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セーラームーン、鉄腕アトム、北斗の拳…。ソフトバンク新CMの既視感。”アニメのその後”は諸刃の剣?

五百田達成作家・心理カウンセラー
(写真:ロイター/アフロ)

「セーラームーン」「鉄腕アトム」「北斗の拳」「ゴルゴ13」「あしたのジョー」「ちびまる子ちゃん」といった、人気アニメのキャラクターたちの「その後の姿」を実写化した、ソフトバンクの新CMが10月20日から放送開始となっています。

元セーラームーンに小泉今日子、元アトムに堺雅人、元ケンシロウに市川海老蔵、元ゴルゴ(デューク東郷)に小日向文世、元矢吹丈にピース・又吉直樹、元おぼっちゃまくんに満島真之介、元ちびまる子ちゃんに広瀬すず……と、旬のタレントが豪華勢ぞろい。大きな話題となっています。

auの三太郎シリーズに対抗?

ソフトバンクのライバルauは、今年の頭から「三太郎」シリーズを展開。

桃太郎を松田翔太、浦島太郎を桐谷健太、金太郎を濱田岳が、それぞれ演じるこのCMはたちまち大人気となり、上半期のCM好感度第1位(CM総合研究所『銘柄別CM好感度ランキング』)を獲得。その後も、かぐや姫に有村架純、乙姫に菜々緒、鬼に菅田将暉と、勢いに乗った展開を見せています。

同調査でこれまでおよそ4年間もの間、不動の第1位をキープしてきたソフトバンクの「白戸家」シリーズ。王座奪還に向けて打ち出したのが冒頭のキャンペーンで、ここに「昔話VS.国民的アニメ」という構図ができあがりました。

なぜアニメなのか? なぜ昔話なのか?

携帯電話・スマホは、もはや現代に欠かせないインフラ。日本中の老若男女に広くあまねく訴求する必要があります。その広告には、タレントの「知名度」だけでなく、だれもが親近感を抱けるような「世界観」が必要で、各社その枠組みを、昔話やアニメから拝借したというわけです。

「アニメその後」CMブーム?

アニメのキャラクターのその後を描いたCMといえば、2011年から始まったTOYOTAとドラえもんのコラボが記憶に新しいところです。ドラえもんにジャン・レノ、のび太に妻夫木聡、しずかちゃんに水川あさみなど、こちらも豪華でした。

さかのぼれば、2008年には江崎グリコのCMが、サザエさんの25年後を描いて話題に。カツオ役に浅野忠信、ワカメ役に宮沢りえ、タラちゃん役に瑛太、イクラちゃん役に小栗旬がそれぞれ扮しました。

お父さん犬は継続登板

そういう意味では今回のソフトバンクのCMは、見たこともない斬新な冒険というよりも、これまでの人気を損なわないようにしつつ王道のアレンジを加えたと見るべきでしょう。実際、今まで築いた財産をあっさり手放すわけにはいかないので、お父さん犬は継続して出演しています(もしうまくいかなかったらすぐに別路線を展開できる。あくまでキャンペーンという位置づけ)。

うまくはまれば、原作の世界観に慣れ親しんだファンをごっそり取り込めるので、「困ったときはアニメの実写化」は、今後も頻発する可能性が高そうです。

諸刃の剣、セーラームーンファンは反発

ちなみに、原作のセーラームーンファンからは、早速「世界観を台無しにしている」という批判が出ている様子。そう考えると、auの三太郎シリーズは、誰も突っ込みようがない昔話の登場人物に着想を得たところが、斬新なアイディアでした。

意外な業界もアニメ頼み

「その後を描く」ではないものの、アニメの力を借りて「懐かしいニーズ」をくすぐる業界は、自動車やお菓子、携帯電話だけではありません。

とくにパチンコ業界では、「もうこれ以上掘り尽くせないのでは?」と思わされるほど、ほとんどすべての古今東西の人気アニメがパチンコ・パチスロ化されています。

堅実大企業とパチンコ業界。一見、毛色が異なるように見える両者とも、「日本中の老若男女にアピールするには、アニメの力を借りるのが一番」という結論にたどり着いたように見えるのは、興味深いことです。

懐かしビジネスには限界がある

さてこうした、アニメの再利用には当然いつか限界が来ます。昔の財産を使いつくした先には、枯渇しかありません。

「日本のアニメが海外で人気」と言われ続けて、はや数十年がたちました。が、フランス在住の知人は「いま、フランスで流行している日本のアニメは、NARUTO、ONEPIECE、BLEACHといった、開始して数十年経った古株アニメばかり。日本のコンテンツ産業に新しい潮流は生まれているのか?」と心配しています。

次の国民的アニメは生まれているのか?

・セーラームーン 1995年

・鉄腕アトム 1963年

・ゴルゴ13 1971年

・北斗の拳 1984年

・あしたのジョー 1970年

・おぼっちゃまくん 1989年

・ちびまる子ちゃん 1990年

これが、それぞれのアニメ作品の放映開始年。鉄腕アトムにいたっては、実に50年以上の年月がたっています。テレビの力が強く、アニメの力が強かったこの50年。ですがその勢いは、この数年急激に失われつつあります。

こうした国民的なテレビアニメが今後も定期的に生まれ続けるかというと、大いに疑問。つまり、数年後、数十年後の日本で、今回のソフトバンクのCMのような試みができるのかどうか、そのときには、いったいどの作品になるのか、ということです。

次のアニメはスマホから生まれる?

テレビに代わって、圧倒的な影響力を持つにいたったメディア=スマホ業界。日本が誇る文化であると同時に、過去の遺産となりつつあるアニメコンテンツを、CMに利用するだけでなく、活性化・下支えするような動きをとってくれるよう、祈らずにはいられません。

作家・心理カウンセラー

著書累計120万部:「超雑談力」「不機嫌な妻 無関心な夫」「察しない男 説明しない女」「不機嫌な長男・長女 無責任な末っ子たち」「話し方で損する人 得する人」など。角川書店、博報堂を経て独立。コミュニケーション×心理を出発点に、「男女のコミュニケーション」「生まれ順性格分析」「伝え方とSNS」「恋愛・結婚・ジェンダー」などをテーマに執筆。米国CCE,Inc.認定 GCDFキャリアカウンセラー。

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