が外に開く場面もあった」というコメントからも汲み取れる。南野は周囲との関係性に気を配りながらチームとしてのプレーを選択できる。

 それができるのは、継続的に頭を振って自分の周りの状況をよく確認しているからだ。南野は細かく首を振っている。前半39分には冨安健洋の縦パスをスルーして、その延長線上にいた大迫にボールを通したが、そういったプレーは、その前に周りをよく見ていないと出てこない。首振り動作がわかりやすいのは前半アディショナルタイムにあったカウンターの局面だ。南野は味方のクリアボールを拾うと、頭を大きく右に振って右後方の敵・味方の状況を確認しつつ、ドリブルでやや左斜めにボールを運び、左サイドに流れた大迫にパスを出した時も右に大きく首を振って、逆サイドから伊東が走ってきていることを確認してからニアのスペースに走り込む動きをしている。そして、大迫は伊東にパスを送り、決定機につながった。

 南野は得点シーン以外にも前半から多くの局面でプレーに関与しており、彼の持つ特徴がチームに好影響を与えていた。むろん、ファーストタッチの精度を欠いてボールロストしたり、プレスでのミスもあった。いいプレーを見せていた割に決定的な場面まで持ち込めた回数は少ないといった課題もある。本人も「細かい内容には全然満足いってないです」と反省している。

 トップ下が代表での主戦場になるなら、今後復帰してくるであろう香川真司とのポジション争いも待っている。ボールタッチの精度、チャンスメイク能力の高い香川と競っていくとしたら、プレーの質はさらに上げていく必要があるのは確かだ。ただ、繊細なタッチという側面で比較すれば、「間受け」で世界トップクラスの香川に劣るかもしれないが、そもそも持っている特徴が異なる。得意とするプレーに違いがあるのは当然であり、南野も「プレースタイルは全然違う」と話す。重要なのは自身のプレーをどれだけチームの益に還元できるかだ。香川とは異なる特徴でチームに貢献できるところを見せていけば、ハイレベルな競争で代表チームの力も上がることにつながる。

 パナマは初陣のコスタリカよりも質の高いチームだったが、南野は継続して特徴を発揮できていた。「結果が出たことに対しては素直にうれしいし、今の自分のスタイルをそのまま続けていこうと思う」と手応えを感じている。問題はさらにレベルの高い相手とぶつかった時にもコンスタントに力を出せるかどうか。次に対戦するウルグアイはトップクラスの実力のあるチーム。その試合に出場し、引き続き自身の特徴を表現できれば、日本代表での存在感はさらに増していくはずだ。

ライター/編集者

大学卒業後、フリーライターとして活動しながらIT会社でスポーツメディアに関わり、2006年にワールドカップに行くため完全フリーランスに。浦和レッズ、日本代表を中心にサッカーを取材。2016年に知人と会社設立。現在は大手スポーツページの編集業務も担い、野球、テニスなどさまざまなスポーツへの関与が増えている。

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