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「挫折経験」がある人は本当に強いのか、「すくすく育ってきた人」は本当に弱いのか

曽和利光人事コンサルティング会社 株式会社人材研究所 代表取締役社長
高い障壁を乗り越えてきてこそ、人は強くなるのか?(写真:アフロ)

■「挫折経験」って何?

我々中高年世代の中には、「最近の20代は臆病で自信のないやつが多い」と言う人が少なからずいます。そして、そういう方の多くは、理由として「挫折経験の少なさ」を挙げます。

曰く、親に大事にされて何不自由なく育ったために、障害や失敗を乗り越えて成功した経験が少なく、自信の無さにつながっているというわけです。実際、いまだに結構な数の会社で「挫折経験のあるやつを採れ」という号令がかかっており、エントリーシートなどでも「あなたの挫折経験は?」という質問の欄が多数あり、すくすく育ってきた学生たちを困らせています。「挫折とかないんですけど……」「なんで『挫折経験』を聞くのか、意味がわからない」と途方にくれています。

■実は弱い「挫折経験のある人」

そんな背景で、今年も会社には人事の選考をかいくぐって一定数の「挫折経験のある人」が入って来ます。しかし、さまざまな人事の方の話を聞いたり、実際の20代と話をしたりしていると、残念なことに「挫折経験のある人」は現在では特に強くもなく、自信のある人でもないようです。

むしろ、表題のように、新しい仕事に取り組ませても、失敗を恐れて最初の一歩踏み出すことができなかったり、職場や仕事になかなか適応できず五月病になってしまったり、挙げ句の果てには早期退職したりすることさえあるというのです。「挫折を乗り越えた」は「自信」につながるのではないのでしょうか。それとも、今の世の中では通用しないのでしょうか。

■昔は確かに強かった

その理由は、昔と今とでは仕事の特徴や質が変わってしまったので、必要な自信の種類が変わったからではないかと私は思います。昔の戦後から高度経済成長を経てバブル期ぐらいまでの日本は、欧米など目指すべきものがありました。自分達で考えなくても、どうすれば勝てるのか、勝ちパターンがわかっていました。

だから、仕事で成果をあげるために必要なことは創造性というよりは、努力と根性です。行くべき方向、なすべき方法は決まっているのですから、あとはそれを他人よりもどれだけたくさん、早く、ちゃんとできるかが勝負です。こんなとき、挫折経験を経ている人は強い。あの挫折をもう二度と味わいたくないと、負けてなるものかと頑張れます。

■もう負けることができない「挫折経験者」

ところが、今はもう勝ちパターンがわかりきっているというような仕事は多くありません。試行錯誤を繰り返して勝ちパターンを見つけることから始まる仕事が増えています。こういう仕事において、挫折経験からくる「勝ちたい」人が昔のように勝てるのかというとそうはいきません。

彼らは負けたくないから、承認欲求を満たしたいから頑張るわけですが、勝ちパターンが決まっていない仕事では、何度も負け続けなくてはなりません。そうしているうちに、負け続けることに耐えられなくなって、「失敗が怖い」「もうやりたくない」となるのです。せっかく「あの挫折」から抜け出したのに、もう情けない境遇に自分の身を置きたくないということです。このように、今は必ずしも「挫折経験のある人が強い」とは言えません。

■すくすく育った人の方が強いことも

むしろ、新規事業や新商品開発のような「試行錯誤が必要な仕事」、すなわち何度も負けなくてはならない仕事は、すくすく育った人のほうが強い場合があります。ややもすれば苦労知らずで弱いと言われがちなすくすくと育った人は、挫折経験からくる「勝ちたい」「誰かに認めて欲しい」という願望がほとんどないことがあります。

彼らはそういう承認欲求ではなく、自分自身の欲求に従って生きています。多くは、知的好奇心、つまり面白いかどうか、もしくは社会的意義、つまり世の中に役に立てるかどうかがモチベーションです。そういう若者は、別に誰にどう思われようと構いません。だから勝ち負けで燃えることがない代わりに、負けても気にしない強さがある場合があるのです。

■業界や仕事によって必要な自信が違う

もちろん、不動産業界などの昔からある成熟した業界や、自動車ディーラーの営業職のようなクルマという確固たる商品を売るような仕事では、今でも「挫折経験を乗り越えた自信」「俺はあの挫折を乗り越えたんだという自信」は強いと思います。そこから来る負けん気が良い方向に働くことでしょう。

ですから、結局は仕事次第だということです。勝ちパターンが決まっていて、後は頑張り次第という場合は挫折経験者タイプが強く、勝ちパターンが決まっていなくて、試行錯誤が必要な場合はすくすくタイプが強い。このように、皆さんの会社の事業や、職場の20代達が行う仕事の特徴をきちんと考えて、どんな人が向いているのかを見極めるのが重要だと思います。どんな状況でも強いという人など、そもそもいないのですから。

OCEANSにて、若手のマネジメントに関する連載をしています。こちらも是非ご覧ください。

人事コンサルティング会社 株式会社人材研究所 代表取締役社長

愛知県豊田市生まれ、関西育ち。灘高等学校、京都大学教育学部教育心理学科。在学中は関西の大手進学塾にて数学講師。卒業後、リクルート、ライフネット生命などで採用や人事の責任者を務める。その後、人事コンサルティング会社人材研究所を設立。日系大手企業から外資系企業、メガベンチャー、老舗企業、中小・スタートアップ、官公庁等、多くの組織に向けて人事や採用についてのコンサルティングや研修、講演、執筆活動を行っている。著書に「人事と採用のセオリー」「人と組織のマネジメントバイアス」「できる人事とダメ人事の習慣」「コミュ障のための面接マニュアル」「悪人の作った会社はなぜ伸びるのか?」他。

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