「スピードを出さないから必要ない」という貴方へ サーキット走行を体験する意義とは!?
私は「Webikeみんなのスクール」をはじめ、いくつかのライディングスクールで講師を務めさせていただいている。内容はバイク初心者が公道で安全に走るための知識と技術を学ぶベーシックなものから、より積極的にバイクを操って楽しむためのスポーツライディングまでいろいろ。
その中にはサーキット走行を主にしたトレーニングもある。
最近は「本格的にサーキット走行を始めてみたい」とレザースーツに身を固めた女性ライダーも増えてきたと感じるし、一方では「自分は飛ばしたいわけではないからサーキットはちょっと……」という人も少なくない。もちろん、どんなバイクライフを送りたいかは人それぞれ。
どこでどんな走り方をしたいのか個人の自由を尊重したい。
公道で250km/h超「快感を得たかった」
ただ、ちょっと気になるのは、サーキットを避けている人の中に少なからず公道を飛ばす人もいるという事実だ。先日も大阪のトンネル内で大型スポーツ同士が250km/h前後の速度で互いに接触して転倒、大ケガを負うという事故があった。
一歩間違えば、周囲を巻き込んでの大事故になっていたことだろう。死者が出なかったのが不思議なぐらいだ。当人たちの言い訳として「快感を得たかった」(もう一人は便意をもよおした)とか。言語道断の行いであることは当然だが、そこに至る心理も問題だろう。
報道によると2人とも1000ccクラスの大型バイクに乗っていたようだ。詳しい人ならご存じのとおり、現代の大型スポーツバイクの中にはその気になれば300km/hもの速度に達する公道を走るレーシングマシンのような機種もある。
アクセルひとつで人間の能力を遥かに超える別世界に連れていってくれる高性能バイクの誘惑は悪魔的だ。その性能を試してみたいという願望が心の奥底にあっても不思議ではない。
だが今回の例はまったく見当違いで自分勝手な話である。マシンの性能を試したいのであれば、思う存分スロットルを開けたいのであれば、安全管理が徹底されたサーキットで公認のレザースーツを着てルールにのっとって走るのが正統的な楽しみ方である。
公道では試せないバイクの特性が分かる
サーキット走行をする場合、それが走行会であってもスクールであっても必ず事前にルールとマナーの説明がある。ちゃんとした運営団体であれば「どうしたらバイクの性能を引き出しつつ安全にスムーズに走れるか」、逆に「どんな走り方をしたら転倒するのか」についても懇切丁寧にアドバイスしてくれるはずだ。
サーキットを経験することで、バイクという乗り物の特性や限界での挙動、どこまでが安全圏でどこからが危険な領域なのかを身をもって知ることができる。
たとえば、高速道路でフルブレーキングしたらどうなるか? コーナリング中にラインを変えたいときはどうしたらいいのか? どこまで車体を傾けても大丈夫なのか? など、知りたくても公道では試せないことが明確に分かる。
その上で、公道では体験できないような高い次元でのライディング技術や、他者を思いやり尊重するマインドを学ぶこともできる。サーキットではルールやマナーの違反は厳重注意されるし、それが守れない人には居場所がない。
もちろん、それでもモータースポーツである限りアクシデントが起きることもあるが、公道での暴走行為に比べたら100倍は安全だと思う。
サーキットでの学びは公道でも必ず役に立つ
自分が言いたいのは「飛ばしたいならサーキットへ」という単純なことではない。バイクが好きで安全に乗り続けたいのであれば、一度サーキット走行を体験しておくべきと思う。前述のとおり、サーキットで学んだバイクの特性やライディング技術は必ずストリートで役に立つ。
どんなコーナーが来ても平常心で対処できるし、そこで培われた思考のスピードと正確な操作・動作は、きっと突発的な危険を回避するシーンでも生きてくるはずだ。と同時に公道を飛ばすことがどれほど危険で愚かなことか理解できるはず。
そして、何よりもバイクでいい汗をかいている充実感やピュアな爽快感を味わえると思う。これは何も高性能マシンに限ったことではない。小排気量でもネオクラシックでも、場合によってはクルーザーであってもマイバイクの新たな魅力に気付かされるに違いない。
つまり、サーキット体験は学びの場であり、バイクライフを豊かにしてくれる糧なのだ。
最近ではレザースーツのレンタルサービスも充実しているし、自分のスクールでも普段のライディングウェアで参加できるクラスも設定している。ひとつの選択肢として、心の片隅に留めておいてほしい。
※原文より筆者自身が加筆修正しています。