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いときんさんの言葉の馬力

中西正男芸能記者
インタビューに答えるいときんさん(2015年12月、中西正男撮影)

 2013年、大阪市内のはずれに作られた「ET-KING」の事務所兼新スタジオに、事務所開きのお祝いで訪れた。

 今から10年ほど前、筆者がデイリースポーツの記者をしている時からメンバーとは公私ともに付き合いがあり、スタジオができる前から「メンバーやスタッフが自ら作業にあたって作ったスタジオなんです」とは聞いていたが、非常にオシャレな空間で「音楽スタジオって、手作りできるものなんだ」と驚いたのを今でも鮮明に覚えている。

思いもよらぬものが…

 そして、もう一つ、強烈に記憶にあるのが、音楽スタジオには似合わないものが無造作に置いてあったこと。プロレスの道場にあるような、本格的で、そして、使い込んでサビが浮き出ているベンチプレスの器具だった。

 そこに、のっそりと出てきたのがいときんさん。音楽スタジオと使い込んだベンチプレスの組み合わせには違和感たっぷりだったが、元柔道家で総合格闘技もやっていて岩のようにゴツイいときんさんと、ベンチプレスの組み合わせはしっくりくることこの上なしだった。

 いつものように「正男さん、相変わらずエエ体してますねぇ」とうれしそうに握手を求めてくる。こちらの手をへし折らんばかりに握りしめてくる。こちらも負けじと握り返す。いときんさんは格闘技。僕は大学までラグビー。種目は違うが、なんとも言えぬ男の交流を感じるのがこの握手だった。

割愛する部分がない

 見た目はいかつくて、迫力満点。しかし、紡ぐ言葉は繊細かつ豊潤。何度となくインタビューをしてきたが、いときんさんの記事を書くのには時間がかかった。録音したレコーダーをもとに文字起こしをするのだが、通常のインタビューよりも、この作業に時間を要した。というのは、話す内容全てに含蓄とメッセージ性がありすぎて、割愛する部分がない。さらに、言葉に奥行きがあるので、単なる文言だけでなく、その奥にある意味を補足的に書き添えておかないといけない。普段の何倍も時間をかけて、全てをすくい取らねばと思うくらい、馬力のある言葉を使う人だった。

 メンバーのTENNさんが2014年9月に亡くなり、それから1年数ヵ月が経った頃、事務所でインタビューをした。その時の取材メモを振り返ると、今でも声がよみがえってくる。

 「僕らはずっと大阪・大国町でメンバーみんなで共同生活をしていたこともあって、どこか“みんながおって当たり前”と刷り込みのように、無条件に思ってきた。ただ、今回、TENNのことがあって、それがガラッと変わりました。“いるのは当たり前ではない”。心底、それを感じました。切なくもあるけど、新しい思いも出てきたんです。好きなもんとおれる時間は、とんでもなく貴重で、とんでもなく幸せなものやと思えるようになりました」

 ドスがきいているのに、とんでもなく優しい。そんな声がさらに続く。

 「TENNがおらんようになってからは、正味、ホンマに、しんどかったです。今振り返っても、死んでから半年くらいは覚えてないんです。記憶がとびとびにしかない。つらすぎて。でも、吹っ切れたのがTENNの母ちゃんの言葉でした。それで心がスーッと楽になったんです。『大丈夫やで。離れてないから。また会えるし。ちょっと遠いところにおるだけや』と」

芸能記者

立命館大学卒業後、デイリースポーツに入社。芸能担当となり、お笑い、宝塚歌劇団などを取材。上方漫才大賞など数々の賞レースで審査員も担当。12年に同社を退社し、KOZOクリエイターズに所属する。読売テレビ・中京テレビ「上沼・高田のクギズケ!」、中京テレビ「キャッチ!」、MBSラジオ「松井愛のすこ~し愛して♡」、ABCラジオ「ウラのウラまで浦川です」などに出演中。「Yahoo!オーサーアワード2019」で特別賞を受賞。また「チャートビート」が発表した「2019年で注目を集めた記事100」で世界8位となる。著書に「なぜ、この芸人は売れ続けるのか?」。

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1999年にデイリースポーツ入社以来、芸能取材一筋。2019年にはYahoo!などの連載で約120組にインタビューし“直接話を聞くこと”にこだわってきた筆者が「この目で見た」「この耳で聞いた」話だけを綴るコラムです。最新ニュースの裏側から、どこを探しても絶対に読むことができない芸人さん直送の“楽屋ニュース”まで。友達に耳打ちするように「ここだけの話やで…」とお伝えします。粉骨砕身、300円以上の値打ちをお届けします。

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