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ビデオ判定拡大の前に、審判員でない第三者による確認と判断の導入が必要だ

豊浦彰太郎Baseball Writer
自分の判定を機械を使用しレビューさせ、場合によっては否定させるのはおかしい(写真:ロイター/アフロ)

今季からビデオ判定の適用領域が拡大されるようだ。従来は、本塁打か否かなど外野フェンス間際の判定が難しい打球のみが対象だったが、これからは本塁上でのクロスプレーもリプレー映像による検証の対象とすることが実行委員会で決定された。ぼくは、現状のプロセスのままでの適用範囲拡大に反対だ。その理由を記したい。

そもそもビデオ判定により判定精度を向上できる対象とは何か?それは、1)プロの審判員も人間である限り完璧には避けられないヒューマンエラー、2)物理的に肉眼での判断の限界を超えた領域、ということだろう。ぼくは、この1)と2)は不可避的なものとし続けた方が野球は面白いと思うのだが、それは本件とは別の議論なのでここでは触れない。

問題は、ビデオ判定を採用するプロセスだ。今回の決定でもその適用は従来通り「責任審判員が必要と認めた場合」のみで、「リプレー確認を審判員が行う」ことになる。これでは、審判員があまりに可哀想だ。

「責任審判員が必要と認めた場合」とは何か?それは一旦下された判定を不服としたチームの監督から猛烈に抗議された場合だろう。しかも、それでも「必要と認めない」こともルール上は可能だ。MLBのように、(回数制限はあるが)ビデオ確認を要求する権利が監督にあるならそのプロセスは事務的に淡々と進めることができる。しかし、NPBの場合は審判員がガンガン責められ「やっぱり、自信がないなあ」となって初めてビデオ確認となる。これは審判員に屈辱を強いる行為である。

また、ビデオ確認を行いその結果判断を下すのも審判員だ。そもそも一旦判定を下した審判員(グループ)に自らの判定の正誤判断を委ねるのは適切ではない。バイアスがかかっており、公正中立な立場ではないからだ。MLBではこの判断はビデオセンターに配置された別の担当者が行う。また、自分たちの能力で下した判定を自分たちの能力を超えるデバイスを使用しレビューさせ、ケースによっては自己否定させるというのは審判員へのリスペクトを著しく欠くプロセスだ。MLBだけでなく、大相撲でも判定を覆す権利を有しているのは審判員(行司)ではない。

まとめると、ビデオ判定はその実施基準が明確で判断を下すのは審判員以外であることが前提だと思う。それが予算的、設備的に難しいのなら、本来まだビデオ判定を導入すべきではなかったのだろうし、また拡大すべきでもないと思う。

Baseball Writer

福岡県出身で、少年時代は太平洋クラブ~クラウンライターのファン。1971年のオリオールズ来日以来のMLBマニアで、本業の合間を縫って北米48球場を訪れた。北京、台北、台中、シドニーでもメジャーを観戦。近年は渡米時に球場跡地や野球博物館巡りにも精を出す。『SLUGGER』『J SPORTS』『まぐまぐ』のポータルサイト『mine』でも執筆中で、03-08年はスカパー!で、16年からはDAZNでMLB中継の解説を担当。著書に『ビジネスマンの視点で見たMLBとNPB』(彩流社)

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