Yahoo!ニュース

ニューカッスル・武藤嘉紀の正念場。3月3日のFA杯は大きな意味を持つ【現地取材】

田嶋コウスケ英国在住ライター・翻訳家
ニューカッスルで出番の少ないFW武藤嘉紀(写真:REX/アフロ)

イギリス時間3月3日に行われるWBA対ニューカッスルのFA杯5回戦は、FW武藤嘉紀にとって極めて大事な試合になる。

武藤が最後に出場した試合は、1月4日に行われたFA杯3回戦・ロッチデール戦。この試合で3−4−2−1の右MFとして先発したが、後半8分に腰から臀部のあたりを押さえて倒れ込んだ。顔を歪めて交代で退くその様子から、軽症でないことが分かった。

そこから約1ヶ月強、武藤はリハビリに励んだ。クラブ公式サイトが「練習復帰」と報じたのは2月12日。4日後のアーセナル戦はメンバー入りする可能性もあったが、再びベンチ外となった。この試合でクラブ広報は「練習には復帰しているが、実戦復帰するには早すぎる状態」と、武藤のコンディションを説明した。

そして、22日に行われたクリスタルパレス戦で、武藤は再びベンチ外となった。試合前、クラブ広報は「まだマッチフィットネスが足りていない」と武藤の状況を説明。実戦でプレーできる状態ではないと話した。

そのクリスタルパレス戦で、ニューカッスルは0−1の敗戦。3試合連続の無得点であっけなく敗れた。しかも、4試合連続で勝利なし。試合後のスティーブ・ブルース監督は、得点力不足に悩むチームについて次のように語った。

「おそらく、今が変え時だ。何か別のことにトライする必要がある。選手たちの努力と奮起を責めるつもりはない。だが、シュートやラストパス、クロスボールのところがうまくいかない。そこが我々に欠けている」

何かを変える時──。そんな言葉が指揮官の口から出たことから、すぐに日本人記者から質問が飛んだ。「武藤にもチャンスはあるのか?」。我々記者たちの期待とは裏腹に、59歳の指揮官は次のように短く答えた。「武藤はまだ練習に戻ってきたばかり。練習に戻ってまだ10日しか経ってない。様子を見てみよう」。指揮官の冷静な受け答えから、武藤が厳しい状況に置かれているのが分かった。

今季の武藤は、極めて厳しい状況にある。シーズン序盤こそ定期的に出番を掴んでいたが、ブルース監督が獲得を希望したFWアンディ・キャロルとFWドワイト・ゲイルのコンディションが整うと、武藤は18名の登録メンバーから外れるようになった。

決定打は、昨年9月29日に行われたレスター戦だった。1ヶ月前に行われたリーグ杯・レスター戦でゴールした相性の良さを買われ、武藤は先発出場した。ところが、27歳のアタッカーは前半にあった決定機をミス。その後に味方選手が退場処分となり、武藤は交代を命じられた。試合は0−5で大敗。試合後ブルース監督は「落胆した」と武藤のミスについて語った。この試合を境に、武藤は「ベンチ外」が続くようになった。今季リーグ戦の出場はわずか7試合で、先発はたったの2試合しかない。

ブルース監督の戦術をわかりやすく言えば、古典的なイングランド流サッカーである。ロングボールとクロスボールを多用し、最前線のターゲットマン(=CFジョエリントン)に放り込むスタイルが定着している。良く言えば、迫力がある。悪く言えば、大味で大雑把。シンプルゆえにハマった時は威力があるが、ここ数試合は、単調さが仇となり得点力不足に苦しんでいる。

前線では、そんな指揮官の好む選手がレギュラーとして起用されている。前線中央部には、長身FWのジョエリントンが君臨。サイドMFには、ミゲル・アルミロンやアラン・サン=マクシマンといったドリブルでの単独突破を得意とする選手がレギュラーに定着している。対する武藤は、ドイツ1部マインツ時代のように緻密な組織サッカーの中でプレーしてきた。今のニューカッスルのプレースタイルに合っているとは言えない。また、監督の目には、レギュラー陣より「個の力」が足りなく映っているのだろう。

ただ、不可解なのは、前線の選手たちがまったくと言っていいほど得点していないこと。CFのジョエリントンは、リーグ戦28試合に出場し、わずか1ゴールと大不振。キャロル(13試合/0ゴール)、ゲイル(11試合/0ゴール)、サン=マクシマン(17試合/1ゴール)、アルミロン(27試合/2ゴール)と、レギュラー陣がゴールを奪っていない。

それゆえ、武藤にとってFA杯のWBA戦は大きなチャンスとなる。コンディションさえフィットしていれば、ここまで武藤はカップ戦で先発起用されてきた。チームとして優先順位の落ちるFA杯であっても、結果を残すことができれば、得点力不足に悩むチームにおいて最大のアピールとなる。実際、ニューカッスルは調子を落としており、リーグ戦で降格圏が近づいてきた。ニューカッスルが、何よりも必要としているのは「ゴール」なのだ。

WBA戦前の会見で、ブルース監督は次のように話した。

「無得点が続いていることは大きな悩み。ゴールを取らなければ、勝利することができないからだ。ファンが見たいのもゴール。ここからシーズンの残り試合でゴールが取れるようになってほしい」

FA杯5回戦のWBA戦は、まさに「ニューカッスル武藤」の運命の分かれ道。ゴールを決めて、一発逆転を狙いたい。

英国在住ライター・翻訳家

1976年生まれ。埼玉県さいたま市出身。中央大学卒。2001年より英国ロンドン在住。香川真司のマンチェスター・ユナイテッド移籍にあわせ、2012〜14年までは英国マンチェスター在住。ワールドサッカーダイジェスト(本誌)やスポーツナビ、Number、Goal.com、AERAdot. などでサッカーを中心に執筆と翻訳に精を出す。

田嶋コウスケの最近の記事