弱い者いじめへの制止とケンカ、子供事情をさぐる
ケンカの制止は増加傾向
自制心、経験が浅い子供は歯止めが利かず、感情をすぐに体現化し、いじめやケンカをしてしまう機会も少なく無い。一方でその状況を止めようとする子供もいる。その実態を国立青少年教育振興機構が2018年8月に発表した「青少年の体験活動等に関する実態調査」(※)の報告書の内容を基に、確認していくことにする。
冒頭で触れたように、他人がケンカをしていたり、弱い者いじめをしている状況を目にし、それを制止しようとした経験がこれまでにあるか否かを聞いた結果が次のグラフ。回答時点における最近の話ではなく、過去も含めた経験を聞いたものだが、何度もあるとした人は直近2016年度で17.4%、少しあるとの人は51.0%、ほとんど無いは31.0%。およそ7割の人が経験あり。
5回分の調査結果で経年変化を見極めるのはややリスクがあるが、その前提で見る限りでは経験者が増加しているように見える。もっともこれが「止めさせる行動を起こす積極性が出てきた」のか、「止めさせる対象事案が増えてきたのか」のどちらを、あるいは双方を意味するのかまでは判断は不可能。
他方、直近の2016年度分における学年別動向を見ると、明らかに高学年の方が経験率が低い結果が出ている。
この数年の間、同じような頻度で対象事例が存在し、同じような止めさせる積極性があれば、高学年ほど経験率は高くなるはず(ここ数日、あるいは数か月の出来事の話ではなく、これまでの経験について尋ねていることに注意)。ところが実態としてはその逆の動きが出てしまう。しかも最初のグラフの通り、全体値では経年で増加していることから、今の小学生は大いに荒れて注意する機会が増加しているのか、積極性が大きく出るとの推測ができてしまう。
常識的に考えれば小学生よりも中学生、中学生よりも高校生の方が、回答時における日々ではケンカの機会も減り、制止する機会も減るはずなので、今件が「最近あるか否か」ならば正しいのだが、あくまでも「これまでの経験」を聞いているので、つじつまが合わない。
あるいは多様な生活体験の中で、弱い者いじめの制止行動などはささいなものとして、忘却するケースが高学年ほど増えているのかもしれない。試しに自分自身の過去の経験において、そのような行動をしたことがあるか否かを思い返してみよう。果たして明確にその行動の記憶を掘り起こせるだろうか。
友達とのケンカそのものはどうだろうか
この動きについて同様の結果が出た以前の報告書(2012年度分)では、「学年が上がるにつれて友だちとのけんかの回数が減ったり、友だちが悪いことをしていたらやめさせることが少なくったりする青少年の現在の生活や意識に影響されたと推測される」と説明している。つまり設問では「これまでに経験があったか否か」を聞いているにもかかわらず、昔のことは忘れてしまい、最近のことを思い返した結果、高学年ほど(遭遇する機会そのものが減るため)経験があるとの回答率も減ってしまうとするものである。これは直上の「昔の制止行動は忘れてしまう」との仮説ともおおよそ一致しており、また納得のいく説明ではある。
実際、別項目で今件とある程度関連性のある「普段の生活の中で友達とケンカすること」(これまでの経験ではなく、自分の現状を聞いていることに注意)を確認すると、学年別では年上になるに連れて減少するが、全体としてはわずかずつではあるが増加する傾向を示している(直近年度ではやや減少に転じているが)。
つまり「学年別における普段の生活では、高学年ほど弱い者いじめやケンカが減るために注意する機会が減る」「これまでの経験を聞いてはいるが、昔のことは忘れてしまっている、あるいは思い違いで、最近の話として回答している人が少なくない」「普段のケンカ状況は全体として少しずつ増加する傾向にある」となる。確かに高校生で小学生と同じ感覚でケンカをされたのでは、当事者も止める方も大変な話となる。
子供同士のトラブルが微増しているのは気になる動きではあるが、同時に、それ以上に制止する行動に出る子供が増えていることは、保護者としては安心してよい動きといえよう。
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※青少年の体験活動等に関する実態調査
直近年度分は2017年2月から3月にかけて各学校(小学校は1年生から6年生まで各100校ずつ、中学校は2年生対象に150校、高等学校は2年生対象に150校)への調査票発送・返信による回収方式で行われたもので、有効回答数は学校数が879校、子供の回収数が18316件、保護者が15769件。
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