多くの企業が導入している「目標管理制度」の問題点。多くの企業がMBOをやめようとしている理由とは。
■MBOは日本の代表的な人事評価制度
実際には日本での使われ方は違うのですが、経営学者ドラッカーが提唱したとされて、現在でも多くの企業で「評価制度と言えば目標管理制度のこと」と素朴に思われるぐらい広まっているのが、MBO(Management by objectives:目標による管理)とも言われる目標管理制度です。
簡単に言うと、期初に具体的な目標を立て、その目標の達成基準を作り、期末にその達成度(割合)によって評価を行うというコンセプトの制度です。慣れた人にとっては当たり前のもののようにみえますが(私もそうでした)、これのどこが問題なのでしょうか。
■目標はすぐに陳腐化してしまう
まず、現在のような環境変化が激しい時代においては、半年なり1年なりの期間の具体的な目標を立てるということ自体が無意味な場合があります。特にベンチャー企業やIT業界などは文字どおり日々変化しており、半年後のことなどわかりません。
それを無理に目標設定してしまうと、すでに環境が変化しており、期初の目標は陳腐化してしまいます。きちんとしようすれば、環境に合わせて、期初の目標を修正し続ければよいわけですが、そこまで暇な会社はなかなかなく、実際には修正されないままです。
結果、陳腐化した目標が残ったまま、期末を迎え、「本当にこの目標で評価していいのだっけ」ということになるのです。
■不公平な目標がまかり通る
うちの業界はそこまで変化は激しくないよ、というところでも落とし穴はあります。「具体的な目標」という曖昧模糊としたもののレベル感を、比較評価するグループごとに合わせることがかなり難しいということです。
同じ等級(グレード、職級等、会社によって呼び名は異なりますが、社内の「格」のことです)の人なら、同レベルの基準で評価すべきですが、これが実は難しいのです。同一等級でも期待の星の人材に対しては「君ならここまでやってほしい」、ギリギリその等級にいるという人には「少なくともここまでは頑張れよ」と目標レベルを変えてしまいがちなのです。
その人に対する期待の有無と人事制度上の目標は分けなければならず、期待がどうあっても目標難易度は同じでないといけません。ただ、日常的には、やはり期待の人には高い目標でモチベートするわけですから、必然、人事制度上の目標と、日常的な目標というダブルスタンダードが生じてややこしいことにもなります。
■目標達成後に手抜きが生じる
最も深刻なのが、「達成度」で評価をするという点です。どれだけやれば100%なのかということが決まってしまえば、100%までやった社員は当然ながら安堵して、気持ちがゆったりしてしまいます。もう少し頑張れば目標の120%はいけるかもと思っても、手を緩めて「次の期のための取っておこう」などと考えたりします。
しかし、急成長中の企業にとって、期初に決めた100%というゴールなどは「仮のゴール」にすぎません。やってみてもっともっと行けそうなら、どんどん行ってもらいたいはずです。それが会社全体の成長につながるわけなのですが、100%を決めてしまったら、会社のここかしこでブレーキを踏む社員が出てきてもおかしくありません。
■もちろんメリットもある。継続・廃止はバランスを考えて
さて、以上、目標管理制度(MBO)の代表的な問題点を挙げてみました。他にもいろいろあります。しかし、これだけデメリットがあっても目標管理制度が導入され、維持されているのはもちろんメリットがあるからです。
例えば、会社全体の目標をブレイクダウンして、部の目標、課の目標、そして個人の目標にすることで、タスクの抜け漏れがなくなります。明確な目標を立てることで、個々人が「何をすればよいのか」がわかり、足が止まることがなくなります。評価の際にも、達成度で考えることは比較的容易なので納得感の醸成がしやすいです。
要は、これらのメリットと、デメリットをきちんとみて、どちらの方が大きいのかを考えることで、自社に目標管理制度を入れることに合理性があるのかどうかを決めていけばよいのではないかということです。
どんな制度も完璧ではありません。「最も『マシ』な制度は何か」を考えるという感覚でいる方が、実は一番真っ当な姿勢ではないかと思うのです。