北朝鮮が女子高生を「見せしめ」公開裁判にかけた理由
北朝鮮で、「米国映画を見た」という罪状で、高校生の男女15人が公開裁判かけられたと、デイリーNKの内部情報筋が伝えてきた。北朝鮮当局は、韓流映画・ドラマなど外国作品に対する規制を強めているが、効果上がっていないようだ。一方、高校生に対して公開裁判をすることから住民からも怒りの声が上がっている。
詳細について、両江道(リャンガンド)の情報筋は次のように語った。
「今月16日、恵山(ヘサン)市内の映画館前で多くの人が見守るなか、16歳と17歳の少年・少女たちが公開裁判が行われた」
昨年9月、英テレグラフ(The Telegraph)は、密かに録画された北朝鮮の公開裁判の動画を公開した。今回と同様、米国映画を視聴したとの罪状だったことから、海外の動画コンテンツを視聴したことが発覚すれば公開裁判にかけられるケースが多いとみられる。
(参考記事:英メディア、北朝鮮「公開裁判」動画を公開…米国映画を視聴して強制労働)
一方、昨年の4月には、北朝鮮の「喜び組」を描いた韓流ドラマを視聴した罪で、大学生が大量に処罰される異例の事態が起きた。
(参考記事:「喜び組」の韓流ドラマが北朝鮮大学生に大流行…処分される学生も)
今回の公開裁判では、判決はその場で下されず、「保安局(警察署)の予審を受ける」という決定がなされた。これは、拷問を含めた厳しい取り調べを受け、最終的には重罪に処せられるということを意味する。さすがに高校生だけに、処刑に至らなかったことは不幸中の幸いだ。公開処刑の残忍な光景は、多くの北朝鮮国民にトラウマを与えている。
(参考記事:謎に包まれた北朝鮮「公開処刑」の実態…元執行人が証言「死刑囚は鬼の形相で息絶えた」)
韓流ドラマや映画を見た場合は、反逆罪となり重罰に処せられるリスクがあるにもかかわらず、なぜ北朝鮮の住民は、韓流ドラマや海外映画を見るのだろうか。
2000年頃から、密かに韓流ドラマをは見てきた北朝鮮の人々にとって、北朝鮮当局が制作するドラマや映画はあまりにもクオリティが低くつまらない。しかし、見れば処罰される。そして、韓流がダメならと、中国や米国、そして日本など、海外の映像コンテンツを見て楽しんいる。
こうしたなか、「ザ・インタビュー」のような最高尊厳(金正恩第1書記)を茶化す映像をを見ることは非常に危険だが、政治色が薄いものなら「特に問題にはならない」と思われている。逮捕された高校生たちは、「油断しておおっぴらにハリウッド映画を見てしまったようだ」と情報筋は語った。
(参考記事:北朝鮮「ザ・インタビュー」を見たら厳罰、流布したら銃殺!)
しかし、いくら何でも、高校生を見せしめにするという当局のやり方に、住民からは怒りの声が上がっている。
情報筋は、「幼い子供を見せしめに処罰してビビらせる魂胆だ」と語る。また、公開裁判を見守った住民の間からも「処罰を受けるなら、幹部が先ではないのか」「裁判の書類にサインした人も、一度くらいは外国映画を見ているだろう」など、当局への不満を口にする。
実際、脱北者のヒョン・ミヨンさんは次のように語った。
「北朝鮮にいた2014年、韓流映画を見たことが発覚して逮捕され、教化所(刑務所)送りになりました。でも、取調官から『あんたのおかげで(韓流映画の)新作が見られるよ』と言われましたよ。保安員(警察官)も幹部も、没収した韓流のCDの奪い合いをしていました」
北朝鮮当局は、度々韓流を含めた外国のドラマ、映画に対する取り締まりを強化しているが、完全遮断は不可能に近い。遮断に成功したとしても、一度変わってしまった人々の考えや文化、習慣は元には戻らない。
(参考記事:北朝鮮、韓流ドラマ禁止令で「ワイロ相場」が高騰)
どんな形であれ、海外から流れてくる文化を通じ、北朝鮮住民の意識はこれからも変化・発展し続けるだろう。