世界各国の天然ガスの埋蔵量や生産量の実情をさぐる
・天然ガス埋蔵量のトップはロシア、次いでイラン、カタール、アメリカ合衆国。
・天然ガス生産量のトップはアメリカ合衆国、次いでロシア、イラン。
・国単位で天然ガスの生産量から消費量を引くと、生産量上位国では中国のみがマイナス。
環境に与える負荷が小さく、埋蔵量の多さや技術の進歩により採掘可能な量が増えたことから、エネルギー源として重要視されている天然ガス。その埋蔵量や生産量の実情をアメリカ合衆国のエネルギー情報局(EIA:Energy Information Administration)の公開データベースの値を基に確認する。
天然ガスは輸出国と輸入国の間が陸続きの場合はその多くがパイプラインで、海をへだてた場合はLNGに転換された上で輸出入が行われる。LNGとは「Liquefied Natural Gas」、つまり液化天然ガスの略で、天然ガスを運びやすく・貯蔵しやすくするため、凝縮して液化させたもの。1959年にはじめて生産され、天然ガスの大規模な海上輸送を可能とした画期的な手法であり、天然ガスの利用を促進させるものとなった。
昨今では天然ガスは環境負荷が小さいこと、埋蔵量が原油と比べて多いこと、そして技術の進歩によってこれまで「採掘困難、採算が取れない」とされてきた「非在来型天然ガス」(例えばシェールガス…泥岩の一種である頁岩(シェール)に含まれる天然ガス)の多くが採掘可能となり、「採掘可能量」(確認埋蔵量。現在の技術で経済的に採掘できる量。採掘そのものは可能でも採算が取れないものはカウントされない)が増加していることなどから、大いに注目を集めている。
それではまず天然ガス埋蔵量トップ10。EIAでは天然ガスに関して、採掘可能量では2016年分まで世界各国のデータを収録している。そこで2016年を含む5年間の推移グラフを生成した。ただし現時点ではEIAの公開値ではアメリカ合衆国の値は2016年分がまだ未収録であることから、前回年分となる2015年分をそのまま代用する。
トップはロシア、次いでやや下がってイランやカタール、さらに下がってアメリカ合衆国、サウジアラビアが続く。この上位陣は長年変わりが無い。
あまり聞きなれない国名として目に留まるのがトルクメニスタン。同国は位置的にはイランやアフガニスタンと国境を接しているが、(今件データでは領域外だが)2009年から2010年にあたり3倍近くの増加が確認されている。これは天然ガスそのものが突然増殖したのでは無く、採掘可能な量が増えたことを意味する。同国では元々天然ガスを豊富に有していたが、昨今ではロシアだけで無くその他の周辺国(特に中国)との関係を深め、天然ガスの積極的な採掘・輸出を行っている。この積極的な開発意欲が、埋蔵量≒採掘可能量を増加させたと考えられる。
次いで年間の生産量、そしてその生産量上位の国において同国の消費量を重ねたもの。エネルギー政策は国によってまちまちなため、消費量の大きさがエネルギー関連の技術の先端性を意味するものでは無いことに注意しなければならない。なお生産量は現時点で2015年分、消費量は2014年分までが収録されている。また一部の国では値が空欄の年があるため、その部分は直近年分の具体値を代用している。複数年連続して空欄がある国では同じ値が複数続く場合もある(以下グラフも同)。
埋蔵量トップのロシアは生産量では第2位に後退。代わりにトップにはアメリカ合衆国が入っている。しかもアメリカ合衆国の消費量は増加しつつあり、ロシアとの差をさらに大きなものとしている。このままでは早晩自国埋蔵分が底を尽きてしまうのでは無いかとの懸念もあるが、「非在来型天然ガス」の開発が進んでおり(アメリカ合衆国の場合はいわゆるシェールガス)、これが需要を大いにカバーしている。また、このタイプのガスにより国内需要分のかなりの部分を充足できる状況となりつつあり、同国のエネルギー政策に変化が生じていることにも注目したい。
あくまでも天然ガスのみ、しかも単純計算ではあるが、生産量10か国において生産量から消費量を引いた結果をグラフ化したのが次の図。プラスならば天然ガスが余っている、マイナスならば足りない計算になる。
ロシアがヨーロッパ各国にガスを輸出している事情、中国が外交的良識を無視してまでガス田に執着する理由、アメリカ合衆国のエネルギー政策の変化が透けて見えてくる次第ではある。
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