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国連「子どもの売買、児童売春、児童ポルノ」特別報告者の発言に関する誤解について

伊藤和子弁護士、国際人権NGOヒューマンライツ・ナウ副理事長

■ 特別報告者の来日

国連「子どもの売買、児童売春、児童ポルノ」特別報告者のマオド・ド・ブーアブキッキオ氏が来日され、日本における、子どもの売買、児童売春、児童ポルノの実情について調査されました。

最近日本も時々、こうした専門家が来日するようになりました。

日本政府は「どんな国連特別報告者の調査も受け入れます」というオープンな姿勢を鮮明にしており、これはいかなる調査もなかなか受け入れようとしない国(例えば近隣では中国や北朝鮮)と対比して、人権問題についても国際的に開かれた国であるということを内外に示すものであり、とてもよいことだと国際社会から評価されています。そして、国際的な専門家が日本に来て、調査をし、国際水準に基づく勧告を出してくれることは、日本の人権状況をよくするためにも役立つものといえます。

今回はそれが、国連「子どもの売買、児童売春、児童ポルノ」に関する特別報告者だったわけです。

特別報告者は慣例に従い、最終日に記者会見を開催、そのプレスステートメントは、国連広報センターでも紹介されている通り、国連のウェブサイトでみることができます(英文)。

http://www.ohchr.org/EN/NewsEvents/Pages/DisplayNews.aspx?NewsID=16656&LangID=E

日本語で出されて報道には、以下のものがあります。

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20151026-00000053-jij_afp-int

最終的な報告書は年明けくらいになるのではないか、と予想されます。

■ 女子高生の援助交際?

ところで、特別報告者の記者会見のなかで、特別報告者が「日本の女子学生の30%が援助交際をしている」と発言していた、という話題が広がっています。

私も実は長い記者会見をインターネットで後から視聴していて(寝不足だったのでおぼろげではありますが)、そのようなくだり(通訳の発言)を聞いて、どんな根拠でおっしゃっているのだろう、と驚いたのを記憶しています。

ただ本日確認したところ、このビデオ視聴ができないようです。

国会議員の方が外務省から確認したところによれば、通訳のミスであり、13%が正しいとの話があったそうです。いずれにしても、今やビデオも見られないので客観的資料を探すのが難しい状況になっているかと思います。

私は今回、国連特別報告者の招致やアテンド、コーディネートには一切かかわっていません。

ただ、調査の一番最後のほうに、NGOを集めたヒアリングがあることを日弁連から聞き、実務家として、先日判決が出されたアダルトビデオ被害や、少なからぬAV強要の被害者がAV強要の前に経験する「着エロ」と言われる、未成年者のポルノの現状などについて情報提供できれば、という経緯で、参加をしました。

ただ、当日は、AV強要のような18歳以上の問題は、残念ながら調査の対象ではありませんでしたので、実在児童の児童ポルノが徹底していない、という実情に絞ってお話ししました。

時間の関係で私は児童ポルノについてだけお話しし、「漫画やアニメの規制はどう思うか」と聞かれたので、「日弁連は規制に反対しています」ということを紹介しました。私の記憶では、この会合の場では、誰も、何パーセントの女子高生が援助交際をしている、などという話はしていませんでした。

■ ネット上の伝言ゲーム

ところが、私がこの会合の前にSNSで、会合に参加する予定だ、という話をしていたからか、Twitter上で、「30%という話を吹き込んだのは伊藤和子弁護士」という趣旨の情報が拡散されています。

Twitterで一度、あるユーザーが、私がその情報を提供したと誤解されるようなつぶやきをされたので、私がそのような発言をした事実はないとTwitterで延べ、訂正を求めたところ、すぐに当該Twitterを削除していただき、かつ、訂正する旨再度ツイートしていただきました。

ところが、アゴラ研究所長と名乗る池田信夫氏なる人は、こうした経緯にも関わらず、「30%という話を吹き込んだのは伊藤和子弁護士」という趣旨の虚偽の情報を流しました。私は訂正と削除を求めていますが、残念ながら訂正をしないどころか「嘘つき」などと断定しています。それが拡散され、知らない人は信じ込んでしまうわけで、大変遺憾です。

こうして、全く根も葉もない事が流言飛語のように流されるので驚いています。

Twitterではこういう伝言ゲームのような激しい誤解が起きるというリスクがあることを改めて実感しました。客観的事実やエビデンスのないところで、冷静な分析もないまま、急激に犯人探しが行なわれたり断定されたり攻撃されたり、という暴走は大変危険な現象ではないかと思います。

根も葉もないことに基づいて攻撃するということでは理解が得られません。

一部には、「漫画アニメ規制強化を強く進言したのも伊藤弁護士では」としつこく言う方もいて、こちらは、Twitter上で

私は国連特別報告者のNGO会合に一参加者として参加しただけで、実在の児童ポルノについて規制が十分でないと話し、非実在規制については日弁連が反対していることを紹介し、時間の関係で買春については話してません。従って、援助交際についていかなるパーセンテージも話してません。これが事実です

と述べたところ、こちらは理解いただいたようですが、疑心暗鬼から攻撃すると、例えば主張としてはそちら側にシンパシーを感じていたとしても気を悪くして「やっぱりとんでもない人たち」ということで理解者が減ってしまうと思います。

リテラシーと冷静な議論が必要と思っています。

■ このテーマでも自由に物が言える環境が必要

このようななか、私に対する疑いがはれたとしても「では誰が言ったのか」という犯人探しが始まるのも心配です。

国連特別報告者の調査に関しては、特に人権侵害の被害者なども含む弱い立場の方から話を聞き取る機会が多いので、ジャーナリストの取材源秘匿と同様に、いつだれとどのようにあって誰がどういった、ということが公開されることはありません。

NGOは情報提供をすることができますし、政府からも意見を述べますが、特別報告者は国連が選任した独立した専門家ですので、政府やNGOから独立しており、私たちから情報提供はできても、私たちの見解に従わせたり、報告内容に介入したりすることはできません。

ただ、誰からでも情報提供はできますので、皆さんの知っている情報をいつでも情報提供されればよいと思います。

この国連のウェブサイトから探していけば、特別報告者のコンタクトにアクセスできます。

http://www.ohchr.org

そして、今回は大きな間違いでしたが、このような言論空間の状況ですと、児童ポルノの漫画・アニメ規制派の方や児童買春の統計的調査をされている方(注・もしいれば、ということです。具体的に存じ上げているわけではありません)などは怖くて本当に声を上げにくいのではないか、と想像します。

アグネス・チャン氏への殺害予告も記憶に新しいところですが、彼女ほど著名でなくても、規制派で活動されている方や児童買春に取り組む方にはネット上の嫌がらせが多く、身の危険を感じることもある、と言います。

漫画・アニメを規制する、規制しない、という議論はいまも続いている議論ですが、感情的に対応し、反対派の意見を封殺して怖がらせ、黙らせるようなやり方ではなく、冷静に規制の必要性の有無、範囲、メリット、デメリットなどが議論できる、民主主義的な言論空間が保障されることを強く望みたいと思います。

漫画・アニメの規制は、表現の自由との関係で当然に緊張関係をはらみます。冷静な利害調整と議論が求められるテーマです。

■ まずは実在規制の徹底を

現行法(児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律、略して「児童買春・児童ポルノ禁止法)では児童ポルノは以下のように定義されています。

第2条3

この法律において「児童ポルノ」とは、写真、電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によっては認識することができない方式で作られる記録であって、電子計算機による情報処理の用に供されるものをいう。以下同じ。)に係る記録媒体その他の物であって、次の各号のいずれかに掲げる児童の姿態を視覚により認識することができる方法により描写したものをいう。

一 児童を相手方とする又は児童による性交又は性交類似行為に係る児童の姿態

二 他人が児童の性器等を触る行為又は児童が他人の性器等を触る行為に係る児童の姿態であって性欲を興奮させ又は刺激するもの

三 衣服の全部又は一部を着けない児童の姿態であって、殊更に児童の性的な部位(性器等若しくはその周辺部、臀部又は胸部をいう。)が露出され又は強調されているものであり、かつ、性欲を興奮させ又は刺激するもの

この「三」というのがいわゆる3号ポルノと言われるもので、児童ポルノの範囲を拡大しました。

しかし、現実には「着エロ」と言われるビデオが広範に流通していますが、3号ポルノに該当すると思われるのに、規制が十分ではありません。

私のところに相談にこられる、AV強要の被害者の方のなかにも、未成年時にジュニア・アイドル、タレントにならないか、ということでスカウトされた結果、

「着エロ」と言われるビデオに強制的に出演させられ、AVにエスカレートするケースがあります。

そのビデオは、明らかに3号ポルノに該当すると評価できるのに堂々と販売されています。

タレントになりたいという夢があったのに、大人に囲まれて、嫌といえずに作品に出ることになり、幼いため、声をあげにくい、被害にあっても救いを求められない子どもたちが多いのでないか、と懸念されます。

実在ポルノは、現実に子どもたちが被害にあっているのですから、法が現実に対応していない事態を早急に解決する必要があると思います。

■ 児童買春についても議論を深めて

児童買春については、何パーセントか、統計的数字を把握することは困難ですが、いずれにしてもゼロパーセントではありません。

今回の特別報告者の来日を機会に、私たちの社会の問題としてこの問題を改めて社会で考える機会を持ち、社会的背景はどこにあるのか、どうしたら、子どもの性的搾取・買春をなくす方向で社会が子どもたちにアプローチできるのか、実質的な議論が深められていくことを期待したいと思います。私たちの社会に苦しんでいる人たちがいるのあれば、そしてそれが社会の歪みや対応の不備に起因しているのであれば、外見をとりつくろって事実を否定したり過小評価するのでなく、真摯に向き合ってみんなで建設的に解決していく方向を考えることが大切ではないでしょうか。

■ SNS上の攻撃への対処

今回、私自身がとばっちりを受けてしまいましたが、最近、安全保障法制の件も含め、何らかの活動したり発言したためにメディアに取り上げられることになった市民の方に対するSNS上の根も葉もない攻撃や誹謗中傷などが続いているようで、最近の特徴は女性たちがそうした攻撃の被害にあっているということで、御相談も受けています。

匿名だから何を言ってもいい、Twitterだから人を根拠もなく誹謗中傷してもいい、というのは大変良くない風潮と思いますので、何らかの対応を考えていきたいと思います。

やはりこのように記事として、長く書かないと言いたいことは十分説明できませんね。

私は短文のTwitterは向いていないことがわかりましたし、たくさんくる質問に答えたり反論する時間も残念ながらありませんので、今後は告知宣伝等以外ではあまりつぶやかないようにしますので、ご理解ください。

みなさま、どうぞよろしくお願いいたします。

弁護士、国際人権NGOヒューマンライツ・ナウ副理事長

1994年に弁護士登録。女性、子どもの権利、えん罪事件など、人権問題に関わって活動。米国留学後の2006年、国境を越えて世界の人権問題に取り組む日本発の国際人権NGO・ヒューマンライツ・ナウを立ち上げ、事務局長として国内外で現在進行形の人権侵害の解決を求めて活動中。同時に、弁護士として、女性をはじめ、権利の実現を求める市民の法的問題の解決のために日々活動している。ミモザの森法律事務所(東京)代表。

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