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トランプ暗殺未遂事件やプーチン暗殺計画発覚で北朝鮮が「金正恩警護」を強化 内なる敵と外の敵を警戒!

辺真一ジャーナリスト・コリア・レポート編集長
水害被害者平壌歓迎集会(朝鮮中央通信から)

 夏季の軍事演習としては史上最大規模の米韓合同軍事演習「乙支フリーダムシールド(自由の盾)」がスタートしたが、北朝鮮は7月に起きたトランプ前大統領の暗殺未遂事件とほぼ同じ時期に発覚したウクライナによるプーチン大統領の暗殺計画に衝撃を受けたのか、金正恩(キム・ジョンウン)総書記の身辺警護を一段と強化している。

 「最高尊厳」と称されている金総書記の警備、護衛は党、政府、軍内の担当部署がそれぞれ担っている。主に党中央委員会護衛処、国務委員会護衛局、それに最高司令部護衛局の3つである。いずれも「金正恩第一親衛隊」、「金正恩第一決死隊」と呼ばれている先鋭組織である。

 国家首班である国務委員長を兼務している金総書記の視察や儀典の警護を担当しているのは国務委員会護衛局(総局長:金哲圭(キム・チョルギュ)上将)である。警護の「最後の砦」と称されている金総書記のボディガード(SP)である。

 北朝鮮のSPは2022年7月に起きた安倍晋三襲撃事件以後、金総書記に密着して警戒にあたり、また、岸田文雄首相のSPを真似し、銃撃や投石などを防ぐため黒いカバンを手にしているが、最近ではSPの数の急増が目につく。それも外遊先ではなく、金総書記を「最高尊厳」として「全人民が敬っている」と喧伝している国内での光景だ。

 これまでも国内ではトランプ前大統領や文在寅(ムン・ジェイン)前大統領と板門店で会った際に軍事境界線上ということもあって12人ものSPが金総書記の車に併走しながら警護したりしていたが、最近は国内での視察でも随行するSPの多さが際立っている。

 直近のケースでは平壌で8月6日に行われた平安北道など水害被災地への青年突撃隊の派遣式典で金総書記の車を前後3台が護衛して到着する場面があった。

金総書記の車をガードする後方の2台の護衛車(朝鮮中央テレビから)
金総書記の車をガードする後方の2台の護衛車(朝鮮中央テレビから)

 先導車には金哲圭(キム・チョルギュ)総局長が乗車し、後方2台には計8人のSPが乗り込み、そのうち6人が窓の外に身を乗り出し、いつでも飛び出せるような厳戒態勢を取っていた。

 また、同じく平壌市内で8月15日に開かれた被災地からの疎開者を歓迎する集会では金総書記に近づかないよう柵をもうけ、SPらが1メートル間隔でずらっと並んで四方八方群衆らに目を光らせていた上、青色の絨毯の上を歩く金総書記を6人のSPが取り囲んでいた。

 約1万5千人の被災民が平安北道・新義州や慈江道、両江道など中国と国境を接している地域から滅多に来ることのない平壌に入ってきたこともあって体制に不満を抱いているかもしれない不満分子や金総書記に恨みを持つ脱北者ら不穏分子が越境し、被災者の中に紛れ混んでいる可能性も想定しているがゆえに警備を厳重にしているものとみられる。

 それだけではない。金総書記の動静が晒されることから水害による国内の混乱に付け込んで外部勢力による金総書記へのテロも同時に警戒しているようでもある。

 韓国には2017年に創設された金総書記の「斬首作戦」を遂行する「特殊任務旅団」という名称の部隊がある。具体的には、平壌に侵入し、唯一核兵器発射命令の権限を有する金総書記を除去することを任務としている。

 この特殊任務旅団が編成されたのは朴槿恵(パク・クネ)政権下の2016年である。朴大統領はこの年の9月9日に北朝鮮が5回目の核実験を行ったことに激怒し、約2週間後の9月22日に大統領府で開いた首席秘書官会議で「政府は金正恩の核とミサイルへの執着を断ち、国と国民を守るためにできるすべてのことを行う」と強調していたが、この「できるすべてのこと」のオプションの一つが金総書記の首を取る作戦であった。

 金総書記の命を虎視眈々と狙っているのは何も韓国だけではない。

 米国にもイスラマバード郊外のアボタバードにある邸宅でビン・ラーディンを殺害したNavySEALsの部隊など特殊作戦を遂行する部隊が幾つもあり、上層部がゴーサインを出せば、いつでもスタンバイできる状態にあり、実際に米軍特殊部隊は韓国の特殊部隊と合同軍事演習を行う度に北朝鮮の内陸部に深く侵入し、要人の暗殺、拉致のほか主要施設を破壊する訓練を実施してきている。

 尹錫悦(ユン・ソクヨル)大統領は今年の「8.15」(光復節)演説で韓国が夢見る統一は自由主義体制下の統一であることを強調していた。「自由主義統一」とはドイツ型統一を指している。瓦解した社会主義の東ドイツを自由、資本主義の西ドイツが吸収したパターンである。

 当然のごとく、吸収統一を実現するには金正恩政権の破綻、瓦解が前提となる。そのためには心理作戦を展開し、陰に陽に金政権を揺さぶり、弱体化させ、自滅させるか、それがだめならば、最終手段として金総書記の暗殺という禁じ手も政権内では検討されているようだ。

 尹政権は昨年2月の国防白書で「金正恩政権」を「主敵」と定めただけでなく、尹大統領自らが「核実験という挑発を行なえば、(金正恩)政権の末路に繋がる」と口にしていただけに北朝鮮が米大統領選挙前に7度目の核実験を強行すれば、尹政権はあらゆる手段を使ってでも金総書記の除去を真剣に検討することになるであろう。

 なお、北朝鮮のスパイ摘発組織「国家安全保衛部」の発表では2008年12月に金正日(キム・ジョンイル)前総書記への「韓国スパイ」によるテロ未遂事件が、また、2017年5月に「米CIAと韓国国家情報院の指令による最高首脳部への国家テロ未遂事件」があったとされている。昨年も韓国紙「東亜日報」(8月17日付)によると、6月に平壌近郊で爆弾テロがあったようだ。

ジャーナリスト・コリア・レポート編集長

東京生まれ。明治学院大学英文科卒、新聞記者を経て1982年朝鮮問題専門誌「コリア・レポート」創刊。86年 評論家活動。98年ラジオ「アジアニュース」キャスター。03年 沖縄大学客員教授、海上保安庁政策アドバイザー(~15年3月)を歴任。外国人特派員協会、日本ペンクラブ会員。「もしも南北統一したら」(最新著)をはじめ「表裏の朝鮮半島」「韓国人と上手につきあう法」「韓国経済ハンドブック」「北朝鮮100の新常識」「金正恩の北朝鮮と日本」「世界が一目置く日本人」「大統領を殺す国 韓国」「在日の涙」「北朝鮮と日本人」(アントニオ猪木との共著)「真赤な韓国」(武藤正敏元駐韓日本大使との共著)など著書25冊

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