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「決めたいと思っていた」。柴崎岳、バルサ戦で決めたゴールの衝撃。

豊福晋ライター
華麗なボレーを決め、ベンチへと走る柴崎。(写真:ロイター/アフロ)

 今シーズンのリーガで初の失点を喫したバルセロナのGKテア・シュテーゲンの表情が衝撃を物語っていた。

 

 呆然としながらも、どこか、これは仕方ないというような、諦めに似た表情が浮かぶ。バルセロナを相手に決めた柴崎岳のゴールは、スペイン中に大きなインパクトを与えた一撃だった。

 

 右サイドからのクロスがこぼれたところ、エリア外から迷わずにダイレクトで左足を振った。今季初めて満員となったヘタフェのホーム、コリセウムに「ガク!」の声が響いた。

ここでは自分は外国人

 「決めたいと思っていた」と柴崎は振り返る。

 「ヘタフェに来て、1部でもゴール、アシストをしたいなと。自分はここでは外国人選手。結果を残したいと考えていたので」

 これまでの試合でも比較的高い評価を受けていた。前節レガネス戦では惜しいシュートもあった。ボルダラス監督の信頼も厚い。開幕から一貫して柴崎を先発起用。日本代表のワールドカップ最終予選からスペインに戻って2日後の試合すら先発だった。

 それでも、本当の意味で信頼されるために必要なのはあくまでも結果、ゴールやアシストだと柴崎は考えていた。

 「ゴールの形はどうであれ、結果を残したかった。だから今日もゴールというポイントだけで見たらよかったと思う。もちろん勝ちたかったので、敗戦という結果は残念ですけど」

左足の精度

 様々なパターンからシュート練習を繰り返していた。

 ヘタフェに来てからというもの、練習ではFWのメニューをこなすことが多い。最前線で体を張ってハイボールに競り、FWモリーナとサイドからのクロスに合わせ、パスを受け遠目からゴールを狙う。

 ある日の練習で、柴崎の左足のシュートが面白いように、ことごとく決まったことがあった。監督やコーチが手を叩いて鼓舞する。バルサ戦のゴールも、昨年のクラブワールドカップ決勝レアル・マドリード戦のゴールもすべて左足。利き足ではない左で決めている事実を指摘する地元メディアもある。

 得点力は、ボルダラス監督が柴崎に期待する点だ。彼はこんなことを話していた。

「中盤で多くのポジションをこなせることは分かっている。ただ、私はガクをできるだけゴールに近い位置で使いたい。彼にはエリアに入っていく力、ゴールを決める力がある」

 指揮官は一貫してFWのモリーナに近い、セカンドトップのようなポジションで起用し続け、バルサを前についに結果につながった。

 

ゴールを喜んでくれる人たちに

 いいことばかりではなかった。

 柴崎は後半早々に左足を負傷し交代。試合後には病院へ直行し検査を受けている。攻撃の主力として定着しているだけに、検査結果次第ではヘタフェの今後にも関わってくる。監督にとっても気になる点だろう。

 

 試合は自力で勝るバルサがデニス・スアレスとパウリーニョのゴールで逆転勝利。柴崎の1部初得点が勝ち点3に結びつくことはなかった。

 しかしコリセウムを揺らしたゴールは、その夜スペインで何度も繰り返し放送されるトピックになった。バルサを最後まで苦しめたヘタフェも評価され、選手たちは自信をつけたはずだ。柴崎にとって、チームにとって、大きな意味を持つ試合だった。

 ゴールの余韻に浸ることなく、柴崎はすでに先を見ている。

「これからまたゴールを重ねていきたい。バルサ戦のゴールはそのひとつになれた。ただ、満足せずにやっていかないといけない。もちろん、今日のように決めたゴールを見て喜んでいる人がいるのは嬉しい。続けていくだけですね」

 ゴールを決めた後、ベンチに向かって走った。いつも陽気なMFファジルが背中に飛び乗ってくる。チームメイト、スタッフの祝福が終わると、メインスタンドをまっすぐ向き、胸のエンブレムを3度叩いた。

 視線の先には、10番の名を叫びながら抱き合う青いサポーターの姿があった。

ライター

1979年福岡県生まれ。2001年のミラノ留学を経て、ライターとしてのキャリアをスタート。イタリア、スコットランド、スペインと移り住み、現在はバルセロナ在住。伊、西、英を中心に5ヶ国語を駆使し、欧州を回りサッカーとその周辺を取材する。「欧州 旅するフットボール」がサッカー本大賞2020を受賞。

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