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意外と知られていないドライアイスの事故に注意

倉原優呼吸器内科医
(photoACより使用)

次第に暑くなってくるこの時期、食品などの冷却にドライアイスが用いられることが多くなります。SNSが普及して「映え」を狙い、安易に使われがちでもあるので、事故を起こさないよう注意が必要です。

二酸化炭素中毒

ご存知の通り、ドライアイスは二酸化炭素を冷却して固体にしたものです。常温では固体から気体に昇華しますが、二酸化炭素を吸うと、濃度によっては気分が悪くなったり、ボーっとなったりします。

白く見えるのはほとんどが冷えた水蒸気で、それほど二酸化炭素濃度が高くなるわけではありません。SNSで大量のドライアイスを使った動画が出てくることもありますが、量が多いと相加的にリスクが高くなるので注意が必要です。

熱いお湯をかけると二酸化炭素の発生量が多くなるので、お風呂にたくさんドライアイスを入れるような真似は控えるべきです。

大気中の二酸化炭素濃度は世界平均で約0.04%です。二酸化炭素濃度は2~5%で頭痛、めまい、呼吸困難などを生じ、6~10%で頻脈、頻呼吸、11~17%で意識消失、17%以上で昏睡や死亡にいたります(1)。単独では窒素よりも二酸化炭素のほうが毒性が高いとされており、なかなかやっかいな気体です(2)。

二酸化炭素濃度が上昇すると、不快感のために自発的に換気するので、知らないうちにどんどん上昇して健康被害が起こることは、多くありません。しかし、乳幼児がいる家でたくさんドライアイスを床に置いたり、寝ている子どもを涼しくしようと思って枕元にドライアイスを置いたりするなどの行為は避けましょう。

普通自動車内にドライアイスを50kg置くと、20分後には車内の二酸化炭素濃度が22%まで上昇したという実験結果が報告されており(3)、密閉した小さな空間でのドライアイスの昇華は危険であると認識したほうがよいでしょう。

図. ドライアイスの事故(筆者作成)(イラストACより使用)
図. ドライアイスの事故(筆者作成)(イラストACより使用)

破裂事故

ドライアイスは昇華するときに体積が約750倍になります。ゆえに、密閉された小さな容器内にドライアイスがあると、圧力に耐えきれず破裂することがあります。

たとえば、ペットボトルにドライアイスを入れてフタを閉めると、破裂の危険性が高くなるので注意してください。同様に、ドライアイスを保存しようと思って魔法瓶に入れないように注意してください。本体の内圧が上がり、こちらも危険です。

魔法瓶には基本的には炭酸飲料も入れないよう注意書きされていると思いますが、これは二酸化炭素が瓶内に充満して、フタが開かなくなったり、開けた時にフタが飛んでしまったりする危険性があるためです(※)。

※近年、大手メーカーから炭酸飲料対応魔法瓶が発売されています。ご使用の製品の取扱説明書を必ず読んでください。

誤飲

まれながら、特に子どもの場合、ドライアイスを食べてしまう事故が起こりえます。ドライアイスは一見すると氷に見えることもあり、誤って飲み込まないよう注意したいところです。ドライアイス単独だと口にひっつくのでなかなか飲み込めませんが、小さいドライアイスだと、水と一緒に飲み込める可能性があります。

誤ってドライアイスを飲み込んでしまうと、胃の粘膜に出血や潰瘍を形成する可能性があります(4,5)。

ドライアイスを入れて炭酸水を作っている人を見たことがありますが、そもそもドライアイスは食品として作られていませんので、衛生上の観点からも避けた方がよいと思います。

凍傷

ドライアイスは皮膚にくっつくと凍傷を引き起こします。無理にはがそうとして、皮膚がめくれることもあります。

触れた部分をぬるま湯につけて、ゆっくり温めてください。水ぶくれなどの皮膚症状が強いときは、ガーゼなどで保護をして、医療機関を受診してください。

冷凍食品が入った宅配用の保冷用機やビニール袋などには、安易に手を突っ込まず、中にドライアイスが入っていないか確認しましょう。もしドライアイスがある場合、厚手の手袋などを使って、直接手で触れないようにしてください。

(参考)

(1) Langford NJ. Toxicol Rev. 2005; 24: 229−35.

(2) 服藤恵三、他. 日法医誌. 1989; 43: 424-9.

(3) 乗峯絵里、他. 中毒研究. 2009: 22; 121-4.

(4) Shirkey BL, et al. J Pediatr Gastroenterol Nutr. 2007; 45: 361-2.

(5) Li WC, et al. Gastrointest Endosc. 2004; 59737-8.

呼吸器内科医

国立病院機構近畿中央呼吸器センターの呼吸器内科医。「お医者さん」になることが小さい頃からの夢でした。難しい言葉を使わず、できるだけ分かりやすく説明することをモットーとしています。2006年滋賀医科大学医学部医学科卒業。日本呼吸器学会呼吸器専門医・指導医・代議員、日本感染症学会感染症専門医・指導医・評議員、日本内科学会総合内科専門医・指導医、日本結核・非結核性抗酸菌症学会結核・抗酸菌症認定医・指導医・代議員、インフェクションコントロールドクター。※発信内容は個人のものであり、所属施設とは無関係です。

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