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皮膚疾患治療の革新:PDE4阻害薬の可能性を探る

大塚篤司近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授
(写真:イメージマート)

【PDE4阻害薬とは?その作用と効果】

PDE4阻害薬は、体内の炎症反応を抑える働きを持つ薬剤です。PDE4とは、細胞内で重要な役割を果たす酵素の一種で、この酵素を阻害することで、炎症を引き起こす物質の産生を抑えることができます。

近年、PDE4阻害薬は様々な炎症性疾患の治療に注目されています。特に、慢性閉塞性肺疾患(COPD)や乾癬、アトピー性皮膚炎などの治療に効果を発揮することがわかってきました。

これらの薬剤は、従来の治療法では十分な効果が得られなかった患者さんにも新たな選択肢を提供しています。例えば、ロフルミラストはCOPDの治療薬として、アプレミラストは乾癬の治療薬として、ジファミラストはアトピー性皮膚炎の治療薬として承認されています。

【PDE4阻害薬の血管疾患への応用可能性】

最新の研究では、PDE4阻害薬が血管疾患の治療にも効果を示す可能性が示唆されています。血管疾患の多くは炎症が関与していることがわかっており、PDE4阻害薬の抗炎症作用がこれらの疾患の治療に役立つのではないかと期待されています。

例えば、大動脈瘤の形成を抑制したり、血管の再狭窄を防いだりする効果が動物実験で確認されています。また、脳血管疾患や網膜血管疾患への効果も報告されており、今後の研究の進展が期待されます。

PDE4阻害薬の血管疾患への応用は、まだ研究段階ですが、非常に興味深い分野です。従来の治療法では対応が難しかった血管疾患に対して、新たなアプローチを提供できる可能性があります。今後の臨床研究の結果に注目していく必要があります。

【PDE4阻害薬の課題と今後の展望】

PDE4阻害薬は効果が期待される一方で、いくつかの課題も指摘されています。最も大きな問題は、副作用の発現です。特に、吐き気や嘔吐、胃腸障害などの消化器系の副作用が報告されています。

これらの副作用を軽減するため、新しい世代のPDE4阻害薬の開発が進められています。例えば、特定のPDE4サブタイプだけを選択的に阻害する薬剤や、局所投与が可能な製剤などが研究されています。

また、他の薬剤との併用療法も検討されており、より効果的で副作用の少ない治療法の確立を目指しています。例えば、COPDの治療では、PDE4阻害薬と気管支拡張薬を組み合わせることで、より高い効果が得られることがわかっています。

皮膚疾患の分野では、アトピー性皮膚炎の治療薬として承認されたジファミラストが注目を集めています。ジファミラスト(モイゼルト)は外用剤であり、全身性の副作用のリスクを低減しつつ、効果的に炎症を抑制することができます。

今後は、さらに多くの皮膚疾患への応用が期待されています。例えば、ざ瘡(にきび)や脱毛症などへの効果も研究されており、皮膚科領域での新たな治療選択肢となる可能性があります。

PDE4阻害薬の研究は日々進歩しており、今後さらに多くの疾患への応用が期待されています。特に、従来の治療法では十分な効果が得られなかった難治性の炎症性疾患や血管疾患に対して、新たな希望をもたらす可能性があります。

しかし、新しい治療法の導入には慎重な評価が必要です。長期的な安全性や費用対効果などについても、さらなる研究が求められます。医療従事者と患者さんが協力して、これらの新しい治療法の可能性と限界を理解し、最適な治療選択を行っていくことが重要です。

参考文献:

Fan, T., Wang, W., Wang, Y., Zeng, M., Liu, Y., Zhu, S., & Yang, L. (2024). PDE4 inhibitors: potential protective effects in inflammation and vascular diseases. Frontiers in Pharmacology, 15, 1407871. doi: 10.3389/fphar.2024.1407871

近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授

千葉県出身、1976年生まれ。2003年、信州大学医学部卒業。皮膚科専門医、がん治療認定医、アレルギー専門医。チューリッヒ大学病院皮膚科客員研究員、京都大学医学部特定准教授を経て2021年4月より現職。専門はアトピー性皮膚炎などのアレルギー疾患と皮膚悪性腫瘍(主にがん免疫療法)。コラムニストとして日本経済新聞などに寄稿。著書に『心にしみる皮膚の話』(朝日新聞出版社)、『最新医学で一番正しい アトピーの治し方』(ダイヤモンド社)、『本当に良い医者と病院の見抜き方、教えます。』(大和出版)がある。熱狂的なB'zファン。

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