「今あったらなぁ」のバイク達(6)【スズキ・GSF1200】早すぎた油冷ビッグネイキッドの異端児
今のバイクは素晴らしいけれど、昔にも優れた楽しいバイクがいろいろあった。自分の経験も踏まえて「今あったらいいのになぁ」と思うバイクを振り返ってみたい。第6回は「スズキ・GSF1200」について。
最速マシンGSX-R1100由来の油冷エンジン
1990年代はビッグネイキッドの時代だった。レプリカブームに沸いた80年代の熱狂が一段落し、下降線を辿りつつあった2輪業界に再び活力を与えたのが90年に施行されたオーバー750cc解禁である。先陣を切ったホンダが92年に「プロジェクトBIG-1」と題してCB1000SFをデビューさせると、ヤマハも94年にXJ1200を投入。
カワサキはその潮流を見越したかのようにゼファーシリーズを先行させ、すでに大きな成功を収めていた。
そんな中、やや遅れてビッグネイキッド戦線に参入したスズキが95年、満を持して投入したのが油冷エンジンを搭載したGSF1200だった。そのルーツは86年に当時世界最速のメガスポーツだった初代GSX-R1100に搭載されていた油冷並列4気筒エンジンで、排気量を1156ccに拡大して搭載。
思い切った発想でライバルを凌駕
ライバル勢が一様にツインショックを装備した伝統的ジャパニーズ・スタンダード・スタイルに固執したのに対し、GSFはリンク式モノショックを備えた前傾シェイプのシルエットが特徴だった。
車格も威風堂々のライバル勢に対しひと回り以上コンパクトで、1435mmのショートホイールベースと231kgというクラス最軽量を実現。最高出力は97psとGSX-R1100の143psに比べると大幅ディチューンとも言えるが、それでもクラス最強レベルを発揮。名を捨てて実を取った、と言っては失礼だろうか。
昔気質なビッグネイキッドが全盛を極めた時代にあって、思い切った発想で攻めに出たのである。
国産初の元祖ストリートファイター
ちなみにライバルたちのスペックと見比べてみると、CB1000SFはホイールベース1540mm/車重260kg/最高出力93ps、XJR1200は同1500mm/255kg/97ps、ゼファー1100は同1490mm/271kg/91psとなっていて、性能面でもGSFの優位性は際立っていた。
パワーユニットが世界最速を狙ったGSX-R1100由来であることからして、他のビッグネイキッドとは出自が異なるのだが、その意味でもGSFは国産初の“ストリートファイター”(欧州で生まれたスーパースポーツ由来のネイキッドの総称)だったと言えよう。
トルクの怪物
実際のところ、走りっぷりも従来のネイキッドとは一線を画していた。注目すべきはやはりエンジンで、なんと4000rpmで最大トルクを発生する4気筒としては稀有な低速トルク型。油冷独特のゴリゴリとした骨太な回転フィールが持ち味で、アクセルを開けさえすれば何速・何回転からでも怒涛の加速が得られた。
そんな暴れ馬のような走りに魅せられて、自分でもGSFを一時期所有していたことがある。頑丈なエンジンを利して通勤やツーリングに使い倒しつつ、しまいにはサンデーレースに参戦するほどどっぷりハマったが、弾ける低中速トルクを生かしたコーナー立ち上がりの速さは絶品。
マフラーとリヤシッョクを換えた程度のほぼノーマル状態にもかかわらず、コースによっては当時のスーパースポーツと張り合えるほどのパフォーマンスを発揮した。
見直されるべき油冷のメリット
GSFにも採用されていたスズキ十八番の油冷システムだが、元々は85年に登場したGSX-R750に世界初搭載されたのが始まりで、当時はシリンダーヘッドにオイルを直噴冷却する方式を採用していた。
水冷のようなラジエターやウォーターポンプなどの補器類を必要とせず、シリンダーを囲むウォータージャケットも持たないためエンジン自体を軽量コンパクト化できるメリットがある。その実力の高さは、デビュー年にル・マン24時間耐久レースを制し全日本TT-F1クラスで3連覇したことでも証明されている。
昨年ニューモデルとして発売されたジクサー250/SF250も久々のスズキ油冷マシン(GSFとは異なる新方式)ということで話題を集めたが、パワーを出しながらも環境性能にも優れるなど技術的進化も素晴らしく、油冷エンジンの可能性をあらためて世に示したことは記憶に新しい。
GSF1200はその特異なキャラのせいか万人受けはしなかったと思う。名機の誉れ高い油冷エンジンはその後、イナズマ1200やバンディット1200へと受け継がれたが、心躍るようなアグレッシブな乗り味は薄れていったのがやや寂しく思えた。
生まれてくるのが早すぎたのかもしれない。ならばいつの日かまた、最新の油冷エンジンを搭載した現代版GSFが復活してくれたらなぁ、と思うのだ。
※原文より筆者自身が加筆修正しています。