ソーシャルメディアの情報発信で経験したトラブル、その実情を国際比較でさぐる
・日本ではソーシャルメディアで情報発信をする人の23.2%が何らかのトラブルを経験している。アメリカ合衆国では56.9%、ドイツでは50.0%、イギリスでは49.2%(2018年)。
・具体的なトラブルの内容としてもっとも多いのは「誤解」、次いで「けんか」「不本意な他人中傷」。
・ソーシャルメディアで情報発信をする人が経験したトラブルの原因の多くは、互いの顔の見えない、匿名の場合は相手の背景が見えないインターネット特有のコミュニケーションの難しさが原因とする分析。
ソーシャルメディアは個人による不特定多数への情報発信を容易にするツールだが、それは同時にその情報発信によるトラブルのリスクが高まることをも意味する。日本と諸外国におけるその実情を、総務省が2018年7月に発表した「情報通信白書」内で公開している独自調査「ICTによるインクルージョンの実現に関する調査研究」(※)の結果から確認する。
次に示すのは日本、アメリカ合衆国、ドイツ、イギリスそれぞれの国でソーシャルメディア(狭義ではSNSに区分されるFacebookやTwitter、Instagramだけに留まらず、LINEやブログ、掲示板、YouTubeなども含む)で情報発信をしている人に限定し、その情報発信に関連してどのようなトラブルを経験したことがあるかを尋ねた結果。総括して何らかのトラブルに遭遇した経験があると自認している人は日本では23.2%だが、アメリカ合衆国では56.9%と過半数、ドイツでも50.0%と半数を計上している。
具体的なトラブルの内容としてもっとも多いのは「誤解」、具体的には自分の発言が自分の意図とは異なる意味で他人に受け取られてしまったなどが挙げられており、日本では13.6%、アメリカ合衆国ではほぼ2倍の26.4%。大よそ文字でのやり取りとなるソーシャルメディアでは生じがちなトラブルだが(画像や動画でもリアルタイムでのやり取りではないため、発した意図とは異なる受け止められ方をする可能性はある)、この誤解がけんかや炎上などに連鎖する可能性もあり、困った話には違いない。
第2位は「けんか」、具体的にはネット上で他人と言い合いになったことがあるというもの。単純に自分か相手がけんかっ早い、元々考えが対立的な場にあって双方とも攻撃的だったなどのケースが考えられる。そして「不本意な他人中傷」、具体的には自分は軽い冗談のつもりで書き込んだが、他人を傷つけてしまったというもので、こちらも日本は低め、他の国では高め。ただしアメリカ合衆国が他国と比べて有意に高い値を示しているのが興味深い。
具体的項目の上位「誤解」「けんか」「不本意な他人中傷」はいずれも、発信者側の書き込みによる情報発信時の意図のすれ違いによるところが大きいもの。不思議なことにこの傾向はどの国でも共通している。この傾向について白書では次のように分析している。
ソーシャルメディアの情報発信者が多く経験したトラブルは、相手から攻撃されたり被害を受けたりすることよりも、自分の発言が異なる意味で取られたり、相手と言い合いになったりする場合である。これらは、互いの顔の見えない、匿名の場合は相手の背景が見えないインターネット特有のコミュニケーションの難しさが原因となっているといえよう。
相手の正体がはっきりとは分からない、場合によっては意図していない相手にすら到達してしまう、手探りの中でのコミュニケーションの難しさが、ソーシャルメディアにおける情報発信者のトラブルにつながるというものだが、説得力のある分析に違いない。
続く「暴露」、具体的には自分の意思とは関係なく、自分について(個人情報、写真など)他人に公開されてしまったとするもので、日本では4.8%、アメリカ合衆国では13.1%。似たような話として「特定」、具体的には自分は匿名のつもりで投稿したが、他人から自分の名前などを公開されてしまったなどが日本では2.4%、アメリカ合衆国では8.9%。続く「なりすまし」も含め、インターネット上のコミュニケーション特有のトラブルともいえるもので、コミュニケーション時のトラブルとしては新しいタイプに分類されると見てよいだろう。
回答率の差異こそあれど、ソーシャルメディアの情報発信者が経験するトラブルのたぐいは(今回取り上げられた国に限れば)各国共通のもので、傾向にも大きな違いは無い。それぞれの国における一般常識や社会通念の違いはあるものの、共通の問題として認識し、他国の対応策でよいものがあれば、大いに参考にすべきであると考えてもよいだろう。
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※ICTによるインクルージョンの実現に関する調査研究
日本・アメリカ合衆国・イギリス・ドイツにおいて2018年2月から3月にかけてインターネット経由で20~69歳(日本のみ20~79歳)の男女に対し行われたもので、有効回答数は日本で1200人、それ以外の国でそれぞれ1000人。10歳区切りの年齢階層と男女別で均等割り当て。
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