「日本人がこんなに愛してくれている!」 五輪マスコット『ビンドゥンドゥン』を中国人が見直した理由
北京冬季五輪のマスコット『ビンドゥンドゥン』が中国で爆発的な人気となっている。
五輪開幕前はあまり話題に上らなかったが、開幕後、すぐに人気に火がつき、北京市内の公式グッズショップでは数時間待ちになったり、品切れが続出したりする事態となっている。
高値で転売しようとする業者が摘発されたり、大会組織委員会が会見で公式グッズを閉幕後の6月まで製造すると明らかにするなど、人気は今も過熱する一方だが、『ビンドゥンドゥン』が中国でここまで人気になったきっかけを作った一人とされるのが、日本人であり、日本テレビの辻岡義堂アナウンサーだ。
辻岡アナが語る『ビンドゥンドゥン』愛
辻岡義堂アナが『スッキリ』などのテレビ番組で『ビンドゥンドゥン』愛を熱く語ったところ、それが中国のSNSやショート動画などでバズり、「えっ?日本のアナウンサーがそんなにあのマスコットのことを気に入っているの?」「確かに、そういわれてみると、かわいいわ!」と急速に注目を集め始めたのだ。
日本テレビのホームページ内にある辻岡アナのYou Tube動画によると、辻岡アナが『ビンドゥンドゥン』に最初に惹かれたのは1月下旬に北京入りしたとき。
北京の空港到着後、機内の棚にダウンジャケットを忘れてしまい、すっかり落ち込んでいたときに目に飛び込んできたのが、愛らしい『ビンドゥンドゥン』だったという。
「あのフォルム、あの瞳。あの目を見ると、本当に癒されるんです。あの日、ダウンジャケットを忘れたからこそ、私は『ビンドゥンドゥン』に出会うことができ、自分も『ギドゥンドゥン』になれたのです」(動画より)
辻岡アナは連日、番組内で『ビンドゥンドゥン』愛を強くアピール。公式グッズショップで買ってきたバッジやぬいぐるみのことや、メディアセンター内で『ビンドゥンドゥン』に出会ったときの様子などを、ひらすら紹介している。
外国人からの客観的な評価
それが日を重ねるごとに中国人にどんどん伝播していき、「日本人がこんなに中国のマスコットを愛してくれているなんて、うれしい!」「かわいいキャラクターがいっぱいある日本の人にも高く評価されているほど、いいマスコットなんだ」という声が高まった。
国内の人や制作者が自画自賛するよりも、外国人による客観的な評価のほうが公平で、自分たちも素直にその声に耳を傾けることができる、というのは、日本人にも身に覚えがあることだろう。
中国人も、自分たちの国のものを見直したり、まんざらでもないといううれしい気持ちにさせられ、「そんなに高く評価されているならば」と、一気に『ビンドゥンドゥン』の人気が急上昇したというわけだ。
国産品のイメージは激変した
むろん、辻岡アナの影響だけでなく、『ビンドゥンドゥン』のヒットの理由は他にもある。
『ビンドゥンドゥン』自体がかわいくて、完成度の高いマスコットであることはいうまでもないが、ここ数年、中国の若者の間で「国潮」(国産品のブーム)が沸き起こっている、ということも関係あるだろう。
アパレルや化粧品など、さまざまな分野で、品質のいい国産品ブランドが多数立ち上がり、中国人の間に浸透している。
かつて、中国産品といえば、中国人の目から見ても、「品質が悪い」「すぐに壊れる」「センスが悪い」などと酷評されており、中国人も日本など海外製品のほうが優れていると思う面が多かったが、ここ数年でそうしたイメージは激変した。
中国国内に品質がよく、センスもいい製品が増え、海外製品よりも国産品に魅力を感じる中国人が増えているのだ。
アニメなどでも良質な作品が次々と生まれ、日本でも中国アニメがヒットしているということからもわかるように、中国市場は明らかに変わってきた。
マスコットなども同様で、以前、国内の遊園地などにあるキャラクターは「顔がかわいくない」「中国のマスコットは欲しくない。日本のマスコットのほうがいい」という評価もあったが、今ではそんなことはない。
中国のマスコットも世界に通用するくらいかわいくなった、ということが、辻岡アナの猛烈な『ビンドゥンドゥン』愛によって、証明されたのだ。
赤ちゃんパンダのイメージ
『ビンドゥンドゥン』は北京五輪組織委員会によるコンペティションで、中国内外から寄せられた約6000点の応募作品から選出され、専門家によって審査された。
最終的に、中国の広州美術学院のチームが、赤ちゃんパンダをモチーフとしたマスコットを制作し、『ビンドゥンドゥン』が誕生した。
『ビンドゥンドゥン』が日本人からも評価されているということは中国人にとって大きな自信になり、誇らしいに違いない。
中国語で辻岡アナの名前を検索すると…
ちなみに、余談だが、中国の検索サイトで辻岡アナのことを調べていたら、日本国駐重慶総領事館のサイトに目が留まった。
そこには「『ギドゥンドゥン』こと、辻岡義堂(アナの)姓、辻は何と読む?」というおもしろいエッセイが載っていた。
そこで思い出したのだが、中国語には「辻」という漢字は存在しない。「辻」はもともと日本にしかない日本独自の漢字だ。
私の大学時代、クラスメートに「辻さん」という人がいたのだが、中国語の先生がその友だちを中国語で呼ぶ場合は、いつも「十」(シー)(中国語の発音ではshi、2声)と読んでいた。しかし、今では中国語で検索しても「辻」という文字が出てくる。読み方は同じく「シー」だ。
調べてみたら、2000年頃に発行された中国の辞書に初めて「辻」が登場。「日本で十字路という意味。日本人の姓に使われる。日本の漢字」という説明で掲載されているということがわかった。
今、中国語のサイトで「辻」と打ってみると、検索予測で、なんと「辻岡義堂」が出てきた。
辻岡アナのおかげで、私たちは中国の五輪マスコットの詳細を知ることができたが、中国人の中にも、一躍有名人になった辻岡アナの影響で、日本には「辻さん」や「辻岡さん」という苗字があることを初めて知った人がいるのではないかと思う。