WHOの自殺報道ガイドラインと日本のマスコミの対応
10年以上も前にWHOは世界の報道に向けたガイドラインを発している
次に示すのはWHO(世界保健機構、World Health Organization)が今から13年前の2000年に勧告した、「連鎖自殺を予防するための、メディアに対する自殺報道の有り方」(PREVENTING SUICIDE A RESOURCE FOR MEDIA PROFESSIONALS(PDF))と、それをまとめたNPO法人自殺対策支援センターライフリンクによる解説記事「いじめ自殺」の報道について改善を求めますからの抜粋。
1)やるべきこと
・自殺に代わる手段(alternative)を強調する。
・ヘルプラインや地域の支援機関を紹介する。
・自殺が未遂に終わった場合の身体的ダメージ(脳障害、麻痺等)について記述する。
2)避けるべきこと
・写真や遺書を公表しない。
・使用された自殺手段の詳細を報道しない。
・自殺の理由を単純化して報道しない。
・自殺の美化やセンセーショナルな報道を避ける。
・宗教的、文化的固定観念を用いて報道しない。
元々一定の倫理観の基に自殺報道は行われていたが、今勧告がなされてから諸外国もこれを参考に、あるいは独自にさらに厳しいガイドラインを設け、報道には細心の注意を払っている。
翻って日本はどうだろうか。「為すべきこと」をどれだけ為しているか。「避けるべき」ことをどれだけ避けているか。読み返した上で、現状の報道姿勢を見ると、「むしろ逆の対応をしていないか」との感想が出る人も少なくないはず。
守られていない理由は多数考えられる。「ガイドラインそのものを知らない」「ガイドラインに従った報道にはコスト(手間暇)がかかる」「厳守した上で番組を作る方法を知らない」そして何よりも「視聴率を稼ぎたい」「自分らが守っても他局・他社が行う。正直者が馬鹿を見る(「赤信号、みんなで渡れば怖くない」)」。
「知らなかった」「初めて聞いた」は通らない
このうち、「ガイドラインを知らない」との理由は通らない。いくつかの事例を挙げておく。
自殺予防 メディア関係者のための手引き(2008年改訂版日本語版)
平成20年度硫化水素自殺事案とマスメディア報道に関する調査研究(PDF)
●報道機関に対する世界保健機関の手引きの周知
マスメディアの適切な自殺報道に資するため、世界保健機関が作成した自殺予防に関する「自殺予防 メディア関係者のための手引き」(以下「手引き」という。)を報道各社に対し周知することとしている。
内閣府及び自殺予防総合対策センターのWebサイトに「手引き」を掲載して、その周知を図っている。また、自殺予防総合対策センターにおいては、メディア従事者を対象としたメディアカンファレンスを実施し、自殺や精神疾患について適切な報道がなされるよう支援を行っている。
特に最後の「自殺対策白書」については毎年定期的に刊行され、そのたびにメディア報道に対する留意・啓蒙事項が設けられている。「知らなかった」では済まされない話である。
また以前関連報道が問題視された際、NHK広報局に対して有志の方が問い合わせたところ(「カンファレンスを実施」...WHOの自殺報道ガイドライン、日本のマスコミは「知らない」ことはありえない)、NHKの姿勢としては「日本放送協会番組基準 第1章・第9項」にある「人命を軽視したり、自殺を賛美したりしない」のガイドラインに従い、報道を行っているとの回答が寄せられている。
果たしてNHKがそのガイドラインに従っていると「第三者が公平な目で見た内容で」各情報を伝えているのか。他局がどのような姿勢、対応をした上で報じ、その内容は上記にあるような注意事項・留意内容に適しているのか。それは視聴者一人一人が考え、判断すべきことであり、今記事ではジャッジは行わない。
ただし、各報道で伝えられている通り、そして統計データの上でも裏付けられている通り、日本における自殺率は高い。WHOの統計データによれば、人口10万比の自殺率統計(2011年、取得最新値)では、日本は男性で11位、女性で5位(統計値が確認できる国は105か国)という高い位置にある。
この高い値を占める理由は多様に挙げられており、一つに限定することは出来ない。しかし、もし仮に、日本の報道の仕方がこの自殺率の高さと相関、因果関係があることが確認されたら、各報道はどのような姿勢を見せるのだろうか。
もっとも、そもそも論として、そのような配慮・思慮を有する組織であるのなら、昨今のような状況にはないだろう。